ー第10話 再会Part2
ー第10話 再会Part2
高宮「トスですね。あのサービスが出る位置があるんです。右にも左にも。上にも下にも。わずかに位置がズレたら、あのサービスはホームランになってしまいます。下から見上げるでしょ?。ボールが頂点に達して止まる位置を記憶して、上げるんです。そして限界までヘッドスピードを上げて、ラケットを振る。…そして、ボールを打たきつぶす…手首を使って。力を入れるなって。力を入れるとラケットのヘッドスピードが落ちるって。…。」
高宮さんは、阿部史也を想い出しているようだった。
竹山「どうです?。宮内さん。プロとして弾まないサービスの秘訣は?。」
宮内「実は。あの試合の後、やってみたんです。全部ホームランでした。…トスは、どんなにやっても…わずかにズレます。体調が良くても、逆に体調が悪くても。想い返してみると、確かにあの試合の高宮さんは、機械がやってるように同じ位置に上がってましたね。あの後の試合はバラバラでしたけど。」
竹山「あとの試合と言うと、3回戦ですか?。」
宮内「次に当たった時に、どうするかをずっと考えて見てました。結局、試合で当たる事は無かったですけど。」
竹山「あのあと。高宮さんは退部されたんでしたね?。」
高宮「…えぇ。ちょっと有りまして。」
妙子「いいんじゃない?。私は気にしてないわよ。阿部君が愛に、恋しちゃったのよね?。」
高宮「そんな。阿部部長は、あの時は…篠原先輩の彼でしたから。」
妙子「気にしてくれたのね。でも、あの試合の後は、どうでも良くなってたの。…愛だけは、物語を続けてたのね。」
竹山「その物語は。今日この場所で完結ですね。できれば、阿部史也さんにもこの場に居てもらえたら良かったんですが…。」
高宮「それは。嫌がると思います。私達は恋愛関係になってしまったし…篠原先輩が来ると言ったら来なかったかもしれません。」
竹山「どうです?。相田さん。こんな事情が有ったんですが?。」
相田「私達も、上土居の王子様って呼んでましたからね。そうですか…あのサービスは王子様のサービスだったんですか。…でも。阿部君は、自分の試合で使ってたんでしょうか?。記憶にないんですけど?。」
竹山「王子様の前衛が、上にいらっしゃいます。どうでした?。能登島さん。」
全員が体をひねって、上の能登島さんを見た。
能登島「阿部はね。あのサービスはフェアじゃないからって、使いませんでした。使ってくれれば、僕も苦労せずに済んだんですけど。」
しばらく、全員が沈黙した。
相田「…大きな人なんですね。中学生で、そこまで考えるなんて。なんか、泣けちゃいますね。私は、勝ちは勝ちだって、使える手はすべて使って来ました…コートの中で。今でも。」
高宮「それは。恥ずかしい事では無いと思います。相田さんも宮内さんも、当時から背負ってるものが違うじゃないですか。大変だなって見てました。下級生に整列されて試合するなんて、私にはとても出来ません。強くない分、楽で良かったって思ってました。」
相田「ありがとう。そう言われると救われます。」
宮内「意識してなかったけど…やっぱりシンドかったかもね。」
竹山「お二人は、試合が近づくと高宮さんの夢を見られるとの事でしたが?。」
相田「えぇ。私はUSオープン。道代はウィンブルドンの決勝でね。あのサービスを硬式ボールで打たれて、返せない所で目が覚めるんです。」
高宮「試合のたび?ですか…。」
竹山「そうらしいですよ?。」
高宮「申し訳ありません。ご迷惑かけて。」
妙子「愛が呪ってる(のろってる)ワケじゃないんだから…(笑)。」
高宮「でも。まだ夢の中で、あのサービスを受けてらっしゃるなんて…申し訳ないです。」
その言い方に、全員が笑い出した。
その笑いが収まった所で私は言った。
竹山「相田さん。もし今なら、あのサービスをレシーブできますか?。」
相田「試合の前ごとに見てますからね。(笑)これを見て下さい。」
相田さんは、ラケットが何本も入るバックを持って来ていた。その中から、2本ラケットを出して、カバーを取った。軟式ラケットが現れた。
相田「これ。そこに有るのと同じプロショットです。でも、ここが削ってあるんです。」
相田さんは、フレームの片側を私達に見せた。薄く削られている。
相田「コートの地面を、滑らせるようにしてあるんです。そして、ボールができるだけラケットのガットの部分に当たる効果も期待してます。」
竹山「どうして、この改良を?。」
相田「私達は、高宮さんの消息は知りませんでした。もしかしたら、試合に出て来るかもしれない。その時の為に、自分達で削ったんです。でも強度が落ちるから、一本フレームが折れましたけど。これも、強く地面に当てたら折れます。でも、壊さないように地面を滑らせる方法を、道代と練習しました。」
竹山「宮内さんも、持ってられるんですか?。」
宮内「はい。バックの中に。」
相田「試合前に、このラケットを握ると落ち着くんです。高宮さんが出て来ても大丈夫だって。」
高宮「わかりました。」
そう言って、高宮さんはベンチから立ち上がった。全員が何をするのかと、あっけにとられた。高宮さんは、前に立ててあったラケットの一本を手に取った。
高宮「テニス部を辞めてから、ラケットは握ってませんけど…打たせてもらえませんか?。相田さん。宮内さん。あのサービスを?。」
全員が高宮さんを、じっと見つめた。
ー次話!
第11話ゲームセットにつづく!