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 1ー4 「辺境?の村を散策 前編」

 食卓の椅子に座る。木目が綺麗なテーブルの上に、褐色の塊とサラダ、切れ目が入った細長いパンが一つの皿に乗って三人分並べてあった。

 反対側に座っているミリアとソレンスを見ると、パンの間に褐色の塊とサラダを挟んで食べていた。

 なかなか、食欲がそそられる食べ物だ。少食なので、あまり多く食べることはできないが、なるべく残さないように食べよう。

 私も二人と同じように、褐色の塊とサラダを細長いパンに挟む。そして、両手でそれを持ち、小さな口をできる限り開けて豪快にかぶりつく。

「う〜ん!」

 褐色の塊は肉だったか。前前世では、肉は貴重なもので、それの代わりに作られたものをよく食べていた。本物は久しぶりだ。

 それに加えて、シャキッとした新鮮な野菜に表面はパリッと、中はふわふわとした食感のパン。まさに最高の組み合わせ!

「ママ、おいひいでふっ!」

「ありがとう。でも、ちゃんと飲み込んでからしゃべるのよ」

 私は長い間味覚を感じなかった反動で、目を輝かせながら勢いよくパンを食べる。

 一応、この料理の名前を聞いておこう。

「これ、なんていうんでしたっけ?」

「この地域に古くから伝わる料理、カスクートよ」

 なんだか食べ物についても興味が湧いてきた。今度、自分で料理を作ってみようかな?

「リーナ、いい食べっぷりだな。今度、パパがオリジナルのカスクートを作ってやるぞ」

「だいじょぶ!」

 私は反射的にそう答えてしまった。反対側で、ソレンスが落ち込んでいるのだが目に映る。でも、これには訳があるんだ。リーナの記憶の中に、ソレンスの料理を食べたリーナとミリアが一日中寝込んだという記憶があった。

 だからソレンスよ、すまん。許してくれ。

「ごちそうさまでした!」

 私はそう言って、そそくさと食卓を後にしたのだった。


「歯磨きとお風呂も済ませたし、いざ!魔術入門書を読もう!」

 寝巻きになった私は、枕の下から魔術入門書を取ると、ベットの上で魔術入門書を勢いよく開いた。

 記念すべき1ページ目!

「あれ?」

 何も書かれていない。そんなの当然か。続いて、ページを捲るが、また何も書かれていない。

「今度こそ!」

 3ページ目、4ページ目とめくっていくが、何も書かれていない。

 そして、最後のページまで捲ったが、結局何も書かれていなかった。

「なんでぇ!?」

 もう一度表紙を見てみると、題名の下に小さく注意書きがあるではないか。

「不正な売買を防ぐために、表紙の中心の魔法陣に所有者の血を一滴垂らしてください、だって?」

 そういうのは、もっと大きくかいてほしいな......そう思いつつ、右手の親指の先を小さく噛みちぎった。

 ポタッ、血が魔術入門書の魔法陣の中心に染み込む。その途端、魔術入門書が光り出し、本の台紙が茶色から水色に変化した。

「わぁ!やっと、やっと魔術に触れられるぅぅ!」

「リーナ、もう寝るのよ」

 私が喜びに浸っているところ、ドアの向こう側からミリアの声がした。少し騒ぎすぎたかな?名残惜しいが、明日の夜のお楽しみだ。とりあえず寝よう。私は魔術入門書を枕の下にやり、ランプの火を消した。

「じゃ、また明日の夜。おやすみ......」

 毛布を手に取り体にかけると、私は枕に頭を沈めて眠りについた。


── そして、ついに朝がやってきた。

「う〜ん!」

 私は起き上がると、大きく伸びをした。なんて清々しい朝だろう。

 窓のカーテン越しでも、太陽が燦々と輝いているのがわかる。

 今日は、この村を散策する日だ。リーナの記憶にも、自由に外出している記憶があるため、きっと小さな子供が一人で出歩いても大丈夫な、安全な村なんだ。

 そう考えている時、ドアをノックする音が聞こえた。多分、朝ご飯だとミリアが知らせに来たんだろう。ドアがガチャリと開く。

「おはよう、リーナ。朝ご飯ができたわよ」

「支度ができたらすぐ行くね」

「ところでリーナ、寝癖がすごいわよ」

 私はハッとして両手を髪の毛にやる。う〜ん、結構なはねようだ。髪の毛が勝手にユーモアを全開にしている。

「羊さんの毛みたいね」

 ミリアはくすくすと微笑みながら、部屋を出た。

まさにその通り!だけど、いざ人を前にすると恥ずかしい。しかも、中身大人だし。

 私は羞恥心でいっぱいになり、頬を赤に染め上げる。

 これから公共の場に出ることが多くなるだろうし、誕生日プレゼントは玻璃製の手鏡にしてもらおうかな?

