この世界に放出を?
リドルは私の申し出に黙ってしまう。
手伝えるなら中身が分かったほうがいいと思ったのだけれど、この調子で行くと、
「異世界の技術がこちらに流れるのは、好まないと?」
「……確かにそれもありますが、まだ私達は今日であったばかりであり、信頼関係も全く築かれていません。その状況ではお話できることは限られるかと」
「なるほど。……うん……なるほど」
そう私は呟いて周りを見回す。
彼の言っていることも理屈も分かる。
そこまでは構わないのだ。
ただ他にもう一つ気になることがあったので周りを見回す。
案外近くで伺っていたりするのではと思ったけれど、それはなさそうだ。
もしかしたなら、ミトとリドルが接触しているのを見て逃走したのかもしれないが。
と、そこで何かを探しているのに気づいたのだろう、ミトが声をかけてきた。
「さっきから何かを探しているけれど、フィーネはどうしたのかな?」
「ああ、入り口あたりでそこにいるリドルさんという人にそっくりな気配がしていたから、いないかな~と思ったのだけれど、いなくなっちゃったみたい」
「彼ならさっき、僕達がこちらのリドルさんと接触したら何処かに言って消えてしまったけれど」
「!」
それに反応したのはリドルさんだった。
どういうことだというようにミトを見るがそれに私が、
「貴方と同じ気配の人が私達をつけてきていて、入口付近にいたはずなんだけれど……実は貴方なんじゃないかと思っていたけれど、違うのかな?」
「……今は人出がなくて、私以外にここに回せる人材は私くらいしかいないはずです」
「そうなの?」
「ええ、この扉を抑えるのもそこそこ魔法に詳しくないといけないので、そうなると必然的に少なくなってしまうのです」
「なるほど。それでそのカイの持つ剣の妖精のミルにも手伝って欲しいと」
「ええ。……頼みますよ、ミル」
そう告げると、ミルは嫌そうに、は~いと答えた。
そんな様子を見ながら私はリドルに、
「貴方でないとしたら、貴方とは敵対する何かが見ているということはありますか?」
「……あります。むしろ、その剣を抜いた貴方がたを追っていたとしたら、我々の方でも対策を立てねばなりません」
「その敵対側は何をしたいの?」
「……私達の世界にも魔物が増えていますが、それ以上にこちらの世界に魔物を全て流し込んでしまえば、いずれは我々の世界の魔物は、ほぼ被害を与えないのでは、と」
それを聞きながら、このリドルのいる世界にも魔物が流入しているが、それは有限であり、私達の世界に流してしまえば結果的に減っていくらしい。
何だか嫌な感じだなと私が思いながらもそうなっていると、
「それで“異界の門”がいくつもこの世界に?」
「ええ。粗悪品でもいいから大量にと作られてしまい設置されているので、我々が留めているのです」
「でもどうして私達の世界に流れるのですか?」
「異世界の位置的な関係で、世界と世界の間に有るものが、別の世界が壁になるイメージで言いますか、その魔物の元が出てくる出口を別の世界が塞ぐので一定量しか入ってこれないのです。そしてそれらも、高い場所から水が低い場所に流れるように我々の世界のものは貴方がたの世界に流入させやすいのです」
ようするにこのリドル達の世界は高い場所にあって、私達の世界は低い場所にあるので、魔物の元を流しやすいということであるらしい。
なんて面倒なと私が思っているとそこでミトが、
「なるほど、こちらの世界に魔物が大量に流入するのは分かりました。そしてその粗悪な“異界の門”が大量にこちらに出現する理由もわかりました。それでその“異界の門”が都市部に現れる可能性はあるのですか?」
「……我々の迷宮がある場所が呼び出しやすい、といった所でしょうか」
「では、僕達が住んでいる街には現れそうだね。出来ればその迷宮の何が影響してそれが現れるのかまで教えていただければと思いますね。回収に向かいますから」
「……分かりました。ただ悪用されるのが困りますので、現時点では貴方がただけ、ということでお願いします」
リドルが深々と嘆息してからなにか平べったい鏡のようなものを取り出した。
