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第94話 終わりなき夜を超えて

「エンド、次の目標は?」


 静かに、セレナが尋ねた。


 エンドは一度だけ目を伏せ、すぐに前を見据えたまま答える。


「……神代が言っていた、“ムー大陸”」

「そこに繋がる情報を探したい」


 その声に、迷いはなかった。

 過去でもなく、未来でもない――

 今、この手で確かめるために。


 セレナは少しだけ考え込んだあと、言った。


「だとすれば……イギリスね」


「イギリス?」


「ムー大陸が出現した頃、世界で最初に“変化”を起こした国よ」

「産業革命を最初に迎えた地でもある。

 何かを――掴んでいた可能性がある」


 エンドは短く頷く。


「……そうか」


「ただ――」


 セレナの声色が、わずかに沈む。


「イギリスには、G.O.D.の本部がある」


 それ以上、多くを語る必要はなかった。


 エンド自身も、すでに知っている。

 自分が、そこでどう見られるかを。


「……危険だな」


「ええ。危険よ」

「でも、行くんでしょ?」


 セレナはまっすぐエンドを見つめた。


 たとえ待ち受けるのが刃であろうと。

 迷わないと、彼女の瞳が語っていた。


 エンドはわずかに笑う。


「行くさ」


 夜の風が、ふたりの間を抜けていった。


 どこまでも、冷たく、透明な風だった。






 その頃、世界を震わせる速報が駆け巡った。


 ――『ヴァチカンからの公式発表です。』


 荘厳な鐘の音と共に、重厚な声が各国のニュースを通して流れた。


『本日をもって、ヴァチカン聖庁は新たに三名の聖騎士パラディンを任命します。

 これにより、増加し続ける魔物災害への対抗体制をさらに強化するものとします。』


 その報せは、まるで世界を震わせる雷鳴のようだった。


『選ばれたのは、未曾有の混乱の中で数々の奇跡的勝利を収めた三名の英雄たち。

 彼らは、今や世間で――“三銃士”と称されています。』


 スクリーンに映し出される三つの名と、その異名。


 ⸻


【暁の審判】

 ライアン・クロフォード


 ――夜明け前の闇を断ち、正義を示す者。

 かつて“銀の神子”セレナと共に闘った彼は、今や自らの光を掲げている。


 ⸻


【雷鳴の使徒】

 ガイ・ルーベンス


 ――雷のごとき瞬速と破壊力を誇る戦士。

 嵐の中を駆け抜け、稲妻の剣で数多の魔を屠った若き猛将。


 ⸻


【薄暮の葬送】

 ミレイユ・クラウゼ


 ――薄暮の静けさに死を纏う少女。

 その刃は、沈みゆく陽の如く、静かに、だが確実に敵を葬る。


 ⸻


「……三銃士、ね」


「これで、ヴァチカンも本気を出してきたわけか」


 各国の指導者たちが、騎士団の再編成にざわめき、

 G.O.Dの高官たちは眉をひそめ、

 魔物の領域では、名もなき魔たちが怯えた。


 ――世界がまた、“新しい秩序”に向けて、動き出していた。



 エンドとセレナの旅に新たな敵が現れた


 そして今日は新月。

 吸血鬼は闇に溶け込みやすいが皮肉にも月は2人を照らしてくれない





 エンドとセレナの旅に――

 新たな敵が、立ちはだかろうとしていた。


 世界は動き始めている。

 新たな聖騎士たち、三銃士の誕生。

 その影で、なお密かに進行する魔物たちの蠢動。

 そして、誰にも知られぬまま、ムー大陸の謎が再び目覚めつつある。


 だが、エンドたちはまだ、その全てを知らない。


 今日の夜は――新月。


 吸血鬼にとって、闇は祝福だ。

 月明かりがない夜は、影に溶け、風に紛れるには最適なはずだった。


 けれど今夜の闇は、ただ冷たかった。


 月がない。

 世界に光はない。

 あの仄かな希望のような銀の灯すら、二人の背を押してはくれなかった。


 闇は、優しくなどない。

 ただ、どこまでも、無慈悲に静かだった。


 それでも、彼らは歩く。


 ――誰にも照らされずとも。

 ――誰にも守られずとも。


 エンドは、黙って前を見据えた。

 セレナもまた、その背を支えるように隣を歩く。


 風が吹く。


 その冷たさすら、もはや痛みではなかった。



 風が吹き抜ける夜道。

 月もない空の下、ふたりの影だけが静かに並んでいた。


 ふと、エンドが口を開いた。


「……セレナ」


 呼ばれた名に、セレナは小さく振り向く。


「何?」


 その問いに、エンドは一拍置いて、微笑んだ。


「またこうして……一緒に歩けるのが、嬉しいよ」


 セレナも、ふわりと笑った。

 それは凛々しく、けれどどこか、ほっとしたような笑みだった。


「私も……嬉しい」


 それだけだった。


 けれど、言葉は必要十分だった。

 冷たい夜の中で、ふたりの間にだけ、確かな温もりがあった。


 誰にも知られず。

 誰にも触れられず。


 ただ、二人だけの小さな灯火のように。


 ――そして、彼らはまた歩き出す。

 彼らは進む。

 終わりなき夜の先に、何が待つのかも知らずに。



 ただひとつ確かなのは――

 次に訪れる闘いは、これまでよりも遥かに深く、重いものになるだろうということだった。


 夜が、静かに、深く、沈んでいく。


 そして、物語はまた――新たな闇へと、歩みを進める。


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