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魔導図書館の司書は、伝説の本を求めて、本日も迷宮を散策中です。  作者: ラズベリーパイ@天安門事件


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13/30

翻訳能力を使おう

 戦利品の目玉になりそうな本、を見るのは後にすることにした。

 私は、カイとシオリとともに3階の休憩室に向かう。

 図書館なので人が来るのは当り前だが、時間と場所によって空いている場所と空いていない場所がある。


 そして特定の人物がいそうな場所を推定するとそこ周辺にファンが集まるので、さらにその他の場所は自然と人が少なくなる。

 というわけで人がいないであろう休憩室が出来上がる。

 悪い話をするのに持って来いだが、生憎とそんな話の種になりそうなものはない。


 そして予想通り人がいないのを確認して、


「いつもの事なのよね」


 この時間帯のこの付近はいつも人がいない。

 そう私が思って呟いたのだけれどそれにカイが何かを勘違いしたらしく、


「何がいつもの事なんだ……ああ、俺ってどうしてこんな……」


 嘆き始めた。

 今更どうあがいてもしかたがないというか、カイの場合自分の力を抑えているから自業自得だと私は思いながら嘆息して、


「カイの事なんて言っていないわよ。まったく……大体、強い剣に見初めてもらえて、剣士としては嬉しいんじゃないの?」

「強くたってこんな危険なもの、すぐ傍にあるなんて……」


 そう悲しげに机にうつぶしながらぼやくカイ。

 けれどそんなカイに剣の妖精であるミルはカイの肩に乗りながら


「ご主人様、ご主人様はこの剣に選ばれた凄く幸運な人なんですよ?」

「でもなんだか強すぎる力を持つと、色々と面倒くさそうな責任までついてきそうじゃないか。ただでさえ、フィーネのことで大変なのに」


 聞き捨てならないことをボヤきやがったカイにどのような制裁を加えるの蚊を複数パターンで私が考えていると、この妖精ミルは人を唆そうとするかのように、


「強い力があればどんな障害だって、その気になれば簡単に壊せるじゃないですか」

「そんな力技は俺の好みじゃないんだ。細く長く、タルタルソバのように、何気ない幸せな、穏やかな人生を送りたいんだ……」

「若いくせに老衰してやがる、このご主人様……折角だから、この力を使って世界征服でもしてみませんか?」

「……強力な剣が俺を唆す……やっぱり、もう一度封印してくるか」


 カイが何かを決意したかのように、その剣を見ながら呟いた。

 それに焦ったように妖精のミルが、


「嫌ですー、せっかくこんな外に出て色々面白い事になっているのに」

「まさか、この剣を抜いた事によって別の何かが起こったりしないだろうな」

「……さあどうでしょう」

「やっぱり封印するか」

「ご主人様が実は好きな……むぐっ」


 カイは慌てて、剣の妖精のミルの口を封じたのはいいとして。

 先ほどから私がじっとカイを見ていた。

 正確には、私はカイが剣の妖精と仲のいいカイに、ちょっとだけもやっとしていたのだが、それが私にはよく分らなかった。

 

 ただ、話を聞いた範囲で私が思ったのは、


「大体強い力があるのなら良いじゃない。強い男の人って、格好いいと思うけれど」


 一応私は一般論を言ったつもりだった。

 けれどそこで、カイがくるりと私の方を見て、


「強い俺は、フィーネは格好いいと思うか?」

「うん、そう思うけれど……なんでにやにやしているの?」

「いや、うん。何でもない。強い事は良い事だ」


 何故か元気を取り戻したカイに、私は深く考えず……代わりに別の事を呟く。

 

