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魔導図書館の司書は、伝説の本を求めて、本日も迷宮を散策中です。  作者: ラズベリーパイ@天安門事件


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10/30

ご主人様、ゲットー☆

 さて、そんなわけで先ほど手に入れた日付の書かれた日記帳を読んでいく私達。

 異世界のものとはいえ、この日記帳の装丁はこの世界のものと同じだった。

 紙のような何か……原料は不明だが真っ白で黒い筆跡で文字が書かれており、以下、これを紙という ……の束ね方も含めて、違いはあれども本だった。

 それを見ていたシオリがふと気づいたように、


「その本も私の世界のものと同じで不思議です。白地の紙に黒い文字」

「まあ、まず記録したいと思ったらこういった薄くて白っぽいものに、黒い線を書くでしょうし、それ が薄くなれば重ねられるようになる……そういう事なのかもね」

「遅いか早いかにせよ、似たことを思いつくのですね」

「ある程度似た考え、感性を持たないと意思の疎通ができなくなるから、知識を蓄積しようとしたら似たような考えで似たようなものを作ってしまうのは仕方がないかもね」


 そうシオリと話しながら、私はページをめくっていく。

 本当に天気と食べたものばかりだな、と思いながらも読んでいくとそうじゃなさそうな話に辿り着 いた。

 なので私はそれを声に出して読んでみると、


「『○月×日。異界に就職が決まった俺。

随分と高い倍率だったが平穏な場所を選べたのは良かったと 思う。

暫く様子を見てから、この場所の爆弾は処理する予定だ』

ちょっと待ってよ、爆弾て何の話? ……書いていないから続きを読みましょうか。

『△月□日、あまりに平和だ。

やる事がない、暇を持て余すのも意外に辛い。

仕方がないので資格の勉強をしていたら、上の方針転換で爆弾を取り除いた。

なのでただ引っこ抜くだけであれば、何の障害も無く上手くやれば剣が抜けて貴方のも

のに!

 ……俺、ここにいる意味なくね?』

昔はこの剣には爆弾が仕込まれていたと。……良かった、カイに無理やり引っこ抜かせなくて」


 そしてそれを読み上げてから、私は少し黙って、ここに書かれている事を反芻してから、


「でも、あの剣は普通に上手く引っこ抜けば、手に入るって事?」


 随分と、安全管理が適当だなと私は思いつつも、ちらりとカイの様子を見る。

 相変わらず熱心に恋焦がれるように剣を見ている。

 そこで私はもう一度文章を読み直す。


 すると、『上手くやれば』という言葉が私には引っかかる。

 上手く剣が抜けないとどうなるのか。

 その上手くいかなくなるような魔法があるとするなら、


「……それがこの魅了に対する魔力耐性? でも……」

「もう抜いていいか?」

「抜いちゃ駄目っ!」


 いつの間にか剣の柄に手をやっているカイに、私は叫んだ。

 そう告げると、カイは不満そうに、


「いいじゃないか、このまま抜いて大丈夫なんだろう?」

「……分ったわ、いざとなったら私が何とかしてあげる! 行け!」


 そう告げると共にカイが剣を引っこ抜く。

 それはそんなに力がかかっていないようであったのだが、


「おめでとうございまーす、この剣を所有する権利が貴方方に与えられましたぁー」


 パタパタという不愉快な虫の羽の音。

 緊張感のないその声はイラっとするほどに明るい。

 ふわふわと舞うそれは何なのだろうと思う程度に思考停止した私。


 そんな私達の前に羽の生えた人型の、"妖精"のようなものが現れたのだった。







 その妖精は私の前に来て、ぺこりと一礼した。


「私はミルって言います。剣の、いわゆる"人工妖精"というものです」

「"人工妖精"?」


 聞いたことのない事のない言葉に私が首を傾げると、その“人工妖精”と名乗ったそれは明るい笑顔で、


「ええ、私達の世界では妖精があまりにも数がすくなってしまったので、それを増やす事業がありまして。その一環で作られた妖精に役割を与えようという事になって、私は剣の妖精をさせていただいています」

「役割?」

「役割がないと存在意義がないので、私達は自然に返っちゃうんですよ。あ、もちろん許容できない攻 撃を受けても自然に返りますけれどね」

「それでその妖精さんが何かよう? 剣を抜いたのはカイでしょう?」


 そう指差すと、カイは剣をじっと見つめて微動だにしない。

 その視線はただただ剣に向けられて、今の会話や妖精にすらも目が行っていっていない。

 そんなカイの様子に妖精のベルは、


「駄目ですよ、彼は。剣の所有者として認めるかどうかの試練である、魅了の魔法にかかっちゃってい るじゃないですかー。そんな人には所有権は与えられません。顔は好みですけど」

