第五十話『奥にある感情は』
『―—今度は、裕哉があたしを守る番だよ』
その言葉を、裕哉が忘れる日は永遠に来ない。来るとすれば裕哉の命が尽きる時であり、それは絶対に梓よりも後だ。その誓いだけは、決してブレないだろうと強く思う。それが裕哉の心を締め付けることだって、ないではないが――
「……一つ、確認したいことがあるのですが」
「……ああ、どうした?」
その事実を思い返して心がじりじりと炙られている中、教師の声に裕哉は半ば投げやりに返す。その様子に苦笑を浮かべつつも、直ぐに真剣な表情を取り戻して、
「……松原君は、須藤さんと恋愛的なお付き合いをされているわけでしょう?」
「ああ、そうだな。……それをどこで知ったかは、聞かないでおくけど」
「大体見ればわかりますよ、そう言うものは。……このクラス全体のためとは言っていますが、その主眼には絶えず須藤さんがいる。クラスを救済すると言いながら、本当の狙いは不遇な立ち位置にいる彼女のため……生徒会長の立場を投げ捨てたのも、そのためといったところでしょうか」
「……大正解。探偵にでもなれるんじゃねえの?」
裕哉の中の優先順位に言及され、裕哉は肩を竦めてそう返す。そこが裕哉にとって踏み込まれたくない一線であるということは、教師からしても想像の付くことだった。
「一時期憧れていたことは否定しませんがね。……と、今回話したいのはそのような昔の話ではなく。……松原君、本当に須藤さんのことを好きでいられていますか?」
「……は?」
「守るためだと、松原君はそう言っていました。自分は愚かなのだと、償いはまだ終わっていないのだと。ええ、確かに立派な考えでしょう。自らが犯した間違いの責任を取ろうと最強の座にまで上り詰めた、素晴らしい結果だ。……その成果は、ポジティブな感情から出た物ですか?」
「……っ」
即座にそうだと言いたい。だが、それを裕哉の本能が否定する。……お前は、あの事件があったからこそ今の強さを得たんじゃないか。あんなことを繰り返さないようにと、力を得たんじゃないか。その理屈を、否定できない。
「その問いに応えられないならば、貴方の行いはすべて無意味です。今すぐにでも荷物を整え、生徒会長の座に戻ると良い。……その座にいた方が、『須藤さんを守る』という目的は簡単に達成できますよ」
「……それ、は……」
教師の言葉は正論だ。だが、裕哉の中にそうしようという気は起きない。それがいったい、どうしてなのか。
「……一緒に、居たいんだよ」
「そうじゃないと守れないから、ですか?」
「そこまで赤子扱いはしてねえよ。……ただ、どれだけ充実した生活だろうとそこに梓が居ねえと意味ないんだ、俺からしたら」
「それは、ずいぶんと我儘ですね。それだけの理由で、貴方は生徒会長の座を投げ捨てたと?」
「簡単にできたみたいに言わないでくれ。俺だっていろいろ悩んで、いろんな人と話し合って、それで……」
「でも、貴方はその決断をした。……それだけで、証拠としては十分なのではないですか?」
裕哉の言葉を――言い訳を遮って、教師はそう発言する。その言葉の要領を得ていない様子の裕哉を見つめて、教師は改めて言い放った。
「須藤さんが今のようになった理由に松原君が関わっていようが、それに対しての罪悪感があろうが、そんなことはすべて二の次です。『大好きな彼女と一緒にいられないのがイヤだから、そんな学園が気に食わないから、いっそのことクラスごと駆け上がれるような策を教えてくれ』。変に大人ぶらないで、そう聞けばいいだけなのではないですか?」
この対話は、改めてこの物語の方向性を定義する大事なエピソードとなっております。二人の思いがどこまでぶつかるのか、見守っていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また次回お目にかかりましょう!




