兄の祈り
自分の周りにいた海賊を一掃した後、ファーデルは大きく溜息を吐く。
(だいぶ減ったなあ・・・・)
その時、甲板に最大級の悲鳴が響き渡る。
声のほうに視線を向けると、そこには若い女性と、バルグードがいた。悲鳴の主はどうやら、その若い女性のようだ。
二人の周りにはまだ何人かの海賊がおり、若い女性をかばいながらバルグードは苦戦しているようで、甲板の端まで追い詰められてもいた。
ファーデルは助けに入るため、二人の下に走り出す。
もう少しで二人の周りにいる海賊と応戦できる距離まで近づくという所で、バルグードの真後ろで剣を振り下ろそうとする海賊の姿が目に飛び込んできた。
激情が体を支配していた。それは、怒りや恐怖をぐちゃぐちゃに掻き混ぜたような、強烈なものだ。
気がついたときには、長剣を振りかぶり、海賊の剣を弾き飛ばしていた。海賊はバランスを崩した。その隙にもう一度長剣を振り下ろそうとした瞬間。
海賊の片手に隠し持っていたらしい短剣を認識した。
――避けるか?
――だが、避けたらバルグードが。
――そうだ、バルグード。
――守らなくては。
――私は。
――私は“お兄ちゃん”なのだから。
ほんの一瞬の間に駆け巡る思考。
その一瞬の後に、ファーデルを身が裂かれるような痛みが襲った。
視線を下げれば、自分の腹部に刺さる短剣と、むせ返る様な鉄の臭いを認識した。
勝ち誇った顔で海賊はファーデルに視線を向けたが、その顔はすぐに怯えに染まる。
「て、手前、なんで。」
ファーデルは微笑んでいた。空恐ろしいほどの美しい微笑みを。
それに海賊は思わずたじろいてしまう。
ファーデルは相手に隙が出来た事を見逃さず、すかさず足をはらう。そして、倒れこんだ海賊の足を、手加減無しに踏みつけた。
ばきっ!!
「ああああああああああああっ!!」
海賊の絶叫を痛みにかすれる思考で感じながら、膝をついた。ファーデルはそれでもバルグードの姿を探す。
(バル、は無事、でしょうか?)
顔を上げようと、首に力を入れていると、胸倉を掴れ、無理やり上を向かされた。
目の前には見知らぬ男が憤怒の形相で立っている。
「てめぇ、よくも!」
海賊はファーデルの体を手すりの向こう、海の真上に押し上げた。
「止めろ!」
止めに入るバルグードが、海賊の目に入る。
「邪魔をするな!」
海賊の手には、どこからか取り出したのか、ナイフが握られていた。
それに、ファーデルは無意識の内に体を動かした。
体を勢いよく後ろに動かす。すると、海賊の体もファーデルの方に傾いた。
「ば、止めろ!ファル!」
バランスを崩した海賊は、そのまま海に落ちていった。ファーデルも道連れに。
「ファルゥゥゥゥゥゥゥ!」
その声に、ファーデルはほとんど閉じていた目を開けた。
ファーデルの瞳には、泣きそうな顔でこちらに手を伸ばすバルグードが映った。
(願わくば・・・・)
ファーデルは、微笑んでそれを見上げる。ばしゃんっと水の音が鼓膜を揺さぶった。
(どうか、笑ってくれると嬉しいんですが。)
唯、そんなことを願っていた。
離れ離れになった、双子。
再会はいつになることやら。