 私はそんなこんなを思いながら、朝の支度を済ませ、食卓に向かった。

 

 今日の朝ごはんは、挽肉と野菜を炒めたものに、茹でたじゃがいもを丸々一個つけ合わせた料理。

 昨日の夕飯とはまた違った感じだ。

「いただきま〜す!」

 私とミリアはまだ温かいうちに、料理を食べ進める。そういえば、今日は朝からソレンスの姿が無い。寝坊だったりして?

「ママ、パパはどうしたの?」

「パパはね、村の騎士さんに剣を教えに行ったのよ」

「パパってすごいんだね」

 朝早くから剣術指導か。さすが、爵位をもらった名誉騎士。剣の腕もなかなかのものなのだろう。

「私、今日一人でお出かけするんです!その時、パパに会えたらいいなぁ」

「訓練場までは遠いけど、大丈夫?」

 ミリアが私を心配そうに見つめる。でも、私にはリーナの記憶があるから、大丈夫......なはず。

 ミリアを安心させるために、大丈夫だよ!とでも言っておこうか。

「前にたくさんお出かけしたから大丈夫だよ!」

「......それもそうね。食べ終わったら行くんでしょう?行く時は、ママに一声かけてから行くのよ」

「は〜い。ごちそうさまでした!」

 今日の朝ごはんもなかなかのお味。ミリアが定食屋を開いたら、繁盛するんじゃないかな。美人だし。

 私は自分の部屋に行き、白いワンピースに着替える。そして、部屋のドア付近にかけてある麦わら帽子を被って玄関先へ向かった。


「ママ!」

 玄関にはすでに、小さな麻袋を持ったミリアがいた。

「はいこれ」

 そう言うと、ミリアは麻袋を差し出してきた。私はそれを受け取る。

「お弁当と水筒よ。リーナはお出かけしちゃうと、いっつも夕方まで戻ってこないから」

「ありがとう。じゃあ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

 ミリアは優しい笑顔で手を振ってくれた。なんていい母親なのだろう。なんだか、前前世の私の母を思い出す。

 私は家から一歩を踏み出した。踏み出した途端に感じたのは、温かな太陽の光。

 私は長年感じられなかった自然に舞い上がって、思わずその場で一回転する。ふわりと白いワンピースの裾が持ち上がった。

「うわっ!」

 自分の足に自分のもう片方の足を引っ掛けて、転んでしまう。でも......

「痛くない」

 芝生が羊毛のようにふわふわだったおかげだ。私はのそりと立ち上がる。家の窓から見ても気づかなかったのだが、この家は丘の上に建てられていたみたいだ。 

 そよそよと流れるそよ風が気持ちいい。

 この丘の上からは、木造の家やら畑やらが一望できる。家よりも圧倒的に畑が多ことから、ここはド田舎なのだろう。

 自分の部屋の机の前の壁に貼られてあった世界地図の大きな大陸の南の端の方に、赤文字でミディナ村と書いてあった。なんせ、端にあって森に囲まれていたから、辺境の村なんだろうと思っていたのだが、辺境じゃなくてよかった。

 辺境暮らしだった私にとって、辺境と田舎はあまり大差ないものだけど。

 私は村の開けた一本道を目指して、丘の緩やかな斜面を下っていく。

 本当に畑ばっかりで、家が少ししかない。そして、人の気配がなく、がらんとしている。

 まあ、この国の首都から離れているからしょうがないか。

 ちなみに、この国の名前はラディア王国、首都名はシェルミアで、ここから首都までは馬車で二ヶ月もかかるらしい。飛行魔術だったらどれくらいでいけるんだろう。

 そう考えている時、道の脇に建っている家から声がした。

「お嬢ちゃん、今日はどうしたんだい?」

 声がした方を見ると、麦わら帽子を首にかけて杖を突いているお爺さんがいた。第一村人発見!

