34 夢の後押し
朝起きて身支度を整え、義父のトーストとコーヒーを用意する。
ひとこと言いたげな義父の視線を感じながら洗濯機を回し、大急ぎで準備をして自転車を走らせる。
ハルキを保育園に送り届けても、まっすぐ家に戻る気にはどうしてもなれなかった。
胸の中でのたうち回るどす黒い感情。
義父と顔を合わせるたびに、沸々と憎しみが湧き上がる。
それでも同じ仕事場で、今日も1日過ごさねばならない。
わたしたちはこれからどうなってしまうのだろう。
この借金地獄は、いったいいつどんな形で終わりを迎えるのだろう。
こみ上げる苦いものを、ぐっと飲み下す。
どうにも自分を抑えられないときは、カバンにノートとなけなしのお金を忍ばせて、帰りにこっそり喫茶店に寄った。
いられるのはせいぜい15分。
一番安いブレンドを頼み、白い紙の上にひたすら抱えきれない感情を叩き付ける。
今日も一日過ごせるだろうか
憎しみを心に抱えたままで
今日もうまくやり過ごせるだろうか
絶え間ない諍い
目には見えない傷つけ合い
もういいよ
もうたくさんだよ
これ以上一緒にこの飛行機に
乗り続けることはできない
墜落する前にどこかに降りよう
不時着でいいから
どうしようもないとわかっていても、書かずにいられなかった。
頭の中でぐるぐると回り続ける軋むような感情。
義父を捨てて親子3人で暮らせたら。
狂おしいほどにそんな未来を夢見ながら、けれども口に出すことはできなかった。
わたしがそれを言えば、夫はもっと苦しむだろう。
血のつながった親子だからこそ許せない。
そしてまた親子だからこそ、簡単に切り捨てることもできない。
その狭間で壊れそうに張りつめた夫を、それ以上追い詰めるわけにはいかない。
そんな宙ぶらりんの状態が何か月か続いたころ、不思議な夢を見た。
夢の中ではすっかりおなかが大きくなっていたわたしに、義母がこう言うのだ。
「もうすぐ生まれるから、荷物をまとめておきなさい」
目が覚めたわたしはもうすぐこの家を出ることになるのだと静かに確信し、こっそりと持ち物の整理を始めた。
夢のことはそのまま誰にも話さずにいた。
が、その数日後、夫はとうとう義父を捨てる決断を下したのだった。




