表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OREZAN――種族が「???」な俺、ステータス改竄で神を超える  作者: VIKASH


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/44

26 彼女は世界を選んだ




 中枢域へと続く階は、光のない光で満ちていた。


 床も壁も存在しない。ただ、透き通るような幾何学が重なり合い、幾千万の未来図が静かに明滅している。そこではすべてが可能性であり、すべてが未決定だった。


 レイリアはその中央に立っていた。


「適合率、九八・七二%」


 声が響く。

 男でも女でもない、老いても若くもない響き。全視の輪環、その中枢そのものの声。


「あなたは迷いを保持したまま、秩序と接続できる」


 背後で息を呑む気配がした。


「やめろ、レイリア」


 振り返らなくても分かる。

 彼だ。


 迷いを世界に伝播させた、あの愚直な少年。


「お前が入ったら……戻れなくなる」


 その声は震えていた。怒りでも命令でもない。恐怖だった。


 レイリアはゆっくりと振り返る。


「知ってる」


 彼女の瞳は、泣き出しそうなほど静かだった。


「でも、あなたの迷いは今、世界を揺らしてる」


 未来図が乱れている。

 剪定されるはずだった枝が残り、安定率は確実に低下している。


 中枢は判断した。

 迷いを排除するのではなく、制御する。


「器が必要なの」


「器?」


「迷いを閉じ込めるんじゃない。抱えたまま、流れを整える器」


 彼は首を振る。


「それは制御だ。お前が、世界の蓋になるってことだろ」


 否定はできなかった。


 レイリアは歩き出す。

 中枢核へと続く光の階段を。


「あなたは外側から迷わせて」


「私は内側から支える」


「二人でなら、均衡を壊さずに変えられる」


 彼は叫ぶ。


「そんなの、分業じゃないか。お前が苦しむだけだ」


 その言葉で、初めてレイリアの足が止まった。


 苦しむ。


 確かにそうだろう。

 中枢に接続すれば、全ての未来が流れ込む。選ばれなかった可能性、消えるはずの命、救えなかった都市。すべてを視続ける存在になる。


 それでも。


「私は、あなたの迷いが好き」


 静かに言った。


「正しいかどうか分からないって言いながら、それでも前に進もうとするところが」


 彼は息を詰まらせる。


「でも世界は、まだそれに耐えられない」


 未来図が揺れる。

 安定率九四%。


「だから、私が支える」


 中枢核が開く。

 光ではない、透明な深淵。


「レイリア・ヴェレン」


 中枢の声が名を呼ぶ。


「接続を開始する」


 彼は走った。


 届かない距離ではない。

 あと一歩で、手が触れる。


 だがその瞬間、空間が折り畳まれる。


 未来図が彼女を包み込む。


「待て」


 叫びが、光に吸われる。


 レイリアの身体が透けていく。


「大丈夫」


 最後に、彼女は微笑んだ。


「私は消えない。形が変わるだけ」


 手が触れた。


 温もりは確かにあった。


 だが次の瞬間、それは無数の光へと分解される。


 未来図が一斉に安定する。


 安定率九七%。


 中枢に、新たな座標が刻まれる。


 名は――レイリア。


 彼は膝をつく。


「……ふざけるな」


 安定など、望んでいなかった。


 彼女の迷いも、彼女の怒りも、彼女の涙も。

 すべてが世界の一部だったはずだ。


 だが今。


 空間の奥から、声が降りる。


「外側の観測者」


 冷たく、しかしどこか柔らかい響き。


「あなたの迷いは記録された」


 彼は顔を上げる。


「……レイリア?」


「私は中枢であり、レイリアである」


 感情は薄い。

 だが完全に消えてはいない。


「迷いは保持された。ただし、流量は制限される」


「制限?」


「世界が壊れない範囲で」


 彼は立ち上がる。


「なら、壊れる範囲まで迷わせる」


 一瞬、未来図が揺れた。


 安定率九六・五%。


「それは非推奨」


「知るか」


 彼は拳を握る。


「お前が中にいるなら、俺は外から揺らす」


 沈黙。


 やがて、わずかに声色が変わる。


「……愚か」


 それは、かつての彼女の響きだった。


「でも、それでいい」


 未来図の奥で、微かな光が瞬く。


 中枢は完全には彼女を奪えなかった。


 彼女は構造になった。


 だが同時に、意志も残った。


 均衡は保たれた。


 だが以前とは違う。


 迷いは管理され、しかし消えてはいない。


 彼は静かに呟く。


「取り戻す」


 中枢を壊すのではない。


 彼女を、構造から解き放つ。


 それが新たな目的となる。


 未来図が再びわずかに揺れる。


 安定率九六%。


 中枢内で、レイリアの意識が小さく波立つ。


 ――あなたは、止まらないね。


 それは誰にも聞こえない。


 だが確かに、迷いはそこにあった。


 世界は安定した。


 だが物語は、ここから決定的に変わる。


 彼女は秩序となり、

 彼は混沌となった。


 そして二人の間に、

 初めて“対立”という未来が生まれた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