第九十一話 補給
本当に昨日は色々なことが一度に起きた気がしていた。
そんなことが一番に思い浮かびながら目が覚める。
これまでに感じたことのない柔らかさと温かさを感じて、これまた何事かと思い瞼を開けていく。
「んー…?」
「随分と懐かれたものですね?」
「えぇ?なに…?」
「信希は本当に…」
「イレーナ…?」
「ワタシは後ろです」
あれ?でも目の前に誰かいるぞ…?
徐々に感覚が明確になってきた時、自分の体に触れているものが、イレーナにしては小さいと感じる体躯で、一気にオレの体温を下げていくのが分かる。
「カフィンか?」
「ええ」
「い、イレーナ…子供だよ?そんなに怒らなくても…」
「怒っていませんよ?ただ女性なのは間違いありませんけど?」
「こ、こわいよ…」
「信希は、もっと多くの女性が欲しいんですか?」
「え?」
「…え?」
「ちょ、ちょ、どういうこと…?」
「もっと女性たちが欲しいから、優しくしているんじゃないんですか?」
「んなわけないじゃん!もしそうなら、みんなのことでどうこう悩んでないって!」
「た、たしかに…?」
「ん…ぅぅ…」
「ご、ごめん、カフィン起こしちゃったね…」
「おあよぉ…」
「うん。おはよう、顔を洗って朝ごはんにしようか」
「うんー…」
「と、とにかく。そんなつもりじゃないから…ね?イレーナ…」
「今はそういうことにしておきます」
「今も何も…これからもずっとそのつもりなんだけどぉ…」
どうやらイレーナは、オレにカフィンが懐いていることに怒っているみたいだ…。
こ、子供だよ…?女性と言えばそうなんだけど、女っていうより女の子って感じだろ…?なにか違うのか?オレがおかしいのか…?
怒っているというより──
「妬いてるの…?」
「んなあぁっっ!そ、そんなわけ!」
「だって、それ以外考えられないよ…?」
「んむぅ……」
すっかりほほを膨らませてしまったイレーナは、徐々に顔までもが赤く染まっていく。
そうしか考えられないが、いざそう言われると怒ってしまうよな。今のはオレが至らなかった…失敗だ。
「イレーナ、ちょっといい?」
「へ…?」
何が原因なのかはわからないが、もっとオレもイレーナに愛を告げていくのが大切なんじゃないかと思った。
目覚めつつあったカフィンを優しく振りほどき、反対でこちらを睨んでいたイレーナを抱きしめる。
「ま、まさき…」
「ごめんごめん。オレが好きなのはイレーナだよ」
「んなっ」
愛しているという思いを込めて、痛くない程度にこれでもかと抱きしめていく。
「ま、まさきっ!ワタシが悪かったので離してくださいっ」
「いやだぁ、足りてなかったんだろ…?好きだぞイレーナ…」
彼女の温かさを感じて再び眠くなるのではないかと思うくらいの間、イレーナの事を抱きしめ続けていた。
「パパとママより仲良しだね」
「ああ、オレはイレーナの事が大好きなんだ。愛しているんだよ」
「へぇー!」
昨日の一件があって、カフィンは随分とオレに心を開いてくれているみたいだ。
「今はイレーナの事を抱きしめてるから少しだけ待ってくれなぁー」
「ま、信希…分かりましたから…」
「もう、怒ってない…?」
「そもそも怒ってなんていませんから…」
「……」
「信希…?」
イレーナは離して欲しそうに、もぞもぞと動きながらオレの拘束から逃れようとしている。
「わ、ワタシが悪かったので…」
「やだ」
「ど、どうしたら…」
「むぐぅぅー」
「ま、まさき…」
「好きだぞイレーナ」
「ふぅ…自分の欲望も入っていませんか?ワタシも好きですよ…?」
「ハイッテナイヨ…」
「好きなのは伝わりましたから、離してください」
「くっ…」
「く?」
「もう足りてるの?」
「何がですか?」
「くっ…仕方ないか…」
もう少し近くに居たかったが、これ以上続けると本当に怒られそうだ。
名残惜しいが彼女の要望通りに解放していく。
「もう怒ってない?」
「怒っていませんから…」
「女性に優しいのは元からだよ。特別なのは一緒に居る人だけ」
「そうですか…。でもユフィーナさんへの対応は怪しいものでした」
「昨日のキッチンでの?聞いてた?」
「い、いやっ」
まぁ、気づいていたんだけどね。
少しだけ意地悪してみよう…。
「んー?それ以外に何かあったかな…」
「聞いていました。ああいうのは勘違いさせてもおかしくないと」
「ん-。じゃあお願いした方が良かったのかな」
「……」
再びジト目をいただいております。
「もっと冷たく突き放した方が良かったの?」
「……」
彼女の表情が柔和なものになると、オレの言動に不満があったのが理解出来た。
「でも、ユフィは優しい女性だよ?少なくともオレはそう感じたけど、それでも冷たくしないといけないなんて…、オレは少し心苦しいよ…」
「ず、ずるい…そういう言い方はずるいです」
「なになに?何の話してるの?」
「ん-。カフィンには少しだけ難しい話かもな。分かりやすく言うなら、イレーナがオレを独り占めにしたいってことかな」
「なるほどぉ」
「ち、違いますっ」
「ほんとぉ?」
「ほんとぉ?」
「信希は本当にスケコマシです。優しすぎるのも問題ですね?」
「もっと抱きしめる?」
「違いますっ!見ていれば分かります。ユフィーナさんも惹かれつつあることに信希は気付いていないですか?」
「そんなわけないじゃん?別にそういったフラグイベントなんてなかったぞ」
「イベント…?フラグ…?」
「全体的に普通だったと思うし、伽も断ったし…」
「あの断り方が普通だと…?本気で言ってますか??」
「おかしかった?」
「……言葉の意味を知っていて使っているんですよね?」
「ああ。もちろん」
「メイドに、そこまでする人なんていないというのは知っていますか…?」
「あ、あー…」
確かに、今イレーナに言われて気づいたけど…。オレの立場とかこの世界の常識とか、そういうことを総合してみると好きなように抱けばいいし、断るなら必要ないと言うべきだったのか…?
「もしかして、オレの行動は普通じゃない…?」
「ようやく気付きましたか?」
「ありゃー…」
「はぁ…本当に…」
「で、でも…」
「そんな立場の彼女が、あんな断り方をされて意識しないとでも?本気で言っていますか?」
「こわいんだけど…」
「……」
再びイレーナのジト目が…、かわいいんだけど、でも怒っているのにそう言うわけにもいかないだろう。
「次からは気を付けるよ…」
「本当の本当ですか?」
「あ」
「…?」
「いや、いいことを思いついた。この一件が終わったら実行しようと思う」
「どういう…?」
──。
いつもありがとうございます!
今日はこれで最後になります。
実験も兼ねてまとめて投稿しました。
これからも更新頑張っていきます。宜しくお願い致します。




