お酒を飲みすぎた翌日
ドンドンドン
何かを叩く音で目覚めた。
気がつくと、自分のベッドで半裸で寝ていた。
「クリスティーナ、起きないと遅刻するよ」
シリルの声と、ドアを叩く音。
今日から通常通り学園の仕事があるんだわ。
……頭痛い。
このままじゃ部屋から出られない。
ベッド脇にかけてある膝まであるパジャマ用シャツを、手を伸ばしてなんとか取り、にぶい動きで羽織って、最低限度ボタンを閉める。
ゆっくりとベッドから降りると、足取り重く部屋の外に出た。
「うわっ!クリスティーナ、そんな格好で出て来ないでよ。胸が見えるよ!…見えてないけど、見えそう」
シリルが背中を向ける。
「リビングには、ドレスにヒール、下着まで落ちてて!こんなの男に見せるものじゃないよ!」
どこを見ていいかわからないというふうに、天井に視線を向ける。
昨日頂いたドレスは、酔っ払いなりに気を使ったのかソファーに綺麗に脱いであるが、そのすぐ側にはブラジャーが落ちていて、サンダルは色んな方向を向いて転がっていた。
「…シリルは、お姉さんだし。女性に興味ないから。隠さなくても、マイルズ・ワーグマン侯爵令息が好きなんでしょ?今更、男性ぶらなくてもいいよ」
話すのも辛い…。
のろのろと歩いて落ちているブラジャーとサンダルを払い、ドレスを手に取った。
「ワーグマン侯爵令息の事が好きだと思われてた?やばいよ。勘違い甚だしいよ!僕の恋愛対象は女性だよ。男になんて興味ないよ」
「え?そうなの?ごめんなさい」
「だから、ちゃんと隠すところは隠して。クリスティーナ、お酒が抜けてないな。ほら、テーブルに二日酔いの薬湯を置くから飲んで。お酒臭いのはダメだからシャワー浴びて!」
「…はい」
片手に服やサンダルを持ったまま薬湯を飲む。
「ちょっとなのに苦い!」
「即効性があるのは苦いんだよ。早くシャワーに行きなさい」
部屋に荷物を置いてバスルームに向かう。
頭から熱いシャワーを浴びると、だんだん頭がスッキリしてきた。
昨日はどれだけ飲んだのかしら?
ぜんぜんわからない。
乾燥用魔道具で髪を乾かがしながら時計を見る。
やばい!遅れそう!
生乾きのまま、服を羽織りリビングに向かう。
「あれ?シリル、学園に行かなくてもいいの?」
いつもは朝早く出かけてしまうのに、もしかして私のせいでまだ家にいるのかな。
「僕の研究室テーマの実験部分は昨日で終わったから、あとは、まとめだけだし。今日からゆっくりでいいんだ」
そう言ってシリルは、あったかいお茶とトーストを出してくれた。
「クリスティーナみたいに、料理はできないけどさ。何か食べないと」
シリルは相変わらず面倒見がいい。
やっぱりお姉さんみたい。
「髪、生乾きだよ?風魔法使えないの?」
シリルも髪が長いから、生乾きなのが気になるらしい。
「細やかな温度管理や優しい風は、なかなか出すのが難しいの。かといって乾燥魔道具はそれなりに時間がかかるし」
魔道具は10分程度かかるし、私の風魔法はビューっと吹く強風だ。
そんなので乾かしたら、髪の毛が色々な方向に向いてしまう。
「仕方がないなぁ」
シリルが私のために風魔法をかけてくれた。
フワリと吹く風は柔らかくて暖かく心地いいうえに、すぐに乾いてしまった。
しかも、いい感じにふわっとして、すぐに髪が結える状態だ。
「どうやったの?」
「風魔法と水魔法の合わせ技だよ。風で髪表面の水を固めて飛ばすんだ」
「簡単にいうけど、簡単じゃないわ」
前から思っていたけど、シリルの魔法の精度は高い。
細やかな事も杖なしででる。
「シリルは本当に魔法が上手いわ。魔法そのものを研究すればいいのに」
「得意な事とやらなきゃいけない事は別だよ」
「そっか。領地のために、育てやすい魔法草や薬草を見つけないといけないものね」
「魔法薬も好きだからいいんだよ」
シリルと話しながら歩いて学園に向かう。
「クリスティーナは弓も使えるから、野営の講義とか、得意そうだね」
「野営?講義?なんのこと?」
「僕たち学生は、主に学びたい学科を決めて、受験するんだ。僕の場合は、魔法薬学科だけどさ。合格したら、魔法薬学だけを学ぶわけではなく、それに付随する講義も受ける」
「たとえばどんな講義?」
「古代魔法語、外国語、瞑想学、生物学、魔法学、製作学などなどだよ」
「研究室にいない時間は図書館にいるのかと思ったけど、講義を受けていたのね」
「今から、瞑想学の講義なんだ。また後で」
シリルと別れ、ベルツ研究室に行く。
いつものように「おはようございます」と言って中に入ると、みんなが私を見て、笑顔でおはようと言ってくれた。
今までは、私の挨拶に気がつく人なんていなかったのに。
いつもと同じようで、違う1日が始まったみたい。
何だか不思議な感じがして調子が狂ってしまう。
平常心を保たなきゃ。
作業が一段落したところで、図書室に本の返却に行くために研究室を出ると、たまに研究室に来る学生達が廊下でおしゃべりをしているところに遭遇してしまった。
「あっ、いつもの雑用係さんだ」
話しかけられたことないのに、驚いて立ち止まる。
「ごきげんよう、皆様」
「あなたって何歳なの?」
「19歳です」
「弓はいつから使えるの?」
私の事を研究室の備品だと思っていた子達が話しかけてくるなんて意外すぎる。
質問攻めにされるので、作業が進まずに困っていると、学生のグループに囲まれている私を見かねて、ローランド伯爵令嬢が「クリスティーナ、お願いしたことが終わってないわ」と大声で叫んで、助け舟を出してくれた。
学生達に対しては、「いつまで雑用係を拘束するおつもりですの?」と言って追い払ってくれる。
「ありがとうございます」
ローランド伯爵令嬢にお礼を言うが、いつも通りの口調は変わらない。
「皆様の作業が優先よ。もう、ドジでノロマなのは困るわ」
なんだかんだ言っても、今までと態度も変わらず接してくれるので、ローランド伯爵令嬢っていい人だ。