 リーナの記憶の中で、いつも野菜をお裾分けしてくれていた親切なお爺さんだ。

「今日は村をぶらぶらしようと思って。ついでに、パパが剣を教えているところを見に行くの」

 そう答えると、お爺さんは口を緩めて小さく頷きながら微笑んだ。

「お嬢ちゃんは親孝行で偉いねぇ。でも、この村を囲っている大森林には行かないようにするんだよ」

 見た感じ普通の森だったけれど、奥に凶悪な魔物でも住んでいるのだろうか。

「絶対に入っちゃいけないの?」

 お爺さんは深く頷いた。

「森に入って出てこなかった人たちを何人も見てきたからねぇ」

 そう言われると、ますます森に立ち入りたくなる。でも、今日のところはやめておこう。行く機会は、これからいくらでもあるからね。

「教えてくれてありがとう」

 私はぺこりと一礼して、道なりに歩いていく。

「それにしても暑いなぁ」

私は立ち止まって、汗を腕で拭う。少し歩いただけなのに、もう息が上がってしまった。暑いのもあるけれど、リーナに体力が無いことも原因の一つだ。そして、残念なことに私も運動が苦手だから、もう体力はつかないと思う。

 道のりに20分ほど進むと、教会があった。教会の壁は白と水色で塗られており、教会の前には女神をモチーフにした彫刻が置かれていた。

 それにしても、天界の女神様に似ている気がする。彫刻の頭部を見てみると、何と女神様が着けているサークレットが彫られていた。まるで、実物を前にして彫ったみたいだ。

 私は教会の重たい木製の扉を力一杯押す。きぃ、という音で掃き掃除をしていた神父さんがこちらに振り返る。

「やあ、リーナちゃんじゃないか。今日も、図書室に行くのかい?」

 私は、扉を閉めてから答える。

「はい、今日は色んなところを回る予定で」

 リーナの記憶の中にいた、小太りのおっとり神父さん。この笑顔ときたら、まるで神父というよりもお釈迦さまだ。というか、記憶と違って、後ろから神々しい光が差し込んで見える。         

 神父さんの笑顔が眩しすぎるあまりの幻覚か。

「なんだか、今日は神父さんが神々しくて光って見えます」

 私がそういうと、神父さんは目を丸くした。

「この光が見えるのかい?」

「はい、そうですけど......?」

 冗談のつもりだったんだけど、えっ、私変なこと言った?

「今日はお祈りの時に光の魔術を使ったんだ。この光は、その時の魔力の残滓だよ。リーナちゃんはその年で魔力が見えるんだから、魔術の才能があるかもしれないね」

 神父さんって魔術使えたんだ!?しかも、これが魔力だとは思ってもいなかった。

「へへっ」

 でも、褒められて嬉しい。まあ、リーナにあるはずだった素質だけれども。

「じゃあ、一時間ほど図書室にいるので」

「借りたい本があったらいつでも言っていいからね」

「ありがとうございます」

 私は丁寧にお辞儀をすると、教会の奥の右端にある図書室の扉まで向かっていった。

 教会の天井には、この村にあるとは思えない豪華なシャンデリアが吊るしてある。そして、教会の奥にはまたしても女神の彫刻があり、それに向かいあうような形で木製の長椅子が、ここまでぎっしりと置かれていた。

 また、女神の彫刻と一番前の長椅子の間に、石造の祭壇がある。それも、かなり高そうな石の。

 その時、私はふと思った。

 教会にお金をかける前に、この村の開発にお金をかけるべきだと。

 かけてしまったお金は元には戻らないからしょうがない。


私は、図書室の扉を押し開ける。途端、本のあの独特の匂いが香ってきた。

 ざっと、本は一万冊。これは少し大きめの書店程度の冊数だ。

 私は図書室に入り、棚を順番にまわっていく。サザン教の歴史、近代魔術のセオリー、ラディア建国物語などなど、さまざまな本が並べてあった。

 一部の本をぺらっと見てみたのだが、ここにある本は大人、もしくは研究者向け。

 本をかき集めて読んでたリーナ凄すぎでしょ。子供は飲み込みが早いからね。これは、私が一番分かっている。

 図書室を見てまわった感じ、魔術の術式について書かれていた本はなさそうだった。それ以前に、この世界の魔術がどんなものなのかが分かっていない。

「魔術入門書を読んでからじっくり探そ」

 私が図書室の窓を覗くと、教会の隣に花園があるのが見えた。親切に、ベンチも置いてある。

 ちょうどお腹が減ってきた頃だし、あそこでお弁当を食べようか。

次回、「辺境?の村を散策 後編」

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