8
ふだんと変わらぬ一日は、あっけないほどあっさり終わった。
授業終了のチャイムが鳴ると、あたしはちょろちょろしているミツオを無視して、シホと家路についた。前日とおった土手の方向とは違う駅まえに向かう。
十五分ほど歩くと駅まえにつく。
下校時刻の駅まえは、いろいろな学校の生徒たちがうじゃうじゃしていた。
学校の最寄り駅の周辺はわりと発展していて、遊ぶ場所もたまる場所も、うんざりするほどたくさんある。誰も彼もがひまを持てあましてるって感じ。
あたしとシホも直帰する習慣はないので、今日はどこのファストフードに寄ろうかなんて相談をしながら歩いた。
「でも、なんであのヤンキーモンキーはあんたなんかに夢中なんだろうね」
歩きながらあらたまってシホがいう。
「あんたなんかのどこがいいんだろ?」
きかれたって、そんなの知らない。そもそも、『あんたなんか』とはひじょうに失礼だ。まあ、否定する材料はとくに持ちあわせていないので簡潔に答える。
「とりえなんて、なにもないからね」
自分でいっていて悲しくなる。
「そうだよねえ」
ふつうに同意したうえに、シホはさらに失礼な台詞をつけたした。
「おまけに特別かわいいってわけでもない」
とんでもない毒を吐きながら、まじまじ顔を見つめてくる。横にならんで歩きながらシホがいう。
「うーん。昔の恋人に似てるっていうほど、うちらも年くってないし。まったくわからんね、男心は」
つらつらと内容のない会話をしていると、シホがとつぜんなにかに気づいた。
「あっ……」
ならんで歩くあたしのずっと奥を指さしていう。
「ヤンキーモンキー」
「ほえ?」
あたしは、あっち向いてほいの要領で、指さす方を向いてしまう。ああ、かなしき条件反射。
あたしが振り向いた先にはゲームセンターがあった。店の外にはクレーンゲームの機械がならぶ。ガラスのなかでにっこり笑う、ハローキティのぬいぐるみ。ピンク色の四角い機械が、景品よりもたのしげに音楽を流している。
そして。
そのクレーンゲームの機械のまえにいるのは。
同じクラスのヤンキーモンキー・ミツオだった。
ミツオはほかの学校の男子生徒数名と一緒にいた。紺色のブレザーをだらしなく着くずしている、派手な連中三人組。立っているだけでもだらだらしていて、頭なんて鳥の巣みたい。色調違いのクリアな茶髪は、没個性のなかでのわずかな個性の象徴だろうか。
クレーンゲームとは対照的に、ぜんぜんたのしげじゃない。ミツオも鳥男三人衆も。
ヤンキーたちは一対三のかたちになってにらみあっている。
これはもう、どれだけゆずって見てみても、お友達って雰囲気じゃない。
ミツオ。
からまれてるのか?
……もしかしたら、からんでいるのかもしれないが。