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ゲームの裏仕様を知る者 ~凡人だった俺が“隠しステータス”で最強になる~  作者: 妙原奇天


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第2話 赤い楔形の影

 〈Hidden Parameter Pane〉の余韻が、まだ目の奥でちらついていた。

 Luckをほんの少し動かしただけで、世界がざらりと変わる。NPCの視線、宝箱の出現、戦闘の微妙な手触り……すべてが裏で繋がっている。


 だが、それを見ていた者がいる。

 〈System Whisper〉――黒い仮面のアイコン。

 あるいはそれは、僕に問いかけた。

 「それ、どこで覚えたの?」


 答えられるわけがない。僕自身だって理解していないのだから。

 返信を打とうとした指が止まる。そこでタイミングを重ねたように、白百合の剣姫からフレンドチャットが届いた。

 『裏仕様は噂で聞いたことがある。危ない橋よ。でも、守る。だから、うちのギルドに来ない?』


 黒と白。

 選択肢が、同時に差し出されるなんて偶然があるのだろうか。いや、偶然ではないのかもしれない。Luckをいじった直後に起きたことだ。

 “運”は、僕の手で傾き始めている。



「……蓮、だよね?」


 広場の屋台通りで、背中を叩かれた。

 振り向くと、かつてのギルド仲間、リディが立っていた。彼女は回復役で、よく僕の隣にいた。

 だが今の瞳は、かすかに冷たく濁っている。


「聞いたよ。アッシュが言ってた。“凡人の補助士は見学で十分”って」


 胸が刺されたように痛む。けれどリディはさらに声を潜めて、囁いた。


「でも、さっきの草原……見てた。蓮、動きが違った。何かした?」


「……偶然だよ」


「偶然? 宝箱が二つも出たのも?」


 言葉に詰まる。

 知られている。いや、気づかれている。

 裏仕様は“秘密”であるはずなのに、数字を少し動かすだけで目立つのだ。


「ねえ、もし何か知ってるなら……私と共有してくれない? アッシュの連中に内緒で。ふたりだけの秘密にすれば、私たち――」


 甘い響き。しかし僕の視界の隅、〈Hidden Parameter Pane〉がわずかに揺れる。

 Favorabilityリディ:+0.2 → +0.3

 ……好感度すら、僕の知らないところで動いている?


 背中に冷たい汗が流れた。

 これはただのゲームじゃない。

 人間関係そのものが、裏の数値に絡め取られている。



 その夜。

 ログアウト直前、再び〈System Whisper〉が点滅した。


 『裏仕様を持つ者は二種類に分かれる。利用する者と、利用される者』

 『お前は、どちらになる?』


 返答する間もなく、ログは途切れた。

 真っ暗な六畳間の天井を見上げる。

 凡人でいることすら許されないのか。

 ――いや、許されないのなら、もう一歩進むしかない。


「利用する。僕は……凡人のまま終わらない」


 呟いた声は、現実の部屋でだけ響いた。

 でもその瞬間、枕元のスマホが震えた。

 見覚えのないアプリ通知。

 そこに表示されたアイコンは、あの赤い楔形と同じ形だった。

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