散策終了
本棚になかったものが、ここのどこかに有る。
そうなってくると怪しいのはたまたま見つけたあそこである。
「うーんと、確かこの辺りだったかな。ごそごそ」
私は壁の下部に触れていく。
そこで一箇所奥の方に押し込めるような場所がある。
けれどそこは暗くて奥の方までよく見えない。
しかも冷たい空気が私の頬を撫でる。
あまり入りたくないなというか、遠くの方で風の反響音が聞こえるというか……人が住んでいたとは思えないなと思った。
それともこの異世界人は、こういった所に住むのがよくあることなのか、はたまたここにきた人の性癖か。
などと邪推をしつつ、“魔法灯”の明かりで中を照らす。
どうやら垂直な穴にはなっていないようだ。
もう少し下げると、螺旋とは言えないまでもゆるやかに曲がる階段が見える。
もしかしてここに元は台のようなものがあったのだろうか?
それにしてもここの入ってすぐの場所から下までにはそこそこ高さがありそうである。
近場にロープでもはって降りるかと私が考えているとそこでシオリが、
「フィーネ、その右端の方になにか書いてあるよ?」
「? それは模様ではなくて?」
「えっと模様の中に言語があるというか……」
「……シオリの言語変換能力で、暗号化された模様から文字を読み取ったってことかな?」
そう言われて目を凝らすと、確かにこの筋とこの筋はを繋げていくと文字である。
とりあえず私のその読みが正解しているのかの答え合わせも兼ねて、
「“弓の道を集うものは、虹の階段を登るだろう”だそうです」
「私が読んだのと同じ。よし、その言葉で正解みたいね。……あれ?」
そこで、私の目の前の場所が光りに包まれて……光り輝く色とりどりの階段が現れたのだった。
どうやら今の言葉がここを開く鍵になっていたらしい。
けれどここで一つ疑問が有る。
「剣の妖精、ミル。貴方に聞きたいことがあるんだけれど」
「はいはーい、何でしょうか? と言っても私が答えるとは限らなかったり?」
「そうなの。答えなかったらその時どうするか考えるわ。それで、今の呪文は私達の世界の言語で音を発したはずなんだけれど、なんでそれで起動するの?」
「さあ?」
ミルがニコリと笑って首をかしげた。
答える気がないのか本当に知らないのか。
そもそも、もっと簡単な方法があるのに今更気づいた。
「そもそも貴方はここの剣の妖精なんでしょう? あの水色の本……“点と点を繋ぐ、線となる”、だったかしら。あれが何処に有るか知らないの?」
「私が知るわけないじゃないですか。私はただの剣の妖精でその力の使い方を知っているくらいですし。そもそもあそこに剣として刺さっている間は行動を制限されていたのであまり周りのことは知らないんですよ。常駐していた人も気づいたらいなくなっていましたしね」
妖精のミルはそんなことは知らないとばかりに話しだす。
とりあえずミルはなにも知らないこととして、
「何で私達の言語で開くような入口があるのかよね。罠かしら」
「ここに入った人間をさくっと処分するための特別な罠? ……それを考えるとそう簡単に手出しできないわね。とりあえず、“探査兎ちゃん・0号”を使おう。シオリ、お願い」
「はい!」
ということでシオリのリュックからあるものを取り出してもらう。
以前作っておいた自動探査兎の人形である。
しかも行き止まりに当たるとその周辺を観察して戻ってくるすぐれものだ。
というわけで隙間からそれを放して後は、
「お昼にしましょうか。そろそろそんな時間じゃない? 戻ってくるのに少し待つし」
そんな私の提案に皆が頷いたのだった。
今日のお昼はサンドイッチである。
中身はハムとトマトとレタスのもの、卵とマヨネーズ、香草を入れたもの、ポテトサラダのサンドイッチ、他にもクリームと果実を挟んだフルーツサンドもある。
他にも焼いたソーセージや野菜などが少々あったりと、豪勢なものだ。
また、デザートの代わりにあめ玉を少し持ってきたので先に配る。
ちなみに飲み物も少し持ってきたのだが、せっかくなので温かい紅茶と、即席で出来るスープのもとを持ってきたのでそれらを楽しもうという話になった。
というわけで、小さなランプに小鍋に水を入れてコトコトコトと。
こういった外に来ると温かいものが食べたくなるのは何故だろうと私は思う。
その間に、私はシオリのリュックからサンドイッチの入った籠を取り出して開く。
それを覗き込むカイとミト。
お茶類は作るのに必要な火をつけるのだけ私が魔法で行って、あとはシオリにおまかせである。
さて、ここで覗き込んでいた男二人がいたわけだが。
その中で真っ先にミトが私に聞いてきた。
「この中でどれがシオリが作ったものか聞いていいかな? ぜひそれを食べたい」
「……シオリに聞こえるように大きな声を出したくなるくらい、何だかなと私は思いました」
「好きな相手の手料理が食べたいと思って何が悪い」
「それならそうと素直に言ってください。言い方が違うとなんか気持ち悪く聞こえます。確かシオリが作ったのはたまごサンドと、ポテトサンドですよ。後は私が全部作ったから」
「そうなのか。ありがとう。そしてカイ、君は僕に感謝をすべきだ」
何故か食い入るようにハムのサンドとフルーツサンドをじっと見つめているカイに、ミトは楽しそうにそう囁く。
そもそもどうしてカイがミトにお礼を言わなければならないのだろうか?
今の会話ではまるで私の手料理が、カイは食べたいだろうと言っているように聞こえる。
だがそれがどういたのだろうか。
だって私はよく、カイにご飯を作って一緒に食事をしているし。
シオリが来てからもいつもそうだ。
そんな特別なものなのだろうか? 女の子の手料理って。
といったように私が真剣に考えているとシオリが、
「お湯がわきました。スープと紅茶、持って行ってくださいね~」
「「「はーい」」」
私とミト、カイの三人がそう答える。
熱々のスープは、今回持ってきたのはオニオンスープである。
木になる“ミドリタマネギ”の果実を使ったスープだ。
加熱すると抜群に甘みが出てくるが、それでもこれは果物とは言いがたい。
ちなみに、シオリの故郷ではこの玉葱というものは、土の中で大きくなる求婚のようなものだそうだ。
さすが異世界。
今思えばそんな変な食べ物でしかも野菜があるのかと思ったものだが、異世界というのは摩訶不思議だと私は思う。
異世界が私達の常識がいまいち通用しないのは、時折シオリ達以外の世界から降ってくる料理本からもよく分かる。
苺が野菜とか。
他にも様々な見たことのない食べ物がいっぱいだ。
あれをそのうち一つづつ作って、良ければ翻訳してレシピ本にして売れないだろうか。
いいことを思いついた、後で早速やってみようと私は決めた。
他にもシオリにシオリの世界の料理について聞いておこうと思う。
きっと私達が知らないものも沢山ある。
やることが新たに見つかったと私は思いながら、紅茶に口をつける。
先ほどシオリに作ってもらったもので、今回は新しい茶葉を持ってきたのだがなかなか美味しい。
これも後でまた買っておこうと私は決める。
そうこうして皆で楽しいお昼を食べていると、私が先ほど放った兎が戻ってきたのだった。




