雨宿り
「私も連れてってくれる?実は、壊れたラジオを買ったから自分で修理したいの」
「いいよ。一緒に行こう。でも雲行きが怪しいから、急ごう」
やっと天気に気がついたみたい。
シリルが案内してくれたのは、何に使うかわからない部品ばかりが並べられたお店だった。
部品を選んで購入すると、急いで家に向かう。
早歩きで歩いていると、ポツリポツリと雨が当たった。
「振ってきたわ!」
「本当?僕はまだ濡れてないよ?お馬鹿さんは、運が悪いから初めに雨に当たるんだってさ」
「私が馬鹿だって言いたいの?シリルって最低」
「冗談だよ」
シリルが揶揄うように笑ったので、私も笑う。
「雨を防ぐ魔法は使えないの?貴族は色々な魔法が使えるんでしょ?」
「雨を避けるのは空間魔法。僕は苦手なんだ」
勝ち誇ったように言うので、それが面白くてまた笑った。
「クリスティーナ笑いすぎ。って、雨が急に激しくなりそうだ。そこのカフェで雨宿りしよう」
シリルに手を引かれて、カフェの木製のドアを押した時だった。
雷が鳴り、勢いよく雨が降ってきた。
「間一髪だったね」
店員に案内された窓側の席に座り、外を眺める。
先ほどまでとは違い、分厚い雨雲に遮られて、外は真っ暗になった。
激しい雨が打ちつけるせいで、景色が滲んでみえる。
「夜みたいに真っ暗」
まだ15時なのに、どの馬車も外灯をつけて走っている。
注文した紅茶を飲みながら、店内をふと見た。
常連であろう老人が新聞を広げている。
古いながらも手入れされた家具に、長年使い込んでいるのであろうワインレッド色のベルベッドの椅子。
流れる音楽に耳を傾ける。
くぐもったオールドミュージックが音楽が流れている。
急に色々な事を思い出した。
働いていたダイナーで、コーヒーを淹れる時の匂いとか、目玉焼きを焼く音とか。
あれからまだ4ヶ月だというのに、ずっと前の出来事みたい。
いつか、ハナメイにあるような古いダイナーを見つけよう。
「クリスティーナ、なんだかご機嫌だね」
「そう?きっとラジオの部品が買えたからよ」
「確かに、いいパーツを見つけると心躍るよね。この雨も楽しみだ」
シリルの声が弾んでいる。
「実は、学園の敷地内に不思議な植物を見つけたんだ。調べたら、雨上がりの真夜中3時から4時ごろまで咲く花らしいんだ。空が白んでくるともう蕾を閉じてしまうらしいくて」
「へえ!珍しいわね」
シリルは鞄から一冊の古い本を出した。
昔の王政について書かれた本で、その中に監視のために植えられた花だと書いてあるところを指さす。
「昔々、監視のために開発された魔法草で『みつめ草』って言うんだ。葉っぱの特徴から、きっとこの花だと思うんだ」
「でも、この絵じゃわからないわよ?この本を見て、特殊な魔法草だと断言することはできないわ」
「持ち出し禁止の書物も調べたんだ。そこには『背の低い草で、パンジーに似た外見をしているが全て擬態するための葉っぱである。花は、6月から8月、雨上がりなどの湿度の高い夜中、3時から4時ごろにかけて咲き、種を飛ばすと散る』と書いてあったんだ」
「変な人が入り込まないように植えてるのかしら?」
「それはないと思うよ。そもそも、門には簡単な魔法がかけられているんだ。危ない人は、門で足止めされるよ。学園は元々、王族の敷地で、それを転用しているんだ。だから、きっと、その名残だよ」
「何百年も自生し続けているの?」
「うーん。とりあえず、本物かどうか今夜見に行こうと思うんだ」
「私も行きたいわ」
謎の魔法草に、興味がある。
「ディナーを食べながら相談しよう」
この後、小雨になるまで魔法薬学科の棟がいつまで閉鎖なのかや、他の学生たちはどうしているのかの話になった。
キャロルの所属する研究室は、夏季大会の翌日から急遽、夏合宿に出かけているので羨ましいとシリルはぼやいている。
だから、キャロルに出会わないんだ。
窓ガラスに打ちつける雨が弱くなってきたので、カフェを出ることにした。
ローブは防水機能があるから、少しの雨なら大丈夫。
ローブのフードを被り、歩き出す。
あと数分で門番小屋だという所で、急にまた雨が強くなってきた。
咄嗟に、シリルが自分のローブの中に私を入れてくれたので、シリルの服が私のローブの雨で濡れる。
「僕の影になるようにすれば、雨には濡れないから。でも、一つお願いがあるんだ。僕のバックを濡れないように持ってくれる?」
「もちろんよ」
シリルが濡れないようにローブの中に入れていた鞄を、私のローブの中に入れると、シリルは自分のローブのボタンを私の顔の位置まで開けて、私の肩に腕を回すようにして雨から守ってくれた。
濡れないけれど、体はピッタリくっついているし、これって後ろから抱きしめられたまま歩くってことよね。
変に意識しないように別のことを考える。
「あと少しだから歩こう」
と言われて雨の事だけを考えて歩くことにした。
急いで門番小屋に帰り、屋根の下でシリルがローブのボタンを開ける。
ローブは雨を防ぎきれなかったようで、シリルの背中はうっすら濡れていた。




