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第47話 内なる世界の整理

 ノクスとリオン君が広場へ向かって走り去り、路地裏には静寂が戻った。


 僕は木箱の上に腰掛けたまま、一人で深く、心地よい息を吐き出す。


「……よし。古い理屈の解体は、これで完了っと」


 僕は昨夜の気づきに従い、先ほどまで頭の中にストックしていた「地球の科学法則に依存した旧式魔法」を、未練なくすべて意識の底へと沈め、破棄した。


 質量保存の法則だの、燃焼の三要素だの。異世界にまで来て、地球の物理法則にきっちり縛られる必要なんてどこにもなかったのだ。


 昨夜の宿屋での「水球」の生成テスト。そして先ほどの「炎の核」の構成。


 マナから直接現象の核を生み出し、大気中の成分を巻き込んで増幅させる『ハイブリッド方式』の感触は、すでに掴んでいる。


(これまでの旧式魔法は、魔力消費が極小で済む代わりに、容量の限界がすぐに来る不安定な代物だった。あんな綱渡りのような思い込みには、もう命を預けることはできない)


 これからは、世界からの反発を押し通すために魔力を消費するようになっても構わない。どんな状況でも絶対に揺るがない、最高に『安定した魔法の基礎』を作るのだ。


「そのためには、新しい魔法を無数にストックしていくための『内なる世界の地固め』が必要だ。思えば今まで、『魔法』とか『方程式』とか『術式』とか『理』っていう言葉を、気分でかなり曖昧に使い分けていた」


 そういう概念のブレこそが、内なる世界を構築する上での致命的なノイズになる。


 僕は哲学書の内容を参考に、自分自身の思考の海へ、四つの用語を『絶対の定義』として深く刻み込むことにした。


 一つ、【魔素マナ】。


 魔力とイメージ、理に影響される変幻自在の万能粒子。


 二つ、【魔力】。


 僕の体内にあるエネルギー。マナを動かし、僕の知覚イメージと現実との間に生じた『ズレ』を修正し、世界に新たな理を強引に押し通すための圧倒的な『出力』。


 三つ、【ことわり】。


 原理や法則で綿密に構築される、内なる世界の設計図。マナから現象の核を生み出し、合理的法則で補強する理論そのもの。


 四つ、【術式】。


 実戦で迅速に発動できるよう、【理】の複雑な過程を極限まで簡略化し、一瞬で引き出せるようにした公式のような形態。


「よし、完璧だ。すごくスッキリした」


 僕はパンッと両手を叩いた。


 言葉の定義がカチッと噛み合ったことで、僕の思考の解像度がさらに一段階跳ね上がったのが分かる。


『――ほらリオン! 足が止まってるぞ! 魔法使いになりたいなら、まずは広場をあと五十周だ!!』


『ひぃぃぃっ! ノ、ノクス先生ぇ、肺が破けるぅ……!』


 遠くの広場の方から、鬼軍曹と化したノクスの怒声と、リオン君の悲鳴が聞こえてきた。


 ノクスは僕が押し付けた厄介事に対して文句を言いつつも、一度引き受けたからには一切の妥協なく、真剣にリオン君の基礎体力を鍛え上げてくれているらしい。


 本当に真面目で面倒見のいい戦士だ。僕が丸投げした厄介事を彼が見事に引き受けてくれているおかげで、こうして僕は誰にも邪魔されず、自分の作業に没頭できる。


「さて、鬼教官がヘイトを集めてくれている間に、僕は僕の作業を進めるとしますか」


 僕は最高の環境に感謝しつつ、再び目を閉じた。


 整理され、広大な余白が生まれた思考の世界に、魔法の基盤となる『四元素(水・火・風・土)』の理を一つずつ、確実に刻み込んでいく。


 環境を無理やり利用する旧式の綱渡りではなく、自分の魔力で直接『現象の核』を生み出し、環境と融合させる、安全で確実な新しいアプローチ。


 僕は路地裏の木箱の上で、底抜けの没入感と共に、僕だけの最強の魔法構築作業へとさらに深くのめり込んでいった。



【読者の皆様へ】

誰かがこの物語に目を留めてくださったこと、そして「面白かった」「続きが気になる」と楽しんでいただけることが、今の私にとって何よりの喜びであり、執筆の大きな力になります。

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