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楓と迷惑執事  作者: 音哉
28/30

楓と奇跡


「わざとはずしたんだからな。そこをどけよ。彼氏クン」


 銃を持った男は口を開いた。男達との距離は10m。近づいてくる様子は無い。この距離だと確実に当てる事ができると言う事だろうか。


「あなた達・・・冬哉とは関係ないの?」


「はぁ? トウヤって何? その男の名前?」


 黒いスーツの男達は二人で目線を合わして笑っている。冬哉の部下のヤクザさん達と同じような服装とは言え、こちらは着崩れを起こしているかのようなスーツの身につけ方だ。


 私は一生懸命考えていた。こいつらは・・絶対に敵だ。なら冬哉は? 私は二つの組織に追われていた? なぜ? と言う理由は横に置いておこう。とにかくどちらも私が目当てなのには間違いがない。車ではねようとしたり、銃で撃ったりと・・・。怪我をさせるくらいは構わない感じか。


待って。・・・車? 私をはねようとした車はさっきヤクザさん達が乗っていたいつものリムジンでは無かったんじゃないだろうか? 一回り長さが短い、今目の前にある車のような気がする・・・。


「ったくよぅ。あのボケどもはどうしたんだ。先輩の命令だっつーのに・・・。バイクの音一つ聞こえやしない。サボってんならタダじゃおかねえ」

 

二人はもう仕事が終わったと思っているのだろうか。話を続けている。やっぱり暴走族に命令を出し、私を車ではねようとしたのはこの男達。じゃあ・・・冬哉とその部下のヤクザさん達は一体何をしに・・・。


「まあいいや。さあお嬢・・・えっと、楓ちゃんだったね。いい子だからこっちに来いよ」


 男は右手に拳銃、左手で私に向かっておいでおいでと手招きをしている。それも、もの凄くいやらしい顔でっ!


「もういいっ! なんでもいいっ! どうでもいいっ! 私は冬哉を撃ったあなた達を許さないっ! 私の・・・かわいい執事をよくもっ!」


 私は立ち上がり、冬哉の前に立つ。


「い・・・いけません楓様・・・」


 伸ばす冬哉の手は私には届かなかった。どうしてなら私は前に進んでいたから。拳銃を持つ男に向かって。


「執事を守るのは主の務めよっ!」


 男は目を丸くしていた。まさか女子高生が武器を持つ自分に向かって堂々と歩いてくるとは思わなかったのだろう。しかし、5mも歩くと私の下半身にピストルの銃口が向いた。


「多少怪我させてもいいって事になってんだよ? 止まれ。もっとゆっくり来い・・」


 それでも私は止まらない。弾なんて当たらない。当たっても、絶対冬哉を撃った奴を投げ飛ばしてやる。そう誓って歩を進めた。男の前3m程の距離にまで迫ると、男は銃口を上げた。ピストルの照準が私の頭に確実に定まっているのを私は感じ、頬を冷や汗が流れる。


[ガチャッ]


 その時信じられない事が起こった。私と睨み合っていたピストルが、地面に落ちて転がったのだ。


 男は慌ててピストルを拾おうとする。しかし、コンクリートの上に落ちているそれに向かって伸ばした右手を、顔をしかめながら縮こまらせた。


「今だっ!」


 私は少し屈んでいる男の奥襟を左手で掴む。そして自分の方へ引き込むと同時に左足で男の右足を払った。男は私に奥襟を掴まれながら前方宙返りをしてコンクリートに腰を打ちつけた。


「っ・・・・・・」


 男は気こそ失ってはいないが、腰を押さえながら沈黙した。紫藤さんに投げ飛ばされた冬哉と違って、受身をまったくとれていなかったので腰の骨にヒビでも入ったかもしれない。かわいそうだけど・・・知らないっ!


 安心した私は笑顔で振り返って冬哉を見た。奴は拍手をして私を称える・・・と言う予定だった。しかし、冬哉は私に向かってすごい剣幕で走ってくる。その視線の先は私じゃない。私の・・・横へ・・・。


 考えれば当たり前だった。車から降りた男は二人。片方だけしかピストルを持っていない・・・訳が無い。二人とも持っているのが普通だ。もう一人が胸の辺りから出したピストルは、再び私の頭に向けられていた。


[ガシャッ]


 またもや驚くべき偶然が起こった。今度の男もピストルを落としたのだ。唖然とする私は地面に落ちたピストルを見る。すると、落ちたピストルの周りに粉のように黒い小さな塊がいくつも跳ねて転がっている。あれは・・・なんだろう。火薬の粉?


