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第2話 魔法少女乃亜の誕生です!

 耳でも生えている様な大きな帽子。学校の制服をベースにしている様な、特徴的なフリルに身を包まれている洋服。そして、1メートル以上の長さがあるハンマーを手にしている。

 それは紛れもない、誰もが憧れる魔法少女の姿だった。

 

「さ、咲夜ちゃんが魔法少女だったなんて……!」

 

 驚愕、というのか、それとも衝撃、と言えばいいのか。どっちにしても驚いた事には変わりない。

 

「この事は内緒、しーって事でお願い!」

 

「う、うん分かったよ」

 

 魔法少女での秘密ごとはお約束。目の前で見た光景は、絶対にお口をチャック。

 

「それよりも伏せて!」

 

 咲夜がハンマーを大きく振り被った。

 

 もしかしてだけど、その手に持っているハンマーを投げてくるのではないかと嫌な予感がした。乃亜は急いで頭を下げる。

 

「てーいっ!」

 

 可愛い掛け声と共に、ハンマーを投げ飛ばして頭上を通過した。

 乃亜の方に襲い掛って来ていたアクアクに見事命中。地面に崩れ落ちるも、1体目のアクアクは武器を手放した咲夜に魔の手を伸ばしている。

 

「咲夜ちゃん、後ろ!」

 

 精一杯の声で注意を促した。

 

 背後から迫って来ている事に気付いているのか、咲夜は特に焦る様子も見せず、冷静な対応を見せる。

 裏拳で忍び寄る手を弾き、その回転を利用して回し蹴りを豪快に食らわす。

 

「す、凄い。でも、なんというか」

 

「おっと、おかえり」

 

 先程投げ飛ばしたハンマーが、ブーメランの如く戻って来ては咲夜の手の中に収まった。そして思った。

 

「本当に魔法少女、なの?」

 

 あまりにも攻撃的で、しかもそれら全てが物理攻撃という脳筋っぷり。

 

「魔法は一体何処へ置いてきたの?」

 

「これも魔法ですよ!」

 

 地に伏せる目の前のアクアクをハンマーで追撃し、減り込ませる。そして、力いっぱいアクアクごと足を踏み締めて地面に埋もれさせる豪快さ。

 

「魔法少女じゃなくて、野蛮少女なんだけど……」

 

「な、中々に酷い感想ですね……あ、危ない!」

 

 咲夜の両足が、白く輝かしい光に包まれた。その光が弾けるのと同時に咲夜はその場から飛び出し、驚異的な脚力で乃亜の真後ろに居るアクアクまで到達。からの、強烈な飛び蹴りをお見舞いさせた。

 

「ありがとう、咲夜ちゃん!」

 

「どう致しま──」

 

 音も無く、何かが咲夜を乃亜の背後にあるビルに向けて吹っ飛ばした。

 普通に話し掛けてしまい、彼女の気を緩ませてしまったのもあるが。それ以上に。

 

「さ、3体目⁉︎」

 

 3体目のアクアクが現れるなんて予想外。

 

「咲夜ちゃん、大丈夫?」

 

 吹っ飛ばされた咲夜は、ビルの中から這いずるように出てきた。

 

「今すぐ、逃げて!」

 

 咲夜にその言葉を投げかけられて、すぐさま足を動かした。しかし、逃げるにしたって何処へ行けば。

 

「あっ……」

 

 瞬く間に巨大な体を利用して逃げ道を塞がれた。計3体のアクアクが乃亜を取り囲み、狙っている。

 

「乃亜さん!」

 

 危機迫る乃亜を庇う様にして、咲夜が駆け付けてくれた。でも、その身は既にボロボロで肩で息をしている。

 アクアクを2体までなら相手取る事は出来ていたけど、3体目となると咲夜でもこれは。

 それでも、咲夜の心は折れてはいない。寧ろ、絶対に守るという強い念をヒシヒシと感じる。

 

「わたしが逃げ道を作ります。合図したら走って下さい!」

 

「で、でも」

 

「行きますよ!」

 

 咲夜はアクアクの目線の高さまで跳び上がり、攻撃体勢を整えて2体見据える。

 腕から柄、そしてハンマーの頭へと美しく輝くエネルギーが行き渡り、面の部分に凝縮されている。

 

「ブレイクインパクト・砕!」

 

 2体のアクアクが並ぶ、その僅かな隙間に咲夜はハンマーを打ち付けた。すると、打ち付けた空間から衝撃波と轟音が発生し、それだけで2体のアクアクにダメージを与えた。


 体勢が崩れ、膝をついた。

 

「今です!」

 

「ありが……咲夜ちゃん後ろ!」

 

 乃亜ばかりに気を取られて、自分の事が疎かになっていた咲夜の背後には、3体目のアクアクが拳を作り上げて振り上げていた。

 

 素人目でも分かる。空中で、しかも意識を他に向けられた状態から回避するなんて事は出来ない。

 

「しまった!」

 

 防御しようと両腕を受けの体勢になっているが、その上から豪快に拳を振り下ろされて咲夜が地面に叩き付けられてしまった。

 大きなクレーターが出来上がり、その中心で咲夜が四つん這いになって耐えていた。

 

