魔族の国
舗装されていない山を登るのは少々堪える。小さな石だけでなく、ゴロゴロした大きな岩を避けつつ登っていくのは体力をけずられてしまう。
カイザーが岩の上を軽快に飛びながら登っていく姿を見ると、四足歩行も羨ましく感じてしまう。
何とか頂上まで辿り着くと近くにあったちょうど良い高さの岩に腰を下ろす。
「はぁ」一息ついた俺は頂上から魔族の国を見下ろす。
魔族の国というから、魔物や荒んだ町があるのかと思っていたけど、魔物の姿も見えず、眼下に広がる草原には気持ち良さそうな風が草原を揺らしている。
「この下に広がる国は、本当に魔族の国なのか?」
「ああ、間違いなく魔族の国だ。この世界には四つの国が存在する。人間の国、魔族の国、獣神の暮らす聖獣の国、そして転生者が集まる国」
んっ?転生者の集まる国?それは聞いてないぞ?
「その顔からすると聞かされていないな?」
「ああ」
「なら話してやる。その前に、さっき買った干し肉をよこせ!」
ったく、どれだけ食い意地はってんだよ!と言いたいが、情報を得るには仕方ない。
「ほら」カバンから干し肉を取り出すと、脇目も振らず飛びつくカイザーは、でっかい犬にしか見えない。
カイザーが食べ終わるまで俺は、今までの事を思い出しながら乾いた喉に潤いを与える。
「ゴクッ」地球では水なんて幾らでも飲めたが、ここでは貴重な代物だ。いつ何時食料不足になるかも分からない状況は、俺に節制という気持ちを芽生えさせる。
「ぷふぁーっ!少しは腹の足しになったな。ん?シュウは食わんのか?」
「仕方ないだろ、いつ食料が尽きるか分かんねぇからな」
「フン。心配するでない、人間の国に比べたら魔族の国の方が豊かだ」
んっ?魔族の国の方が豊か?
「本当に何も聞かされてないんだな。行けば分かる事だから深くは言わないが、前情報として頭に叩き込んでおけ」
いちいち上から目線で言ってくるよな、犬みたいなクセに・・・
「貴様今我を侮辱しなかったか?」
少し前に気づいたけど、念話というスキルはこちら側が受け入れなければ、俺の考えも伝わらないみたいだ。スキルにも意外な落とし穴はあるみたいで気をつけないと、痛い目にあうかもしれない。
「何にも、ところで魔族の国ってどんなところだ?」
カイザーが言うには、この世界は昔、魔族の国と聖獣の国の2つしかなくて、人間は魔族の国で暮らしていたそうだ。別に人間を奴隷にしたりとかしてはなかったみたいだが、魔族との力関係が天と地ほどあって力の劣る人間を魔族が追い出したみたいだ。それから人間は自分達の国を作るようになって今に至ってるらしい。
他の種族達は、国を持たず小さな集落や町で生活しているらしい。
あと気になる転生者の国とは最近出来たみたいで、チートスキルなどを与えられた転生者達が、自分達の事を特別な存在だと勘違いしてるヤツらが作ったみたいだ。
「話を聞くところ、転生者の方が思想がヤバそうだな」
「そうだ。おそらくだが、あの天使達は貴様を転生者の国に連れて行こうとしてたはずだ。そして運悪くその途中で我と遭遇してしまった。貴様に我が付いている以上、下手に手出しが出来んからな。我と揉める事は、聖獣の国との争いになりかねん」
「じゃあカイザーは俺を救ってくれたのか?」
「違う。偶然だ、腹が減っていただけだ。都合良く人間が来たから襲って食い物を頂こうとしただけだ」
「結果オーライって感じだから気にするでない」
「おい、襲った事ぐらい謝れよ!」
「人間ごとき弱っちい種族に頭なんか下げれる訳ないだろ?」
「そんなヤツに負けたクセに・・・」
そう言うとカイザーの目がひかり、大きな口を開き俺の耳に齧り付いてきた。
「いったー!やめろよ!マジ犬じゃんか!」
「貴様やはり我を見下していたな!次に犬と言えば喉元に喰らい付いてやるわ!」
カイザーの逆鱗に触れた俺は、一目散に山を下って行く。
くっそ、犬って言ったぐらいでマジギレすんなよ!
