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マギ☆アイドル!―MagickIDoll―  作者: ビエンヤク
#1 夜を乗り越えて
6/17

1-6 魔術所と改造魔法と失敗と


 翌日の昼過ぎ。食堂が忙しくなる時間を手伝い終わった二人は、障壁魔法を調べるために移動していた。

 この国の軍には大きく分けて二つの部隊がある。

 一つは前線を守り"終わりの夜"と戦う戦闘隊。レゾ達の暮らす街には来ていない。

 一つは各街に駐屯し、前線で押さえきれずに入ってきた"はぐれの夜"を倒したり、治安維持を担う警衛隊。


 今日はレゾがよく訪れている警衛隊の訓練所に来ていた。

「警衛隊の施設だろ? そう簡単に入れるのかよ」

「もちろん、入っちゃいけない施設はあるよ。でも、一部の訓練所なんかは、手続きさえすれば見学もできるし、体験訓練もできるって」

「レゾも?」

「少しだけどね。アイドルとして必要な基礎が欲しくて」

 レゾは様子で訓練所の門衛に挨拶し、慣れた所定の用紙に用件を書き込んでいく。

 そんな様子に、トゥラは少し悔しいような気がした。






 訓練所の人に案内されてやってきた資料室。

 そこは警衛隊の宣伝資料の他に、公開可能な戦術書や魔法書などが並べられていた。

「やあ、お姫様。久しぶり」

「こんにちはヘニオさん」


 入ってきた二人に、ヘニオが話しかけてくる。警衛隊服の上から白いローブをかぶっている若い女性だ。

 怜悧で中性的な顔つきも有り、大量に並ぶ本を整理している様子は、まるでおとぎ話の魔法使いにも見える。

「お姫様?」

「私の事みたい。レゾって呼んでくれなくて」


「わたし達にとって、お姫様はお姫様だからね。アモレ中尉の箱入りで、この訓練所の数少ない花だ。厳しい訓練を小さな女の子が一緒に頑張っている姿に、どれだけの連中が励まされたか」

「なんだ、レゾもずいぶん人気者だったんだな」

 ヘニオとトゥラが笑う。レゾはそんな事ないよと、赤くなってぶんぶん首を振った。


「それで、今日はどんな用かな? 訓練生としてイルバオに向かう前の挨拶、というには少し早い気がするね」

 アイドルに志願すると、まずはアイドル訓練生として、イルバオの街にある基地で生活する事になる。その前に挨拶しにくる、とはレゾが以前言っていた事だ。

「その前に、なんか障壁の魔法を覚える必要ができたみたい」

「……さすが中尉だ。お姫様の籠は今日も歪み一つない」

 レゾの一言で事情を察したヘニオが皮肉に満ちた笑顔を見せる。


「それで、公開できる魔法書を見に来たんだけど」

「少し待つと良い。これと、これと……こちらも要るかもしれないね」

 棚の間をするすると移動しながら、ヘニオは本を集めていく。

「なあ、もしかしてこの人って、ここに有る本を全部覚えてるのかよ」

「そうかもしれない。ヘニオさんって、仕事してるか、この場所で本を読んでるかしか見たことないもん」

 二人が話している間に目的の本を集めてきたのだろう、ヘニオが数冊の本を抱えて愛おしげになでながら戻ってきた。






 資料室の本は全て関係者以外に貸し出しできないという事で、必要な部分だけレゾがいつも持っている手帳に写し、レゾとトゥラは公園へ移動していた。

「訓練所の中じゃなくていいのかよ」

「障壁はそんなに危険じゃないから大丈夫。失敗しても発動しないだけのはず。ただ問題があって……」

「なんだよ。遠慮せずに言えって」


「発動に必要な魔力が多いみたいでね、私一人だと何回かしかできないみたいなんだ」

 軍が実戦で使うということで、魔法で作る障壁はかなりの強度がある。

 その代わりに燃費があまり良くないというのが、レゾが魔法書を見た感想だった。

 レゾの魔力は「ないわけではない」程度の、下から二番目。数回練習すればそれでその日は打ち止めになってしまう。失敗しても消費はあまり変わらない。


「とはいえ、アタシが練習するわけにもいかねえだろ? アタシの魔力を貸せるんなら協力もできるけど、そんなのできねえし」

「……それが出来るとしたら、手伝ってくれる? ちょっと魔法を改造するけど」

「げっ、おいやめろよ、爆発したらどうするんだって」


 魔法は通常、一人の魔法師が自分の魔法だけで使う。

 魔法を習うより前に、複数の人間の魔力が混じると、原理は判らないが発動に失敗するか、予期せぬ事故になると教えられるほどだ。

 加えて、魔法の改造も同様に『やってはいけないこと』の代表格だ。初心者が下手な失敗をすればどんな結果になるのか想像もできない。


「それは大丈夫。使う障壁は第二世代魔法だし、組み込むのも儀式巫術系統の断章だから」

「……? すまん、スペイガル語でいいぞ」

「えっと、第二世代魔法ってわかる? 断章くらいは通じるよね?」

「さっぱりだ。アタシが学校に行ってたのは義務だからで、食堂に必要ないのはまるっきり覚えてない」

 とても真剣な表情でトゥラは胸を張った。


 レゾは頭を抱えるしかない。

 たしかに、魔法を使うためには、第二世代魔法についても、断章についても知識なんかなくていい。それでも授業を受けていれば少しは残っていてもいい知識だ。

 なんとか頭を捻ってわかりやすそうな説明を考えてみる。


「魔法を使うっていうのが、料理を作る事だと思って。昔は『そういうものだから』っていう理由で材料を入れて、調理をしてたんだけど、一つ一つを見直せばよりよいものが作れるはずだって理由で整理・体系化されたのが第二世代魔法ね」