「良かった」

 

 ほっ、と胸を撫で下ろして安堵の息を吐く。だけど、安心するにはまだ早かった。寧ろここからだった。

 

「アークッ!」

 

 立ち上がろうとした咲夜に、巨大な足で踏み潰すという追い打ちを仕掛けた。

 

「なっ⁉︎」

 

 流石に見過ごす事なんて出来ない。乃亜は足を止め、逃げようとしていた歩みを逆に咲夜ちゃんを助けに行こうと地面を蹴った。

 

「アクアーク!」

 

 先程蹴散らした2体のアクアクも加わり、状況は更に悪化していった。

 何度も踏み潰し、叩き付け、蹂躙する。もう既に動けない魔法少女を、怪物は容赦無く叩きのめす。

 

「さ、咲夜ちゃん!」

 

 助けに行きたいけど、なんの力も無い乃亜が行ったところで無駄死にするだけ。

 乃亜は魔法少女なんかじゃない。そこら辺に居る、ごく普通にありふれた、ただの一般女子高生。

 

「どうすればいいの? どうすればいいの、ピッピー!」

 

「ピッピーに言われても、どうする事も出来ないッピ」

「そんな……このままだと咲夜ちゃんが」

 

 死んでしまう。いくら魔法少女になったとしても、これだけ執拗に、そして一方的に攻撃を受け続ければ彼女は。

 

「やめて……」

 

 恐怖を押し殺し、震える声を絞り出す。

 

「やめてって……」

 

 両腕に力が入る。あと一歩の勇気を出し、声を大にして彼女は叫んだ。

 

「やめてよッ‼︎」

 

 アクアク達は、その足を止めて乃亜達の方へ顔を向けた。目が合った。体が震える。目の前の恐怖に思わず乃亜は、一歩後ずさった。

 逃げたい。本当なら、今すぐにでも逃げ出したい。でも、今逃げ出したらきっと後悔する事になる。それも一生。

 

「早く逃げるッピ!」

 

「私は、逃げない」

 

 この状況を逃げたって誰も責めはしない。寧ろそれが正解ともいえる選択。だけど、そうじゃない。

 

「魔法少女なら、逃げないから」

 

「勇敢と無謀を履き違えているッピ! それは勇気とは言わないッピ!」

 

「確かにそうだよ。でも、自分にだけは嘘をつきたくない!」

 

 魔法少女になれなくても、力が無くても、咲夜を助けたいって想いは嘘じゃない。

 

「魔法少女が誰かを助けるように、私も魔法少女を助けたい。この純粋な気持ちは、誰にも止められないから!」

 

「「「アクアクー!」」」

 

 3体同時に襲い掛かって来た。それでも絶対に逃げない。何故なら自分は、魔法少女に憧れる剣城乃亜だから。


「その純粋な気持ち、ピョンが受け止めたピョン」


 胸の中で、あまり動きのなかった兎が乃亜を蹴って飛び出した。額から一瞬の光が煌めくと、それが爆発でもしたように辺り一帯白く包み、輝きが乃亜やアクアクの視界を奪った。

 

「アクアク……」

 

 眩い閃光が収まると、その発生元があの兎からだと今ようやく理解した。

 兎が振り向いた。鼻を動かし見つめている。

 

「助けてくれてありがとうピョン」

 

 喋った。兎が、私達人間と同じ人語を口から発したのをこの耳で確認した。その事で乃亜が呆然としていると、察して兎は口を開いてくれた。

 

「こっちに来る時、随分とピュアエナジーを使っちゃったから体力の回復に努めていたピョン」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「それで、本題ピョン。あの魔法少女を助けたいピョン?」

 

 その問いに、乃亜は無言で小さく頷いた。

 

「なら、方法はたった一つしかないピョン。至極単純で、キミが憧れているものになれば良いピョン」

 

「それってまさか!」

 

 そんな事を言われたら期待してしまう。きっと今の彼女の瞳は、キラキラと輝いているのだろう。

 

「キミ自身が、魔法少女になるピョン」

 

「なれるの?」

 

「キミにはその資格が十分にあるピョン」

 

 念願の魔法少女になれる。これで夢を叶えられる。だけど、一つだけ躊躇する疑問がある。

 

「願ってもない事だけど、こんな私に魔法少女なんて務まるのかな?」

 

 自身の事は自分がよく理解している。基礎体力も能力も、これといった尖ったものは無い。どれも女子高校生平均の数値だ。咲夜みたいに、瞬時に状況を把握したり、動けない。

 剣城乃亜は、ドジでマヌケな普通の女子高校生なのだから。

 

「魔法少女になるのに、そう難しく考える必要も無いピョン。大切なのは、純粋な心ピョン」

 

「純粋な、心?」

 

「そう、純真無垢の心を持つ人だけが魔法少女になれるピョン」

 

 ギュッ、と自分の胸を掴む。

 

「私、変身出来るかな?」

 

「ピョンを助けた時から、キミはもう立派な魔法少女ピョン。自分を信じるピョン」

 