そして、走りながら噛もうとすんな!
後ろからの攻撃を躱しながら荒れた山道を下るって何の修行だよー!
「ひえぇーっ!」一瞬でもスピード落としたら頭齧られるぞ!
カイザーの言うことに、神に対して不審感を持ちつつ、全力で山を下るのであった。
「ピローン」レベルがあがりました。
嘘だろ何でレベルが上がるんだよ!
「ストップだ、カイザー!」
急に立ち止まりカイザーを制止させようとしたが、残念ながら止まれる訳もなく、見事に追突される。
勢いよく吹っ飛ばされた俺は地面に叩きつけられた。痛みを堪えながら立ち上がり辺りを見渡すと、山の頂上から見た大草原が目の前に広がっていた。
「ここが魔族の国・・・」
「貴様、急に止まるでない!んっ?」
(さっそくお出ましか・・・)
「シュウよ囲まれてるぞ!一匹は我が引き受けてやる。残りは任せたぞ」
「マジかよ、油断してた」
確かに目の前に広がる草原から、異様な気配を感じる。
俺は両手にメタルナックルを装備し、両拳に拳破を集中させ双竜拳破の準備をする。
「来るぞ!」
草むらから飛び出して来たのは、カイザーに似た獣三匹。
飛びかかって来たと同時にカイザーは右端の獣に飛びかかり先制攻撃を仕掛ける。
俺は同時に空中にいる獣二匹に双竜拳破を繰り出す。一匹は土手っ腹に命中し吹き飛ばせたが、もう一匹は空中で体を捩り拳破を躱す。
対峙すると分かるが他の二匹とは違って頭に角が生えている。たぶんガルドムってやつの亜種だ。
(スキル身体強化×2)俺は一段下げたスキルを使い片手に小刀を装備する。
今までのヤツとは違うな・・・
少し間合いを取るか、そう思った矢先に飛びかかってくるガルドム。
「シールド!」避けきれない俺は咄嗟に防御に回る。
「ガンっ!」左手に現れたシールドに頭を打つけるがダメージは無いみたいだ。おそらくあの角で俺を串刺しにしようって事だろう。
勢いをつける為に再度距離を置こうとしたガルドムに、クールタイムが溜まった拳破を打ち込むが躱される。
でも、これは想定内。ギアを上げ瞬時にガルドムとの距離を潰し、メタルナックルでガルドムの右頬を殴りつけ、怯んだ瞬間に胸付近を小刀で突き刺す。その瞬間ガルドムは白目を剥き、その場に倒れるように息を引き取る。
(あっぶねぇー、三対一ならやられてたかも)
「貴様、油断しすぎだ!ここは魔族の国!弱肉強食の世界だ、ぬかるで無いぞ!」
「ああ」
「ピローン」
「レベルが上がりました」
またかよ、ってさっきのレベルアップ見てなかったな。
「ステータスオープン」
(スキルを強化出来ます)
①身体強化×3→身体強化×4
②双竜拳破 →双竜拳脚蓮華
「何だ双竜拳脚蓮華って?」
単純だけど、身体強化×4の方が良さそうだが・・・
待てよ?身体強化×3を使った後の体への負担を考えるとやっぱり、双竜拳脚蓮華の方がいいかも!
「よし!」双竜拳脚蓮華だ!
(スキル双竜拳破が双竜拳脚蓮華にレベルアップしました)
えーっと、スキルの内容はっと、双竜拳破のクールタイム中に脚で拳破を放つ事が出来るか・・・
クールタイム中に通常攻撃しか出来ないのは正直言ってキツイから、まぁ拳破が使えるならいいか。
「シュウよスキルとやらの選択は終わったか?」
「ああ」
少し攻撃の幅は広がりそうだな。出来れば部分強化とか出来るスキルが良かったけど仕方ない。
「なら行くぞ!向かうは干し肉のある町だ!」
「おい!待てよ!」
初めて踏み入れる魔族の国、弱肉強食の世界とは一体なんなのか不安でいっぱいだけど、覚悟を決めて足を踏み出した。