「でもこの剣、使えるのは私達の中でカイしかいないわよね。……ちなみにミトさんは使えますか?」

「並べてコレクションにするのは好きだよ?」


 そう肩をすくめるミトを見て、剣はさっぱりなんだと暗に言っているミトから、私は再びカイに 視線を戻して、


「カイ、剣、欲しい?」

「欲しい。あれは俺の剣だ」


 剣の妖精さんが、愛の告白みたい! と嬉しそうに顔に手を当てているので、そんな楽しそうな、人事のようなミルをむずっと私は虫を握るように捕まえて、


「それで、魅了の魔法にカイがかからなければ、持ち主としては認められるってこと?」

「えー、こんな状態なのにそんな魔法を解けるって言うんですか? というか自力でそれを破らないと 認められませんよ?」

「自力で破れたら認められるって事ね、それは」

「流石にここまで惑わされていると無理……ぎゃぁあ」


 そこで私は、軽く手を握った。

 全く何も分かっていないわねと私は怒りを覚える。

 そもそも、カイがこの程度の魅了の魔法にかかるはずがないのだ。


 それをこの脳天気の割に腹黒そうな妖精は、無理じゃなーいと気楽そうに言うのだ。

 ああ、この口調ってとってもいらってするよな―、と思いながら私は優しい猫なで声でその剣の妖精ミルに、


「それで、破れば何の問題もないのね? 魅了の魔法」

「は、はいっ」


 妖精のミルは、強まった力に顔を青くさせて大きく顔を上下させている。

 どうやらそれは嘘ではなさそうだし、言質をとった――妖精相手にそれがどの程度通用するかわから ないが――ので、ポイッとゴミを捨てるように妖精を開放してから私は、


「分ったわ、カイ、これから私の言う事をよく聞いてね!」


 なんだとぼんやりとした瞳でカイが私に顔を向けた。

 そこで、にやっと私は笑い、


「カイ、正気に戻れ。でないとキスするわよ!」


 そう私が宣言すると共に何ともいえない沈黙が全員に走った。

 けれど、一応女の子なので効果があると私は思ったのだ。

 こう見えても美少女だって言われているし……そう私は推測したのだ。

 事実、効果が抜群のようで、


「キス」


 カイは小さく反芻して凍りついた。


「キスは、唇と唇が触れ合う行為で、好きな人と好きな人でするものである」

「うん、そうそう、どうしたの? カイ」


 私は何でそんなふうに言うんだろうと思った。

 ちなみにこの時カイが何を思っていたのかというと、そもそもフィーネはまだカイの恋人ではなくて、片想いの相手なだけで、カイのイメージする恋人同士というものは、まず告白をして、デートして愛を育むべきものであり、それがこんな、幾つものステップを踏み飛ばして、フィーネとキス。

 フィーネとキス。

 そこまでを瞬時に考えて、カイは顔を真っ赤に高潮させた。


「まだそんなのは早いです!」

「……つまり私のキスは気に入らないという事ね。子ども扱いしやがって、ふんだ」

「え? いやそういうわけではなくて……」


 けれどここでフィーネの事が好きなんだというのは、カイ自身、心の準備が出来ていなくて、でもここで言わなかったらもう一生普通の幼馴染のままじゃないかと考える。

 だから、カイはここで意を決して、


「フィ……」

「まあいいわ。カイが真面目で初心だから上手く行ったわね。カイ、あの剣を見てそう思う?」


 一世一代の決意が、さらっと遮られた。

 運命の女神様は気まぐれすぎるというか、最後まで責任持ってくれよと悲しい気持ちになりながら、フィーネの指差す先の剣をカイが見る。

 綺麗な装飾の施された、強そうな剣だったのだが……。


「アレがどうかしたのか?」


 今はじめて見たが特に何とも思わず、不思議そう思ってカイがフィーネに問いかける。

 その様子に正気に戻ったらしいわねと思って私は安堵する。

 そこで脳天気な声で、


「やりました! ご主人様!」


 よっしゃー、イケメンゲットーと、そう、剣の妖精のミルがカイの頬に抱きついたのだった。


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