「その『そういうもの』で作ってたのが、第一世代か」

「そうそう。で、その調理は『詠唱』『構成』『魔法陣形成』に分けられて、それ以外は今のところ発明されていないんだ」

「つまり、どの料理……魔法を作るか決めるのは材料か」

「うん。その材料が断章ね。第二世代の魔法は全て断章の組み合わせで作られる。『儀式巫術』にするっていうのは、いくつかの断章を組み込んで、たくさんの人で一つの魔法を使えるようにすることだね」

 なるほどと頷くトゥラ。レゾはどれくらい通じているのかという不安で苦笑する。


 そして近くで拾った木の枝を使い、足下の地面に魔法陣を書き込んでいく。論より証拠ということで、障壁の魔法に儀式巫術を組み込んで使うつもりだった。

 何度か消しては書き直しつつ、地面の上に魔法陣を書き上げる。


「でもなあ、本当に大丈夫か?」

「失敗してもちょっと燃費が悪いくらいだよ。攻撃用でもないし。トゥラはそこで魔力をこっちに流してて。見てるだけでもいいよ」

「儀式巫術ってことは、アイドルの使う魔法なんだろ。歌ったり踊ったりしなくていいのか?」

「歌うのはたくさんの人が一緒に詠唱しやすいようにで、踊るのは魔力の動きを制御しやすくするためだね。やってくれるなら、難易度が下がるから助かるけど」


 レゾの目がキラリと光る。新しい獲物を見つけた猛禽類のような目だ。

 トゥラはあわてて両手を振りながら後ずさる。

「い、いやだ。やらなくていいなら見てるだけでいいよ。恥ずかしいって」

「そうかな、楽しいよ? 体を動かすほうが構成とかラクだし、基本を覚えれば簡単だから。成績上がるよ? やせるよ? トゥラは手足が長いからきっとカッコいいし」

 いつになく積極的に誘ってくるレゾをなんとかなだめて、レゾはそれからしばらく、魔力を流しながらその様子を眺めていた。






 日が暮れるまで続けた練習は、一度も成功できなかった。

 一日手伝ってくれたトゥラへのお礼のつもりで、レゾは前日と同じようにトゥラの家の食堂を手伝い、トゥラの母親にまた強制お泊まりを命令された。

 強引に帰ろうとすればできただろう。ただ、泊めてもらおうという下心はなかったとはいえ、そこまでするには気が重かった。

 まだアモレさんに謝っていないし、どう謝ったらいいかもわからなかったからだ。

 せめて障壁の魔法が出来ればいいのに、それも一日かけて失敗だらけ。


「なんで出来ないかなー」

 自分のものよりトゥラの寝間着を着てから、レゾは先にトゥラが横になっているベッドに入る。

 トゥラの家はあまり広くないので、昨日と同じように一緒のベッドで寝るのだ。

「出来るはずなんだよー」

「何回目だよ。そう簡単に魔法が作れるわけじゃないって事だろ? そんな事できたら、今頃もっとたくさんの魔法が出来てるはずだって」

 それはそうなんだけどとレゾが顔を伏せる。


「魔法の種類が少ないのは、戦争のせいもあると思う。第二世代魔法は戦前にはなかったし、魔法師はほとんど軍が召集して戦争に行くから、研究する時間がないみたい」

「"終わりの夜"さえいなけりゃ、もっと便利になってたかも、か」

 二年前に見た怪物と、その驚異を思い出す。恐ろしく、おそましい、闇色の怪異。

 わずかに震えるレゾの体を、トゥラがそっと抱きしめる。


「トゥラは"終わりの夜"って、なんだと思う? なんで街を襲うのか、なんで人を殺すために戦うのか」

「レゾはお伽噺で聞いた覚えは……記憶喪失か。

 よく分からないが、連中は地の底からやってきて、太陽と人の心の光を消すために戦うらしい。憎んで、嫌っているらしいな。

 確かに連中は空が明るい間はほとんど動かない。人が近くにいれば、視界に関係なく見つけて襲ってくる」


「お伽噺かぁ。いつからいるとか、本当はどこから来ているとか」

「誰もしらない。大陸北部の国が最初に落とされたらしいから、そのあたりらしいが。まあ、襲ってくるから撃退するだけだ」

「撃退しきれないと、私のいた街みたいになるんだよね」


 レゾは燃えていた街を思い出す。

 幸いなのは、避難がすんでいて、悲鳴などが無かった事か。

 それでも、銃声と煙の中で、人が住んでいた場所が無惨に壊されていく様子は、思い出すだけでも胸に痛かった。


 レゾの気を逸らすように、大丈夫だとトゥラがレゾの腕を叩く。

「それでも連中の生態が判ってからは緩やからしいぜ」

「あ、後はアイドルがいるからだよね!」

 アイドルに関わる話題になると、レゾが一気に表情を明るくする。

 トゥラから見ても、完全に元気になったわけではない。でも、暗い顔をしているよりはよほど良いと思った。


「まあそうだな。それで、そのアイドルになるための練習はどうする?」

「明日もよろしくお願いします」

 横になったまま頭を下げるレゾに、トゥラは仕方ないなと笑って目を閉じた。


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