 その言葉を貰い、乃亜は迷いや戸惑いを吹き飛ばして決心した。

 

「ありがとう。私、魔法少女になる。魔法少女になって、咲夜ちゃんを……街の皆を守るから!」

 

「高らかにこう言うピョン『レッツ、ピュアチェンジ!』と!」

 

「うん! レッツ、ピュアチェンジ!」

 

 手を挙げ、高らかに合言葉を周囲に響き渡らせると、乃亜の身体は眩い輝きに包まれてその姿を変える。

 

 ただでさえ長かった白い髪は、地面に触れてしまうくらい伸び、一つに束ねられて尻尾を振り撒く。胸元の赤いリボンがチャームポイントの白い制服の上に、ペリースマントが羽織られている。更には、短いスカートに加えて誰もが目を惹かれるガーターベルトにストッキング。

 

 そんな姿に彼女は変貌した。

 

「魔法少女乃亜! 悪に染まりきったピュアなハート、私が拭います!」

 

 変身完了し、彼女を包み込んでいた光は弾け、その余波でアクアク3体を吹き飛ばした。

 

「今ここに、新たな魔法少女が誕生したピョン!」

 

 胸の内から力が溢れている。血管の一つ一つに、魔法少女の力であるピュアエナジーが全身を駆け巡っている。

 

「これが、私。今の私なら、なんだって出来る気がする!」

 

「そうピョン。さあ、思う存分魔法少女の力を使って街の皆を守るピョン!」

 

「うん!」

 

 脚をググッと曲げて力を溜め込み、それを一気に解放しては飛び出した。瞬く間にアクアクの目の前で接近した。

 

「わっ!」

 

 自分でも、驚く程に身体能力が向上しているのが分かる。魔法少女に変身したのだからこれが当たり前なのだけど、自分の体が自分のものではないと思ってしまう。

 

「えーいっ!」

 

 キッ、と目を鋭くさせて、空中で回し蹴りをアクアクに叩き込む。強烈な打撃に堪らず、アクアク一歩二歩後ずさった後、ビルを背にして倒れ込んだ。

 

「アクアクー!」

 

 2体目のアクアクが捕まえようと手を伸ばして来た。

 乃亜は腰を捻り、空中で身体を回転させる事でアクアクの手を蹴って跳び越えた。

 

「これで、どう!」

 

 勢い殺さず、回転力がついたままの踵落としがアクアクの脳天に炸裂。

 

 2体目のアクアクが地に伏せるが、3体目のアクアクは乃亜の一瞬の隙を突いて拳を振るって来ている。

 

「それなら、せーのっ!」

 

 空中じゃ身動き取れないと思っているみたいだけど、そんなのは大抵の動作に過ぎない。両手を駆使して、アクアクの巨大な拳を受け流し、そのまま投げ飛ばす。

 

「アクッ⁉︎」

 

 手足は自由なんだ。別に防御が出来ない訳ではないうえ、反撃出来なくもない。

 変身してから一分も満たない時間。乃亜は、3体のアクアクをこの身一つで這い蹲らせた。

 

「「「アク、ク……」」」

 

 だけど、倒すまでには至らない。

 

「魔法を使うピョン。アクアクは、魔法を使わないと浄化出来ないピョン!」

 

「分かった!」

 

 何の魔法を使えるか、それを言葉にしなくても変身したその時から知っている。

 剣城乃亜の魔法は、対象に刃を飛ばして攻撃する《斬》属性の魔法。

 

「ズバッと決めるよ」

 

 両手を広げ、手の平にピュアエナジーを集中させてエネルギーを溜め込む。

 心を落ち着かせ、狙うべき相手を見据え、溜め込んだ力を全部放出する勢いで解き放つ。

 

「──斬!」

 

 ズババ、ズバシャ!

 

 ピュアエナジーで生成された無数の斬撃が、アクアクの身体を切り裂いた。それも広範囲に。

 

 3体のアクアクは瞬く間に黒い粒子状となって、空の彼方へと霧散して消滅した。

 彼女はそれを見届け、目を伏せた。


(うっわ、えげつない……)

 

 突発的な事の連続だったが、全部何もかも上手く行って良かった。

 

「咲夜ちゃんは?」

 

 変身してからというものの、アクアクを倒す事に夢中になっていた乃亜は咲夜の安否をまだ確認出来ていない。

 倒れている場所へ急いで駆け付けると、咲夜は裸で地面にコンクリートの地面に埋もれて気絶していた。

 

「生きては、いるみたいだ」

 

 安堵の息を吐く。あれだけ集中的に痛め付けられたから、一時はどうなるのかとヒヤヒヤとした。

 

「それよりも、何で裸なの?」

 

「魔法少女に変身すると、着ている服は全部弾け飛ぶッピ」

 

「嘘、下着も⁉︎」

 

「下着もッピ」

 

「そ、それを早く言ってよ!」

 

 突然のカミングアウトに、乃亜は困惑しながらも受け入れる事にした。乃亜は偶々持っていた体操着に着替えた後、急いで学校へと足を動かしたのだった。

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