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王の息子  作者: 夜雲
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とある王の日常

南のとある国。小さな島々で建国されたそこはほかの国々の間でも有名だった。

 その国は、古代魔法の結晶である魔道具を五つ所有する王が治めているからだ。

 元々、世界に古代遺跡と呼ばれるものが数多くある。そこには強力ではあるが、体への負担などの問題で廃止されてしまった古代魔法の欠片が多く残っている。

 国々によって様々であるが、どんな小国であっても一人は魔道具使いがいる。

 その中でも魔道具を五つも一人で所有しているということは、桁外れの魔力を有している事を意味しており、ほかの国々でもこの話は有名だった。

 それと同時にこの国には魔道具所有者が王のほかに九人おり、国一つで魔道具所有者の数が二桁になるところはこの国以外にいない。

 新しく出来た国であるからか、王の側近である魔導所有の多くは歳若く、十代のものも多い。

 そして、この王には渾名が幾つか存在していたがもっとも有名なものが二つあった。

 魔法王。そして、軽薄王である。


「酒が飲みたい。」

 机の上に大量に詰まれた書類を少しづつであるが、処理しながらセルフィード国の王、ゼルファン、又の名を魔法王が呟いた。

 人目を引きつける精悍な顔立ちの中で、垂れた目が甘さを引き立てている。人を引きつける明るく快活な雰囲気も、今は疲労のせいか形を潜めている。

 太陽を連想させる黄金の瞳もくすみ、腰まである陽に透かせると朱を帯びる黒の髪もぱさついている。

「ゼル、あなたは政務をサボって何呟いてるんですか?」

 そう言って政務机の書類を整理している初老の男を、ゼルは胡乱な眼で睨みつけた。

「・・・・サイラス、もう酒は解禁しても良いんじゃないか?」

 サイラスと呼ばれた男は灰色の髪ごしに、理知的な、今は冷たい印象を受ける青灰の眼でゼルを睨みつけた。

 サイラスは建国前からの付き合いで、国の重鎮の中では古株に当たる。

「それは、ファルディアに言ってください。」

 その言葉にゼルは苦虫を噛み潰したように顔をしかめ、机に顔を伏せた。

「ディアが、許してくれるわけないだろう。」

「仕事をサボって町に出ていたあなたの自業自得です。それに、あなたが酔って手を出しかけた女性からまた苦情が来ましたよ。」

 ばっさりと切り捨てられ、ゼルはがっくりと肩を落とした。

 ゼルが軽薄王と呼ばれる理由は、素面の時はそこまで出ないものの、酒が入ると悪くなる女癖のせいだ。外交のために訪れた先で、王宮の侍女に手を出したり、現地妻をつくったりと臣下の悩みのタネになっている。

 しかも救えないことに、そこまで酒に強くもないくせに酒好きで、酔っては女性に手を出すという悪循環を繰り返している。

 おまけに、天然の女たらしで普段からモテてさえいる。

 そして、三十になっても妻を迎えない理由が、初恋の女性が忘れられないからというのも、たまらないらしい。

 その傷を自分が癒そうという女性が少なくないのだ。

(まあ、そんな甘えが許されるのも、ひとえにゼルの優秀さのおかげですが。他国との結婚に頼らなくてすんでいますし。)

 そんな思いでサイラスはゼルを眺めていた。

「・・・・ゼル、政務の手が止まっていますよ?」

 入り口から聞こえてきた歳若い声に、ゼルは若干冷や汗をかきながら、目を向けた。

 そこには文官服を着た、少年にも見える青年が大量の書類を持って立っていた。その隣りには、青年より頭一つ高い男が青年と同じ様に書類を持って、静かに佇んでいる。

「ディア、それにケイ。俺は、別に・・・・」

 視線をうろうろと彷徨わせるゼルに、文官服の青年は大きく溜息を吐いた。

 文官服の青年は黒の瞳をゆっくり細め、ゼルに近づいていた。青年が歩くたびに、淡い金髪がきらきらと輝く。

 その隣りの男は、簡素な武官服に身を包み、眠そうな目でその状況を見つめている。短く刈られた緋色の髪に、飴色の目が印象的だ。

「ディア、追加ですか?」

 サイラスにそう問われた文官の青年は、大きく頷いた。

「ええ、今まで溜めてきた付けです。」

 ファルと呼ばれた青年は、ゼルがまだ遺跡探検者だった頃からの付き合いで、サイラスと同じくらいの古株だ。

 が、今年でとうとう三十路になったゼルの五歳年下であるものの、童顔のせいかまだ少年のようにも見える。背は平均よりも少し高めになったものの、実際の年齢よりもずっと若く見られるのが常だ。

「ケイはどうしたんですか?」

 サイラスの質問に、ケイは書類をゼルの政務机の上に置き、低音の声で小さく言った。

「ディアさんの手伝いで。」

 元来無口な性格のこの男は、実は建国当時から仲間内では二番目に歳が小さい。サイラスの記憶どおりなら、今年でやっと二十を超えたぐらいの年齢だ。

 そして、戦闘種族として身体能力が高い事で有名な一族の末裔であった。

「・・・・こんなの、終わるわけないだろ?」

 政務机の上に置かれた大量の書類を呆然と見詰めならがら、ゼルは呟く。

「・・・・・もし、この机の上の仕事を全てやり終えたなら、酒は解禁します。」

(ディアは、ゼルに甘いですね。)

 ディアの言葉で、勢いよく仕事を始めたゼルを呆れながら見つめ、サイラスは執務室を出た。

 どうせ勢いがいいのは最初だけで、疲労が出始めるのは目に見えている。休憩用のお茶でも用意しようと食堂の方に足を向ける。

 廊下を歩けば、城内は武官たちの掛け声や、魔導士たちの実験の音が鳴り響いている。

「・・・・・良い国に、なっているんでしょね?」

 サイラスは廊下から見える空を見上げ、小さく呟いた。

(いや、違う。良い国に、しなくてはいけないんですよね。)

 それが、サイラスが昔した、たった一つの約束だった。




父親、やっと登場!

考えていたよりダメな人になりました。

でもやるときはきっとやる、かな?

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