ー第9話 再会
ー第9話 再会
再び現在。
クアトロナンバーズ誌がセッティングした対談は、9月に行われた。
あの試合が行われた旧県営グランドは、メモリアルセンターと名を変え、当時の施設はすべて作り変えられている。
プロ硬式テニス公式戦が行われる、観客席付きのセンターコートが、対談の場所として用意された。
軟式テニスのネットが張られている。
硬式との違いは、ネット中央にある。硬式は中央が低くなっているが、軟式は同じ高さだ。
審判台の片側にベンチが寄せられ、4人が並んで座れるようにセッティングされている。私が座るパイプ椅子の前に、白い軟式用ラケットが4本、グリップを合わせて立てられていた。
プロショット。
と呼ばれる。
軟式用ラケットの傑作だと、カメラマンの杉本君が教えてくれた。
観客席を見上げると、三崎コーチと能登島さん。旧姓椎名美花さんが入って来て、ベンチ近くの観客席に座った。3人は、私が招待した。
椎名美花さんへの取材に対する、執念のつもりだ。顔写真だけでもと云う意図もある。
腕時計は、1時50分を差していた。
私は観客席の3人に頭を下げた。3人は立ち上がって、軽く会釈した。
「…あれが、椎名美花さん?。」
カメラマンの杉本君が囁いた(ささやいた)。
「なんとか、あの3人も入れた写真も欲しい。」
「なんとかしましょう。」
そこに。
クアトロナンバーズ誌のテニス担当が、相田と宮内を連れて入って来た。他のスタッフ10人あまりが、拍手で迎える。
相田は私を見つけた。
「竹山さん!!。」
と笑顔を見せた。
2人共、いつものテニスウェアに身を包んでいる。スポンサーの名前やロゴが、帽子からシューズに至るまで、付けられている。
勝つことが契約となっている国内プロで、2人は勝ち続けてきた。そして、勝ち続けてきたプロ達が集まるワールドツアーに出てゆく。それは、日本のテニス界の未来を左右する。彼女達は、明らかに兵士と言っていい。負ける事は、引退を意味する。才能を持った者には、違うレベルの厳しさが存在するのだ。
私は、相田宮内と挨拶を交わした。
2人は審判台寄りに腰掛けた。
クアトロナンバーズ誌のテニス担当、北島浩氏が近づいてきた。
「すごいね〜竹山さん御指名で、対談なんて…。中学生の時の地方大会の話だって?。」
「記事を読んで下さい。相田宮内を精神的に支えてきた出来事だったんです。ワールドツアーでも、2人を支え続けるはずです。」
「マジですか?。芸能誌ナンバーワンは、スポーツ誌でも違いますね〜。…あんまり畑を荒らさないで下さいよ。私にも家族がありますから。」
「北島さんにも、プラスになると思いますよ。クアトロナンバーズ誌は、2人にとって印象の良いスポーツ誌になるはずです。今後、取材は楽になるはずです。」
「そう願いたい。」
北島氏は、相田宮内の方に戻って行った。
2時ちょうどに、旧姓篠原妙子が息子と共に入って来た。
北島氏が驚いて立ち上がった。ロバート キミヅカとロバート ママの揃い踏みだ。息子まで連れて来る事は、誰も聞かされていなかった。
スタッフがどよめいた。
北島氏があわてて、ロバート キミヅカに駆け寄り、英語でやり取りを交わす。
イスがもう一つ持ち込まれたが、ロバートは観客席に上がり、三崎コーチの隣りに腰掛けた。
北島氏は、
「竹山さん。あなたはモンスターだ。でも、チャンスは頂きますよ。」
と言って、観客席に上がり、ちゃっかりロバートの隣りに座る事に成功した。
私がモンスターではない。高宮愛こそが、モンスターかもしれない…と私は思った。
そして。
観客席の出入り口から、バタバタとそのモンスターが入って来た。
「すいません。遅れてしまって。場所がわからなくて…。」
高宮愛は、花柄のワンピースにハイヒールで、パーティーに遅れたゲストのようだった。
「高宮さん。下に来て下さい。あわてなくても大丈夫です。」
「え〜竹山さん。どうやってそっちに?。」
三崎コーチが立ち上がった。
「高宮。こっちだ。ついてきなさい。」
「あぁコーチ。お久しぶりです。」
と言って、また観客席の出入り口に消えた。
「すいません。私みたいなのが一番遅れて…。」
言いながら走ってきた。高いヒールだ。ハイヒールの100m走があれば、金メダルを取りそうな勢いだった。足腰の強さは、天性のようだ。
