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第22話 久々の大物

連続投稿6話目

 ノクスがこの洞穴に来てから、二ヶ月が経とうとしていた。

 彼の怪我はすっかり良くなり、今では洞穴の周りで軽く体を動かしたり、薪割りを手伝ってくれたりしている。


 言葉の習得も、『識の原典(アーキタイプ)』の直感的翻訳のおかげで、今では細かいニュアンスまで普通に会話できるようになった。


 (……ノクスの怪我も治ったし、病人食はもう終わりだな)


 僕は自分の相棒である、禍々しい輝きを放つ『黒鎌(クロカマ)』を手に取りながら、洞穴の外へ出た。

 今日は久々に、脂の乗った大物を狩ろう。

 僕はノクスに「少し遠くまで行くから、留守番をしていて」と伝え、森の深部へと足を踏み入れた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 森の奥深く。

 僕はそこで、体長数メートルはあろうかという、岩のような鱗に覆われた猪の魔獣を見つけた。

 僕は『識の原典(アーキタイプ)』を展開し、魔獣の進行方向にある斜面の摩擦係数をゼロへと書き換える。さらにその先にある大岩の構造を一時的に操作し、硬質化を施した。


 こちらに気づいて突進してきた魔獣は、摩擦を失った斜面で派手に足を滑らせ、そのまま制御不能の猛スピードで大岩に激突する。


 ――ズドォォン!!


 空気を震わせる衝撃音と共に、脳震盪を起こした巨獣が白目を剥いて倒れ込んだ。

 僕はその首元へ、静かに歩み寄る。

 そして、愛用の『黒鎌(クロカマ)』を大きく振り下ろし、分厚い鱗の隙間から頸動脈を的確に切断した。


 (よし、一発。この鎌、やっぱりよく切れるな)


 僕は毛皮で作ったソリに巨大な死骸を載せ、鼻歌混じりに洞穴へと引きずっていった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 洞穴の前で待っていたノクスは、僕の背後の獲物を見るなり目を丸くした。


 「おいおい……ユウ、嘘だろ? それ、お前が狩ってきたのか?」


 ノクスが少し引きつった笑いを浮かべながら、慌てて駆け寄ってくる。

 最初の頃の堅苦しい態度はすっかり消え、最近の彼は気安い、少しお節介な兄貴分みたいな口調になっていた。


 「はい。今日の夕飯です。ノクスももう脂っこい肉、食べられるでしょ?」


 「いや、食える食えないの話じゃなくてだな……これ『大地の穿ち手(グラン・ボーラー)』だぞ!? Bランクの魔獣……なんでお前が無傷なんだよ!」


 ノクスが僕の肩や腕をペタペタと触って、怪我の有無を確認してくる。

 僕はその手を適当にごまかしながら、不思議に思って首を傾げた。


 「なんでって……普通に狩りましたよ。足元を滑らせて、岩に思いっきり頭をぶつけさせたんです。気絶したところを、この鎌で首を落としました」


 僕としては、この世界の野蛮で屈強な人間たちなら、もっと力技でこういう大物を日常的に狩っていると思っていた。

 だから、理の操作で環境を利用して効率よく仕留めるくらい、彼らにとっては当たり前の「普通の狩り」の範疇だろう。

 しかし、ノクスは僕の『黒鎌(クロカマ)』と魔獣の死骸を交互に見つめ、深々と大きな溜息をついた。


 「……滑らせて、岩にぶつけた? お前なぁ……罠か何かを上手く使ったんだろうが、無茶しすぎだ。その物騒な鎌だって、一歩間違えればお前自身が怪我してたぞ」


 ノクスは呆れたように頭を掻いている。


 (……罠? まあ、環境の理を書き換えるのも罠みたいなものか)


 彼は僕が「ギリギリの綱渡りみたいな罠と幸運」でこの大物を仕留めたと解釈したらしい。

 それにしても、なんでこんなに怒られているのかよく分からない。この世界では、大物を狩るのはそんなに珍しいことじゃないはずなのに。


 「……とにかく、無事でよかった。だが、二度とこんな危険な真似はするなよ。……解体、手伝うからナイフ貸してみろ」


 ノクスはぶつぶつと小言を言いながらも、手際よく魔獣の解体を始めてくれた。

 僕は彼がどうしてあんなに驚いていたのかイマイチ納得がいかなかったが、今はそんなことよりも、目の前に切り出されていく霜降りのような分厚い肉の塊に釘付けだった。


 (早く焼けないかな……塩とハーブ、たっぷりすり込もう)


 僕はノクスの心配や驚きなど半分も耳に入らないまま、マイペースに夕飯の準備を進め、久しぶりのご馳走に喉を鳴らした。

【読者の皆様へ】

誰かがこの物語に目を留めてくださったこと、そして「面白かった」「続きが気になる」と楽しんでいただけることが、今の私にとって何よりの喜びであり、執筆の大きな力になります。

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