第六十四話 例の朝
神に会うまでにみんなとのこれからを考えるとは言ったものの…。流石に我に返るとまだ何か引っかかるものがある。
もちろんみんなの事は大切だ。でもそれだけで本当にいいんだろうか…。
馬車が完成してみんなで夜を休めるようになったので、各々休憩してオレも旅の途中でこんなに休めるのが信じられなかった。
馬たちも馬車の中に入れられると良かったのだが、流石にそこまで想定するのを忘れていたので、外に休憩所を作り寝床を準備してあげた。
ロンドゥナから教えてもらった認識阻害を広範囲に広げる魔法具のおかげで、人間や魔物からは襲われる心配もないので本当に楽になった。
朝が近づいてかこれまでの慣れで目が覚めたのか、どちらか分からないが昨日のみんなとの会話を振り返っていた。
「まさか本当にみんながオレのことを好きなんて…これじゃあハーレム主人公みたいだな…」
「ハーレム主人公ってなんですか?」
オレは声の持ち主の方へ視線を向ける。
「い、イレーナ!?ど、どうしてここに…」
「来ても良いのかと思ってました…ダメですか…?」
「いや、いいんだけど…」
隣にこそいないものの、イレーナはベッドに腰掛けオレの方を見つめていた。
「それでハーレム主人公って?」
「そこ深堀りするんだね…」
「初めて聞いた言葉です」
「ハーレム?主人公?」
「主人公は分かりますね」
「で、ですよねー…」
「…?」
これは教えてしまってもいいんだろうか…。まぁ、これから先ずっと一緒に居るかもしれない人だからな…。問題ないか。
「ハーレムっていうのは一人に異性の人が多く惚れていて好かれている状態を言います…」
「なるほど…、今の信希にぴったりな言葉ですね?」
「で、ですよねー…」
「もう起きますか?まだ皆さん寝ていますけど」
「朝食の準備にしようか。みんなまだキッチンになれてないだろうし」
「はい、ワタシも手伝います」
「ありがとう。そういえば、何か用があったんじゃないの?」
「…そうですね…」
「ん?」
何か歯切れが悪そうな返事に、少しだけ不安になってしまう。
「おはようを言いに…?」
「それだけのために?」
「人族の皆さんは、妻が朝に夫を起こしに行くと聞きました…」
「あー…?たしかに?オレも聞いたことある程度だけど」
なんともイレーナらしい感じだなといった理由だ。
「それに…」
「それに?」
「おはようのキスもあるとか…」
「それをわざわざ…?」
「ち、違うんですかっ!?」
「それは一緒に寝てた朝とかが多いと思うけど…。いや毎朝会った時にするんだっけ…?オレも分かんないや」
イレーナは色々勘違いしていることも多そうだった。
そんな話をしていると目も覚めてきたので、起き上がって布団の外の冷たさを感じる。
「身支度を整えて来るよ」
洗面脱衣所を作ったおかげで、顔を洗ったり歯を磨いたりする習慣に戻れることが出来るのも、地味にありがたかったりした。
「せっかくですし…その」
「おはようの?」
「はい」
イレーナはそう言いながら、隣に座り直していた。
「…」
「…おはよう。じゃあ準備しようか」
「はい。先に行ってますね」
「すぐに行くよ」
イレーナが先にキッチンの方に向かっていったので、オレはすぐに身支度を整えることにする。
洗面しながら、オレは少し考えていた。
「やっぱり最近、オレに優しい事ばかり起きているような気がする。神に会ったら呪われるんじゃないのか…」
会う前に考えても仕方ないか…。この世界に来てからのオレは、全てをケモミミ様に捧げると決めているからな。
もしも、神たちが変なことを言ってくるのであれば…それなりの対応をするしかなくなるから出来れば勘弁してほしい。神と言われるだけあってそれなりに重要な役割もあるだろうからな…。
すぐに身支度も終わったので、イレーナが待っているキッチンへと向かっていく。
「今日は何を作ろうか?」
「そうですね…。軽くパンとスープ…、先日捕っていた肉を焼いておきますか」
「おーけー。すぐやっちゃおう」
「信希?おはようの事でいっぱいになって、先ほど言うのを忘れていたんですけど」
「ん?」
「今日は満月になりそうです」
「あー…?そういえば儀式がどうとか言ってたっけ…?」
「その通りです。ですから、皆さんが起きてきたら説明しましょう。それなりに準備もありますから」
「オレも何か手伝える?」
「ん-…」
儀式とやらがどんなものなのか想像することもできないので、イレーナが何を考えて込んでいるのかも分からない。だが悩んでいる姿も可愛いので全く問題ないな。
「分かりません…。ロンドゥナさんとミィズさんにも聞いて確認しましょう」
「ああ、そうだね。じゃあ先に朝食にしよう」
「はい。コンロを使ってみてもいいですか?」
「ああ。使い方は分かるよね、ちゃんと見てるから安心して使っていいよ」
「はいっ、最初に火力をゼロにするんでしたよね」
「そうそう。いきなり火力を上げてると危ないかもしれないからね」
初めて扱うものだからだろうか、少しだけ緊張しているイレーナを見るのは新鮮だった。
かわいいですな。新婚さんみたいで嬉しいです。可愛いオレの嫁!…じゃないか。まだオレが情けないから結婚はしてないはず…。
このキッチンを考えた時、理想の形になるように対面キッチンを作ったのだ。
料理をするみんなの姿を正面から見るために、オレが寛いでいる皆を見ながら料理が出来るように。やっぱりこの形のキッチンにして正解だったな!何せイレーナが料理をしているところを見ることが出来る!
「こ、こんな感じでいいですか?」
「ああ、完璧だよ。上手に使えている」
「えっと鍋、鍋…」
「後ろの棚に全部入ってるよ」
やっぱり見られていると緊張するよな。
いつもの様子とは少しだけ違うイレーナも、これまた新鮮でとても良いです。
「オレもやるよ。火は任せていいかな?食材の下ごしらえは任せて」
「はい、お願いします」
イレーナが料理をしている姿を見ていたいものの、自分がやるといった手前そういうわけにもいかなかった。
失敗したな…。全然嫌じゃないからいいんだけど。
イレーナと協力しているおかげで朝食の準備はすぐに終わりそうだった。
──。
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