↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/23

第一話 始まり

視界を覆う、圧倒的な青。これまで見たどの空よりも高く、澄み切った蒼穹が、視界いっぱいに広がっていた。


「……う、ぐ……」


背中に感じるのは、コンクリートの硬さではない。湿り気を含んだ、青々とした大地の感触だ。山門武(やまと たけし)は激しい頭痛に耐えながら、ゆっくりと上体を起こした。


「……どこだ、ここ……?」


見渡す限り、地平線の彼方まで続く見渡す限りの大草原。背丈ほどもある青草が、太古の清浄な風に吹かれて、まるで緑の海のように波打っている。

排気ガスの臭いも、ビルの影も、遠くを走る電車の騒音も、ここには一切存在しない。あるのは、ただ圧倒的な「生」の匂いと、耳を圧するほどの静寂だけだった。


武は混乱する頭を抱え、必死に記憶をたどった。

(なぜ、俺がこんな場所にいる……?)


覚えている最後の記憶は、西暦2026年の東京。神田の薄暗い居酒屋で、商社の同期たちと泥酔するまで飲んでいたはずだ。

頭痛がするのはそのせいかと思ったが、それにしては状況が異常すぎる。

終電直前、神田駅のホームで電車を待っていた。激しい目眩がして、足元がぐにゃりと歪んだような感覚。ブラックホールに吸い込まれるように視界が反転し、そのまま意識を失った。


「誘拐……いや、まさか」


都会の真ん中から、一瞬でこんな人工物のない大平原に拉致されるわけがない。

焦燥感に駆られ、武は自分の身体を確かめた。スーツは薄汚れ、ネクタイは緩んでいる。ポケットを探ると、愛用のスマートフォンが指に触れた。

スマートフォンは圏外を示しており、時刻を知る以外に使い道がなかった。


その時急に頭痛がし知らない知識が流れ込んできた。


異世界トレーダースキル、それが使えるようになったと。

頭痛が止み、そのスキルを使ってみることにした。


――【現在地:地球・氷河期が訪れる前の時代】

――【獲得固有能力:次元間トレーダー(TRADER)】


タイムトラベル。そして、脳内に確立されたその異能の知識は、武に理解させた。

自分が今、氷河期末期の古代地球にいること。そして、この世界のあらゆる資源を対価に、「別次元の現代日本」の製品や技術を自由に取り寄せ、交易できるスキルを手に入れたということを。


「氷河期の前の時代……!? タイムトラベルだと!?」


武の叫びは、遮るもののない大草原の風にかき消された。

頭痛が引き、冷や汗を拭ったその瞬間。

ガサリ、と。

背後で、草むらが大きく揺れる音がした。


風の音ではない。明らかに、何か「巨大な肉食獣」が、音もなく獲物を品定めしながら近づいてくる気配。

ゆっくりと振り返った武の眼球が、恐怖に凍りついた。


草を掻き分けて姿を現したのは、現代の虎を二回りも巨大化させたような巨体。口からナイフのように突き出た、異様に長い一対の牙。


――サーベルタイガー。


紛れもない、絶滅したはずの太古の捕食者が、飢えた黄金の瞳で武を完全にロックオンしていた。

逃げ場のない大草原。武器は持っていない。

新卒から必死に働いてきた商社マン・山門武の人生が、この原始の荒野で、文字通り「最初の餌」として終わろうとしていた。


思考より先に、武の身体が動いていた。

まともに戦って勝てる相手ではない。武はスーツのジャケットを脱ぎ捨てる暇さえ惜しみ、背丈ほどもある青草を掻き分けて猛然とダッシュした。


背後から地響きのような足音が迫る。

ガルルル、と喉を鳴らすサーベルタイガーの息遣いが、すぐ後ろまで迫っているのが分かった。人間の足で太古の捕食者から逃げ切れるはずがない。平原をこのまま走り続ければ、数十秒後には背中を切り裂かれて終わりだ。


(何か、何か隠れられる場所は――!)


