第五十一話『我儘に、子供らしく』
「……随分と、簡単に俺の気持ちを訳してくれるんだな?」
「その程度で充分だからですよ。罪悪感とか守りたいとか、そういう後付けの意味合いなんて今は聞いてないんです。……貴方の根底にある感情は、須藤さんへの尊敬と好意のはずだ。……それを、押し隠す必要などない」
裕哉の反論に、教師はこともなげに返す。分かったように話されることは不愉快極まりないはずなのに、それに対しての反論は裕哉の中でどれも空虚に空回っていた。
「前々から思っていましたが、松原君は少々……いやかなり達観しすぎている。もう少し子供っぽく振舞ったところで、誰も貴方を責めるものはいないでしょうに」
「子供っぽく、か。……このクラスに来た時点で、相当わがままはやってる気がするけどな?」
「そう、それでいいんですよ。我儘で来た先で、どうしてそんなに大人びる必要があるんです?」
「……っ」
教師の言葉に、今度こそ裕哉の思考が完全に停止した。裕哉がこの場所に来たのは、他の誰から見ても暴挙でしかありえない。梓ですら、その行動に驚きを隠しきれずにいたのだから。
誰かに相談すれば、間違いなく止められる。それを分かっていて、裕哉は誰にも言わずにこの選択をしたのではなかったか。それを取り繕ったのは、どこの誰だ。……裕哉でしか、ないはずだ。
「……俺、ずっと空回りしてたのかな」
「そういう訳ではないでしょう。貴方の努力は無駄ではない。ただ、そのやり場を、思いを向ける方向を見間違えてはならない、それだけの話ですから」
裕哉の問いに、教師は優しくそう答える。それに対して、裕哉は苦笑を浮かべるしかなかった。
「……先生、どうしてそこまで優しくしてくれんだよ。一週間くらい前までは反目しあってたんだぜ?」
「それはそれ、これはこれです。……それに、私も泥船に乗る覚悟はしていますから。その覚悟が無ければ、今朝の提案だって私は一笑に付していた」
冗談めかした問いかけに、教師はいたって真面目にそう答える。裕哉よりもはるかに長い年月を生きて来た重みが、裕哉に視線となって突き刺さっていた。
「私は教師で、どんな事情があれど貴方は生徒。教え導くべき対象が悩み立ち止まるなら、私は手を伸ばすのが仕事です。……悩まずにいられるのが一番の安らぎですから、私はそうあれる考え方を提示していたのですが」
「それであのクラス運営か。……まあ、少しだけ納得したよ」
上を見なければ、その空の高さに絶望することは無い。前としただけを見つめて、自分が歩ける道をしっかり選択していけば、転ぶこともない。……教師が望む安寧とは、きっとそう言うものだったのだろう。安売りされた希望に飛びついてケガをするくらいならば、ゆっくりと自分が歩める道を見定められている方がずっといい。
「その考えを叩き割ったのがあなたです。少しは後悔していますか?」
「……いや、してないな。俺は、そんなの間違ってるって思うから。諦めるには、どいつもこいつも早すぎるって思うから」
「ならば、それを貫き通しなさい。それが、私を、このクラスを揺らがせた責任というものです」
「……それは、また話が大きくなったな。当然、その責任は果たさせてもらうけど――」
苦笑しながらも、裕哉の目からは迷いが消えていた。それは、きっと教師が我儘と呼んだ感情で。子供らしく、自らの主張を貫き通す構えで。……誰よりもきっと自由な天才が、自らを縛っていた鎖を解き放った瞬間だった。
「俺は、梓が認められないこんな学園が気に入らねえ。だから、この学園のシステムを利用して、梓たちの可能性を証明する。……教えてくれ。俺は、何をしたらいい」
それは、少し前の焼き直し。だが、その眼は明確に未来を見据えていた。
これでようやく『力ずくで』証明することの開始が見えてきました。教えを得た裕哉がどのように変わっていくか、楽しみにしていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また次回お目にかかりましょう!