[ガツッ]


 私の前を黒い影が覆ったと思うと、その影は残りの男を殴り飛ばした。黒いスーツの男は空中で2回転ほどすると、地面に落ちてもう一度回り、動きを止めた。


「楓様、お怪我は?」


 自分が大怪我をしていると言うのに、その影は私に向かって気遣う。


「それはあなたでしょ。私なんかのために・・・」


 冬哉の腕からはまだ血が滴り落ちていた。


「当然です。私にとってあなたは大切な方ですから」


 血を見つめていた私は、唇を噛みながら顔を冬哉に向けた。


「私にとっても冬哉は大切な・・・」


 見詰め合う私達だったが、その後の言葉が出てこない。執事・・・でもいいのかな。執事を好きになってもいいのかな? 和美と佳奈は当然のように執事でもいいじゃないって言ってくれるけど・・・。


 私は目をそらし、自分の気持ちを悟られまいとして話題を変える。


「早く・・・冬哉の腕をお医者さんに見せなきゃ・・・。救急車・・・」


 そばにいた紫藤さんは携帯電話を操作するが、やはりまだ使えないようで首を振る。しかし、そんな私達二人に冬哉は言った。


「ご安心ください。携帯電話や無線が使え無くされた時のためにあらかじめ手を打ってあったのです。私はその方法を使って楓様達がここに隠れているのを知りました。それは、その方法とは人間。この辺りに多くの人員を配置したのです。その人員の中に医療の心得を持つ者もいますので、すぐに手当てをしに来てくれます」


「・・・人員?」


「ええ。楓様も昼にごらんになった海水浴客。あれは全て雇い入れた者達です」


「・・・まさか? それほど大きく無いビーチだけど・・・1000人はいたわよ・・・?」


「走るのが得意な者や、動物の泣き声を出して気配を消せる者。他にも様々な特技を持つものを雇い入れました。その中の狙撃チームが先ほどエアーガンでサポートしてくれたのです。本物のピストルは使う訳にはいけませんので、サバイバルゲームで使われる電動ガンを使ったのですが、数十人から一斉に発射される弾を素手で受けたりすると、とても物を持ってなどいられません」


「あっ! それで・・・ピストルを落としたんだ?」


 私が目を凝らして下を見ると、コンクリートの上に小さなプラスチック製のような弾が無数に転がっていた。


「欠点は連絡手段が走って伝えるというような事になりましたので、若干のタイムラグが発生し配置が遅れました。それでも何とか間に合ったようです」


[ブロロロロ・・・キッ]


 その時また波止場に車が乗り込んで来ていた。今度は黒い車が二台と、黒いワゴンが二台。ワゴンからは何人も男達が降りてくる。一瞬逃げようかと思った私だったけど、冬哉が笑って「大丈夫です」と言ったのでその場で立っていた。


「大丈夫かっ! 楓っ!」


 聞きなれた感じの懐かしい声だった。私は嬉しい反面、・・・ふつふつと怒りも湧き上がる。


「いつの間に帰ってきていたのよっ! お父様っ!」


 そう、片方の黒い車から降りてきたのは、4年前に考古学がどうのと海外に旅立った私の父親だった。遠くの温泉街で働いているはずの母親もいる。


 そして、もう一台の車から降りてきた何やら貫禄のあるおじ様は知らない人だ。しかし、その精悍な顔は見覚えがあるような気もする。


 今度は見慣れた黒いリムジンが入ってくる。当然出てくるのは・・・。


「遅れてすみません! 冬哉様っ!」

「冬哉様がお怪我をっ! 私達の責任だっ! 看護師の資格を持っている者っ! 来いっ!」


 ヤクザA・Bこと、黒沢さんと大山さんだ。大山さんが大声を上げると、どこからとも無く女性が現れて冬哉の傷を観察している。


「一体どう言う事なのよっ! 冬哉が怪我しているのよっ! 誰か説明してっ!」


 私が全員を睨みつけながら言うと、先ほどの貫禄のあるおじ様が私の前に出てきた。


「冬哉なら大丈夫だよ。まあ死んだら死んだで、女性を庇って死ぬのならそれもまた良し」


「勝手な事を言わないでよっ! あなたどなたっ! 悪人なのっ! おじ様がラスボスねっ!」


「ちょっと楓さん・・・」


 見知らぬおじ様に詰め寄ろうとする私の肩を、母がそっと撫でて言った。


「そちらは冬哉さんのお父様よ。覚えてらっしゃらないの?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・えっ? お父様? 誰の? ・・・冬哉の?」


 言われてみれば・・・知らない人なのに見覚えがあると感じたのは・・・少し冬哉に似ている・・・からかもしれない。


「って何を言っているのお母様っ! 冬哉は捨て子でしょっ! 拾われて法華院に向かいいれられた見習い執事! 冬の時期だったから名前は冬哉っ!」


「えっ?」

「えっ?」

「えっ? ・・・違いますわよ?」


おじ様、お父様、お母様はみんな首を傾げている。・・・あれっ? どこが違ったんだろう・・・。


「あ・・ああ。その冬哉を捨てた親が・・・見つかったって事? このおじ様が・・・?」


「いや・・・。楓ちゃん。私は息子の冬哉をぞんざいに扱ってはいるが、捨てたことは無いぞ?」


「えっ?」


 私は混乱した。冬哉は捨て子。そして法華院に向かい入れられて、私お付の見習い執事となった。そして私が8歳の頃に法華院家は破産。その8年後になる今年、冬哉は帰ってきて私の執事だと宣言して・・・今に至る。・・・どこかに間違いがあるのだろうか?


 何度も「あれっ?」「なんで?」と繰り返す私に、母が衝撃的な事を言った。


「楓さん。冬哉さんは・・・見習い?とか、そもそも執事ではありませんわよ。確かに、私達の屋敷にお住みになって楓さんのお世話をしていましたが・・・」



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