「愛。落ち着いて。こっちよ。」
妙子キミヅカが、笑いながら手招きした。
「篠原先輩。すいません。なんか変わっちゃって。」
相田宮内は、優しい目で、このやり取りを見ている。
私はカメラマンの杉本君に合図して、自分のパイプ椅子に座った。杉本君は、すでにフィルム一本を使い切っていた。
竹山「では。対談を始めさせて頂いてよろしいでしょうか?。」
全員がうなづいた。
「…この企画は、相田プロ 宮内プロのご好意により実現しました。ありがとうございます。」
相田「お礼は、私達の方です。ねぇ道代?。」
宮内「本当に。夢みたい。」
宮内も相田も笑みがこぼれている。
竹山「では。まず、相田さんから行きましょう…。篠原高宮組の第一印象はどうでした?。」
相田「すごく失礼なんですけど。負けるとは思ってませんでした。普通にやれば、ストレート勝ちで終わる感じでした。高宮さんは、試合前の乱打で強い球を打たなかったし…バックも打たなかったですから。」
竹山「あれは、三崎コーチのアドバイスだったと聞きましたが?。」
高宮「そうです。バックが苦手で、強いショートボールは打たない印象を与えろと言われてました。」
妙子「三崎コーチは、策略家だったから。でも、策略では1つ勝つのが良い所ね。でも、私達は1つ勝てば良かったから。」
宮内「男子部長とのロマンスの為って、竹山さんに聞きましたよ?。」
妙子「ロマンス?。ただの恋愛ゴッコね。…今考えれば。でも、当時は命がけだったけど。」
相田「乙女の恋心で挑まれたら、かなわないはずね。」
妙子「その命がけに巻き込まれた愛が、本気になったからよ。あの試合は、愛のプレイがすべて。私は、ネット際でボールすくってただけだから。(笑)」
全員が笑った。
相田「私もすくってましたよ?(笑)」
宮内「よく考えると…ボレーした?前衛のお二人は?。」
妙子「相田さんが手のひらで打ったボールを、決めたわよ。(笑)」
相田「あ〜あれ?。ラケットがウチのコーチの顔めがけて飛んだのよね。(泣)」
高宮「どうなるかと思いました。あのコーチずっと怒ってたでしょ?。あの後、大丈夫かなって心配しました。」
宮内「あのコーチは、戦略で怒ってただけで本気で怒ってたわけじゃないの。怒ると私達が工夫するから、怒ってたのね。」
相田「でも、わかっててもコワかった。怒り方も工夫してたから。」
高宮「演技だったんですか?。(驚)」
宮内「そうね。でも、妙子さんは、そのコーチに怒ってにらんでましたよね。(笑)」
妙子「ルール違反だもの。(怒)アドバイスのためのタイムは、認められてないはずよ!!。(怒)」
高宮「先輩。まだ怒ってるみたい?。」
妙子「ズゥ〜ッと怒ってるわよ。あのコーチに会ったら、絶対文句言うつもりよ!。」
高宮「やめて下さい。もう終わった事ですから。」
宮内「高宮さん。冗談よ(笑)。ねぇ妙子さん?。」
妙子「まぁね。でもルール違反である事は、指摘させてもらうわよ(笑)。」
高宮さん以外は爆笑した。
竹山「でも、あの試合から、コーチは変わられたとか?。」
宮内「怒らなくなりました。それから…負けた相手に敬意を払えと言うようになりました。試合中のアドバイスもなくなりました。それに、相手チームを批判する事もなくなりましたね。今も時々会うんですけど。高宮を目指せと言われます。」
竹山「それは?。」
宮内「負けた相手に感謝できるチャンピオンになれと。高宮は1勝しかしなかったが、プレイヤーとしてはチャンピオンだと…。」
高宮「それは言いすぎです。私は、先輩のために勝ちたかったから…お二人に申し訳ないなと思ったんです。私のワガママですから。」
妙子「それは、私だけじゃなく阿部君の為でもあったんじゃない?。愛?。」
高宮「…多分。でも。あの時それには…気づいてなかったです。」
竹山「あのサービスは、阿部さんから伝授されたそうですね?。」
高宮「はい。一週間やって、試合の前の日の最後くらいにに入るようになりました。」
竹山「入れる秘訣とか有るんですか?。」
高宮「トスですね。あのサービスが出る位置があるんです…
ー文字数の都合により次話!
ー第10話再会Part2につづく




