三、
「そういえば、右京さんはどうしてますか?」
清瀬に訊けば、だいたいの情報は把握できてしまう。
右京も、最後には分かってくれたようだったけれど。
「あの人は、相変わらず村と東京を忙しく行ったり来たりしているわ。以前みたいに、優しくて紳士的な彼に戻ったみたいね。加えて婚約も破談になったから、ファンクラブの子たちが大喜びしていたわ」
「ファンクラブ?」
「右京さんはモテるのよ。歌世ちゃんの婚約者になって、深世ちゃんとの結婚が破談になるまでファンクラブは解散していたみたいだけれど、これを機会にまた結成されたみたいで」
駄目だ、ついていけない。右京のことは一旦忘れよう。
「蛍迎ノ舞、清瀬さんもみにいくんですか?」
「もちろんよ。深世ちゃんにとって、初めての神事だからね」
花迎ノ儀は、中止になった。だから、深世にとっては初めての神事だ。
「俺も楽しみです。深世の晴れ姿、きっとかわいいだろうなぁ」
「あー、そのことなんだけどね」
清瀬は表情を曇らせる。今度は一体何なのだ。嫌な予感しかしないのだが。碧斗は心の準備をする。
「実は、ほら。この前やらかした人がいるじゃない? ドラマさながら、というか今時そんなことあるの的な。一昔前みたいな、花嫁連れ去り事件」
「あー、ありましたね。めっちゃディスられてますけど、俺ですねやったの。しかも事件って大げさな」
「何を言ってるの!」
どんっとテーブルを叩かれ、碧斗はびくついた。やっぱり圧がすごい。
「村では大事件なの! 大切な鬼隠しの巫女が連れ去られ、結婚式も台無しになって。前代未聞なのよ。村長まで怒り心頭。深世ちゃんがなだめてくれなかったらどうなっていたか。あなた、ここまで無事たどり着けてよかったわよ」
「村長さんまで怒ってるの⁉」
まさか村長までも異能だったりするのだろうか。じゅうぶんにありうる。こわくて訊けないけれど。
「俺はてっきり、花嫁を救ったヒーローと思われているかと期待したのですが」
「甘い!」
「ひっ」
どすのきいた声に、碧斗は縮み上がった。極道の妻か。
「あなたはね、村じゃお尋ね者なの。見つかったらどうなることやら」
「えー……」
碧斗は心底うんざりした。
「お尋ね者っていまどき……。まぁ仕方ないか。深世をかっこよく奪ったわけだし?」
「うふふ、馬鹿よね、ほんとに」
「あの、心までボリューム下げてもらえませんかね……」「とにかく、あなたは村に仇なす男として、今は特に警戒網がしかれてるわ。大事な夏の奉納舞の前だしね」
「はぁ」
碧斗は気のない返事をした。仇なす男ってどこの時代劇だよ……という不満はさておき、出禁になっているのはまずい。どうして鬼隠し村では、事がスムーズにいかないのだろう。




