二、
深世に会えるのが楽しみな理由がもう一つある。
今日は御神木に、蛍迎ノ舞が奉納される日なのだ。鬼隠し村の、初夏の神事らしい。
もちろん、深世が華麗かつ可憐に舞うわけだが、その奉納舞を碧斗も拝見しに来たというわけだ。
胸踊らせながら、無事、碧斗は民宿かまくらにたどり着いた。女将の清瀬が女手一つで切り盛りしている、村で唯一の民宿『かまくら』だ。
今回も宿泊のお世話になるので、手荷物を置きがてら、最初に顔を出すようにいわれている。早く深世に会いたいと逸る気持ちをなだめつつ、碧斗はのれんをくぐった。
「あらぁ、久しぶりにねぇ。いらっしゃい」
着物姿の清瀬は美しい笑顔で迎えてくれた。美人女将としてテレビ出演してもおかしくないくらいの、目元のほくろが印象的な美人だ。
「こんにちは。またよろしくお願いします」
碧斗もにこにこと答える。とにかく、今日の碧斗は機嫌がよかった。
「お腹すいたでしょ?特製いなり寿司作っておいたから、食べて行って」
「わぁありがとうございます!」
碧斗は席につく。民宿かまくらは一階が食堂になっているのだ。ちなみに、食堂の名前は『きつね』である。
清瀬の夫は、これまた超絶美形の雪狐だ。ただし、冬の間しか会えないというおまけ付きだった。
いなり寿司は雪狐にも人気な、民宿の看板メニューだ。碧斗はさっそく頬張る。
「深世ちゃんも、ずいぶん巫女様らしくなってきたよ。前よりもまたきれいになって。前から別嬪さんだったけど、ちょっとばかり影があったものね」
清瀬はことりと湯飲みを置きつつ言う。それはそうでしょうとも。愛の力は偉大なのだ。
「まぁ、深世には俺がいますから。彼女も幸せなんでしょうね。はっはっは」
「あなたは黙ってたらいい男なのに残念よね……」
そうだった。鬼隠し村にはもう一人癖の強い人がいた。異能ではないけれど、美人なのに毒舌女将が!
心の声というものは女将には存在しない。すべて口をついて出てくる。何度涙目になったことか。……自分は客なのに。
だが、こんなことでへこたれていてはこの村には来られない。何より今日は深世に会える。それだけでメンタル豆腐は強くなれるのだ。