表面がつるつるとした硝子のようなもので覆われて、銀色の枠で覆われている。
凝った柄もなくシンプルさが魅力的なそれ。
そこにリドルが、私達には“音”としか聞こえないような声を発して、人差し指でその鏡のようなものの表面をなぞる。
現れたのは、水色の表紙の本の……映像であるらしい。
「わー、立体映像……こういうのはまだ私達の世界にはないですね。こういったものは小説や栄華で見たことがありますけれど、実際に見ると驚きますね」
「……?」
それを見ていたシオリを、リドルが変な目で見ている。
そういえば話していなかったなと思って私は、
「この子はシオリ。異世界からきた人です。どうやら飛ばされてしまったらしくて」
「! それはそれは……もしお力になれるなら、場所さえ教えていただければ手助けできるかもしれません」
「本当ですか! 私は“チキュウ”に……」
「“チキュウ”ですか?」
「? はい、そうです」
「この世界からもっとも遠いと言われている?」
「? そうらしい話は、剣の妖精のミルから聞いています」
「……申し訳ありませんがそこまでは我々でも無理です。ほぼ外部から接触不能な様々な世界の孤島のような場所ではありませんか」
それを聞いて、シオリはめを瞬かせて、
「そうなのですか?」
「ええ、ですから、どうして貴方がここに飛ばされたのかまるで思い当たりません。むしろ行きてこうやって動いていることが奇跡か。やはり遠くなるに連れて近くなる事象が有るのでしょうか」
「それ、ミルも言っていましたね。でも動いているのがそんなにおかしいのですか?」
シオリが不思議そうに聞くとリドルが少し考えてから、
「私達も、ある程度は魔法での防御を行っていますが、よく体に変調が来ませんね。しかも食事はどうされているのですか?」
「? 普通に食べているのですが」
「……消毒もされていないものを食べて平気……。元の世界と違うように体はなっていませんか?」
「そうですね……凄く力持ちになったり? 後はどんな言語も読めたり話したり出来るようです。あの……どうかしましたか?」
そこで不思議そうにシオリがリドルに聞くと、リドルは、
「ありえない」
「え?」
「そんなおかしな現象は我々は聞いたことがありません。むしろ、この世界に来たことで貴方が“魔法”になってしまったとしか思えません」
「え、いや、え?」
「もしかしたなら本来のあなたとは違うものになっているかも」
そんなことを言い出したリドル。
シオリが新たにつきつけられた現実に倒れこんでいるのをミトが支えていたのはいいとして。
そのシオリ関連はのちのちなんとかしようと私が決めて、今の話から、
「魔法の防御で、ミルがあなたに気づかなかったのかしら」
「そうなのですか? 確かにそうかもしれません。彼らに気づかれないようにそういった魔法をはって……どうして私に気づいたのですか?」
「なんかそんな気配がしたので」
「……」
リドルは絶句したようだった。
それを見ながら私は、
「そういえば、あの“異界の門”て、貴方がたの世界とつながっていたりする?」
「それはまあ、こちら側から送り込むわけですし」
「そうなんだ。じゃあ、これを改良して、シオリが元の世界に戻れるようにするのが、一番手っ取り早いかもね」
「「え?」」
リドルとシオリが同時に声を上げる。
けれどそれからリドルが、
「どう考えても無理です」
「そうかな? 異界に飛ぶ技術の素体があれば改良すれば理屈上は可能なはずだけれど」
「そんな簡単なものでは……」
「やってから考えるわ。でもそうね……その次に現れる“異界の門”を捕縛していじっても構わないかしら」
「……我々のものではありませんから、好きになさってください」
リドルは、戯れ言として片付けたようだ。
そしてシオリの方を見てため息を付き、首をふる。
どう考えても冗談だろうと、自分の中で片付けたのかもしれない。
確かにリドルの立場が私だったら、私もそう思うだろう。と、
「この本、“点と点を繋ぐ、線となる”と書かれていますね」
シオリが、リドルの本の題名を読み上げ、リドルがぎょっとした顔になったのだった。