「それで妖精のミルさん、この剣が引き抜かれる事で何かが起こるの?」

「あぁ……うん、ここ周辺の土地に、異界の門が開くくらいかな」

「異界の門?」

「うん、そう、異世界と繋がって……気をつけないととんでもない魔物が現れるかも」


 妖精のミルはにぱっと笑いながら、いい笑顔で私達に告げた。

 要はこれからとんでもない何かがやってくるのが確定らしいというか、この妖精の笑顔はイラッと来るなと思いながら私は、


「どうしてそんな迷惑な効果をつけた」

「いや、持っている人がきちんと剣を使いこなせるか、使い方を実践で学ぼうという事情でして……」


 そこで、シオリがミルの羽を軽く突く。

 けれどそれに妖精ミルは不機嫌そうにシオリを見て、


「羽、突かないでもらえますか?」

「あ、ごめんなさい。でも異界の門て、私の世界も繋がると?」

「んー、ここから一番遠い世界ですから……でもシオリさんがここに飛ばされたのですから、もしかしたならここと繋がる最短ルートが何らかの形であるかもしれませんね」

「本当ですか! そっか。良かった……」


 そうほっとしたように安堵するシオリの肩を私は叩く。


「そうなると私は必要ない?」

「い、いえ、方法が幾つもあるんだったらその方がいいかなって」

「まあ、そうだけれど……でも異界と繋がるとか、何故そんな恐ろしい事を? まさかこの世界の人間を一掃して自分たちが成り代わろうとか?」

「まっさかー、というか戦うとなるとまあ色々複雑な問題がこちらの世界にありまして、それで出来ればこの世界の人に何とかしてもらえたらいいなというのが、本音なのです」

「……なにそれ」

「いやまぁ、大人の事情というものでして。けれど力を貸す事には異存がないので、それでよろしく」

「……いいけれど、ミトさん経由で今の異界の門の話は伝えておくわ」


 そう女の子に囲まれて愛想よく返しているミトを遠くから見ながら嘆息する。

 暫く時間がかかりそうだと。

 そこで剣の妖精のミルが私の方に飛んできて、


「所でシオリさんを元に戻せるってどうやるんですか?」

「……企業秘密かしら」

「教えていただけないんですか?」

「何処の誰に伝える気なのか分らないから。だってまだ貴方は元の世界と繋がりがあるんでしょう? お互い利用される関係でいいんじゃない? 今は」

「怖い方ですね。でも貴方はもしかしてこの世界では"特別"ですか?」

「天才だもの、当然でしょう? それに変にはぐらかさないで、こちらが何を考えているのかを伝えただけでも随分な譲歩だと思うけれど?」

「ご主人様、この人絶対女の子じゃないです。今なら間に合うので別の……むーむー」


 カイは余計なお世話だと思って、ミルの口を指で塞ぐ。

 大体、私が"特別"な事なんて知っている。いやというほど。

 そこで今度は私がシオリに、


「そうそう、シオリの能力について調べたいから、ちょっと来て」


 そう、私はシオリに告げたのだった。 









 閉架の本棚にやってきた私達。

 その中で私は適当に数冊の本をとって、一冊手の届かない本に、唸りながら背伸びをしていると、


「ほら、これで良いのか?」

「……ありがとう」


 私がカイに微笑んでお礼を言う。

 その表情にカイはちょっと照れていたのだが、そこで私がシオリに振り返り、


「それでシオリ、この本の題名、全部読める?」


 先ほどの迷宮で、シオリはこういった異界の本の題名を全て読めるらしい。

 なので、お手伝い願おうという話になったのだ。

 そして現在異界の本(害がない)を、一通り読んでもらう。


「"導きの書""もてない私が彼氏を作る方法""黒歴史とは何か""たった一分でウエスト三センチ・スリム運動""美に関する各々の歴史"ですか?」

「すごい! 全部違う世界のものなのに、シオリは全部読めるのね!」


 これは素晴らしい人材だわと私が思っていると、そこでシオリは困ったように笑い、


「えっと……その、全部、私たちの世界の……私たちの言語に見えるんですが」

「んー、全部違う言語よね? カイもそう思うでしょう?」


 私がカイに同意を求めるとカイも頷き、


「そうだな、本当にどれもこれも苦労した本なんだ」

「本当にね。でもこれでシオリにはとりあえずどの言語でも翻訳できる能力があることは分ったわ」


 幾つもの異界の言語がシオリには“同一言語”と認識されているらしい。

 視覚を通して認識される情報の時点で、翻訳が行われているのかもしれない。

 非常に興味深い事例で、応用出来ないだろうかと私が算段を立てたりしているとシオリが不思議そうに、


「え? そうなんですか? でも私、ドイツ語とかフランス語とかは読めないんですが?」

「どいつ? ふらんす? ……シオリ達の世界の国?」

「はい、違う言語を使う人達です。でもそれならもっと英語の成績良くても良いのに」


 なにやら嘆くシオリ。

 えーごという言語もあるらしいが、どうやらその能力は元の世界では生かされないようだった。となると、


「世界を飛び越えた事でどういった能力が発現した? ……この世界とシオリの世界の違いって他には何がある?」

「そうですね、"魔法"があるかどうかですか?」


 変なことを言い出したシオリ。

 今までは冗談だと思って、シオリが異世界人だという話は適当に流していたのであまり記憶に無い私だが、その範囲でもそんな印象的な話を聞いたら覚えているので今まで聞いていないだろう。

 魔法がない。


 どんな世界になるのかさっぱり分からないが、とりあえず私はシオリに聞いてみることにした。


「シオリ達の世界には魔法がないの?」

「は、はい、それこそ物語の世界でしか」

「そう、物語の世界、ね……でも魔法に似た何かがあるの?」

「科学があります。でも何処かこの世界の魔法と似ていて……」

「うーん、似たような存在で似たような生活をしていれば、似たようなものを考えたりする事はあると思うけれど……それもおいおい調べていきましょう。どうやらシオリは、本当に異世界人みたいだし」

「ああ、ようやく信じてもらえた」


 感慨深げにシオリが言うのを聞きながら私は、


「やっぱり一概に信用できなくて、ごめんねシオリ」

「いえ、私にはお世話になっているから。それにいきなり言われても信じられないだろうから」


 そう、シオリははにかむ。

 と、そこで私達は館長に呼ばれたのだった。


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