必死に周囲を見回した武の視界に、一本の巨大な大樹が飛び込んできた。

何百年、何千年もこの大地に根を張っているであろう、周囲数メートルはあろうかという巨木だ。


「うおおおぉぉッ!」


武は最後の力を振り絞って大樹へ飛びつくと、がむしゃらに幹にしがみつき、太い枝へと這い上がった。

商社マンの革靴が滑りそうになるのを、野生の火事場の馬鹿力で抑え込む。地上から4メートルほどの高さにある太い横枝にどうにか跨がり、激しく息を切らせた。


だが、安堵の時間は一瞬だった。


下を見下ろすと、サーベルタイガーが太い前脚の鋭い爪を幹に突き立て、凄まじい身軽さで木を登り始めていたのだ。

黄金の凶眼が、枝の上の武をじっと見据えている。ナイフのような牙が、すぐそこまで迫る。


「嘘だろ……木まで登ってくるのかよ……!」


死を覚悟し、武が脳内の「次元間トレーダー」のスキルで何か武器になりそうな日本製品を必死に検索しようとした、その時だった。


グゥゥゥオオオオオオォォォォン!!!


大気を、そして大地そのものを震わせるような、サーベルタイガーの比ではない咆哮が轟いた。

直後、すぐ下の草むらが爆発したかのように弾け飛び、超巨大な影が躍り出た。


それは、サーベルタイガーの数倍はある巨体。まるで装甲のように硬く分厚い皮膚と、大樹をもへし折りそうな太い四肢。長く強靭な一対の巨牙を持つ、原始の王者――マンモスだった。


興奮状態のマンモスは、木に登ろうとしていたサーベルタイガーを目がけて、その巨大な質量ごと真っ向から突進した。


ドガァァァァァン!!!


凄まじい衝撃音が響き、武がしがみついている大樹が激しく揺れる。

マンモスの鼻の一撃をモロに喰らったサーベルタイガーは、悲鳴を上げながら数メートル吹き飛び、地面に叩きつけられた。


形勢は一瞬で逆転した。激昂するマンモスは、さらにサーベルタイガーを巨大な足で踏み潰そうと、凄まじい地響きを立てて襲いかかる。

枝の上で必死に落とされないようしがみつく武の目の前で、太古の巨大生物たちによる、血を洗うような大迫力の死闘が始まった。


武は姿勢を極限まで低くし、茂みの陰に身を隠しながら、死に物狂いでその場から這い出た。

振り返る余裕などない。ただひたすら、捕食者たちの戦場から遠ざかることだけを考えて、背丈の高い青草の海を泳ぐようにして進んだ。


どのくらい走り、歩いただろうか。

やがて、背後の地鳴りのような騒音が完全に聞こえなくなった。


「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」


喉が焼けるように熱い。武は泥まみれになった高級スーツの膝をつき、激しく荒い息を吐き出した。どうにか生き延びた。だが、安心したのも束の間、じっとりと冷や汗が背中を伝う。


あたりを見渡せば、どこまでも続く平原と、遠くにそびえる見たこともない巨大な山脈。遮るもののない大自然の中で、自分が完全に孤立しているという現実が、冷酷に突きつけられていた。


手元には武器も、水も、食料もない。ただ、脳内に埋め込まれた【次元間トレーダー】という未知のスキルの知識だけが、彼の唯一の生命線だった。


武は息を整えながら、先ほど脳内に流れ込んできた絶対的な知識を、もう一度正確に反芻した。


(待てよ……。脳内に入ってきた知識じゃ、ここは……人類が誕生するよりも遥か昔の世界、だと……!?)


西暦2026年の現代において、最古の人類(猿人)が誕生したのは約700万年前、私たち現生人類(ホモ・サピエンス)が誕生したのはわずか数十万年前とされている。


つまり、この世界には助けてくれる人間も、言葉を交わせる原始人すらも、一人として存在しないのだ。


本当の意味での、完全なる未開の孤島。地球そのものが、手付かずの荒野だった。


「誰も、いない……。マズいな、本当に俺一人だけか……」


圧倒的な孤独感と、先ほどの捕食者たちの恐怖が襲いかかる。

まずは安全の確保、長期的にはこの過酷な太古の地球を生き抜くための足がかりが必要だった。この地球には、武の知る「安全な場所」などどこにもない。


(……なら、俺が作るしかない。誰もいないこの世界に、俺の手で、最高の楽園を……!)


まずは安全な場所が必要だと思い山に向かう、草がないとことを歩き山肌に到着した時はもう汗だくだった。そこから洞窟を探したが中々見つからない。別の場所をに行こうと思い始めたときようやく見つけることができた。


すこし屈む必要があるが奥には何の動物もいなかった。

ようやく安堵して、疲れた体を地面に座り込んだ。


(明日からどうすればいいんだ?)


前途は多難だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。