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 さよならさんかく。

 またきてしかく。

 箱にもならないあたしたちのぶかっこうな恋愛に、資格なんてひとつもいらない。

 ゴングが鳴った。

 第一ラウンド開始の合図だ。

 うちの学校の体育館は、試合を見にきた見物客で、あきれるほどにごった返していた。

 体育館の中央にはボクシング部のリングがこの日のために特設されていた。

 赤コーナーにチャンピオン。

 青コーナーには挑戦者。

 まあ、高校生のアマチュアボクシングの練習試合じゃ、そこはそれほど厳密ではない。地区のランキング上位者であるヒトシが赤で、下位に位置するミツオが青のコーナーにいるっていうだけ。

 もっといえば、あたしにとってこの試合は、モトカレのヒトシとクラスメイトのミツオが戦っているという事実が、体育館の中央のリングのうえにあるだけだ。

 かまびすしい観客たちの声援とともにふたりの試合が始まった。世紀の対決といったらおおげさだろうが、ボクシングを始めてひと月ばかりのヤンキーが、ルールのあるリングのうえでどんな試合をするのだろうか、みんな興味があるらしい。

 見世物として対戦相手も悪くなかった。なんといってもミツオの相手は地区ランキングで堂々一位のヒトシなのだ。アマチュアボクシングのエリートと、素人アマチュアヤンキーボクサー。遊びに出かける金のない、高校生の土曜午後のひまつぶしには、うってつけのカードというわけ。体育館は全校生徒が集まったんじゃないかってくらいに、ぎゅうぎゅうづめで、熱気がむんむん。暑苦しい。そんなもりあがりになっている。

 真夏の盛りに冷房なしのこんな場所に、そんなにつめかけるもんじゃない。セックスだとか恋愛だとかもそうだけど、人間たちはただでできる娯楽が好きだ。快楽だけをもとめた結果、へたすりゃ暑さで死人が出るっておそれもある。

 ふつうだったらあたしはこんな場所にはきたくない。クーラーのきいた部屋でアイスでも食べながら寝そべっていたい。だけど、ここにこなけりゃいけない大きな理由があたしにはあった。無料の娯楽や快楽とはべつに、あたしにとってもこの試合は、けっこう重要だったりしているのだ。

 時間はすこしさかのぼる。試合まえにミツオがいった。

「この試合、勝ったらおれとつきあえよ」

 さらにその夜ヒトシもメールでいっていた。

「試合が終わったら、ふたばにだいじな話がある」

 ふたりからこんな台詞をいわれたら、きたくなくてもこなけりゃならない。二分間三ラウンドの試合が終わったとき、あたしたちにどんな答えが待っているのか。そんなものは考えたってわからないけど、当事者になってしまった以上、家でだらだらアイスなんか食ってられない。あたしにはふたりの試合を見届ける義務が生じる。

 三角関係はなにかとしんどい。

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