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4.

“メリル! これでもう安心だよ!”

“わるいやつは、やっつけたよ”

“もう大丈夫!”


 きらきら輝く光が――ぼとぼとと、お父様とお母様だった肉片を血だまりに落として私の周りに集まって来た。血で真っ赤に染まった絨毯の上には、体中を引っ張られて剥がされた、二人の身体が転がっていて――ぴくぴくと痙攣していた。


 私は飛んだ血で赤い水玉模様ができたドレスと、腰を抜かして口を魚のようにぱくぱくと動かして、私を見つめる妹と使用人たち――そして踊るみたいに私の周りを舞う光の粒を見回した。


「――あ――ぁ――」


 ようやく喉の奥から漏れたのは、言葉にならない呻き声だけだった。

 空気が凍り付いていた。

 はしゃいだような妖精たちの声だけが耳元にうるさく響く。


“メリル、どうしたの?”

“もう安心していいんだよ”

“メリルには私たちがついてるんだから”


 彼らは優し気な口調で、囁き続ける。


“こんなところ、出て行こう?”

“ねえ――ボクたちのところへ、来ればいいよ――”


 私は耳を押さえて、うずくまると叫んだ。


「――放っておいて――!」


 どうしてこんなことになったの?


「――お姉様がやったの――?」


 アネッサが私を見つめて問いかけた。


「違う……、だけど、だって、お母様とお父様が、私のことを――」


 私は妹を見つめ返した。

 ふわりとした金色の髪に映える、真っ青な瞳。『花の妖精』の呼び名にふさわしい、可憐なその色白の顔は恐怖で真っ青になっていたけれど、それでも青い瞳は真っ直ぐに私を見つめて問いかけていた。


 ――ああ、この子は何も知らないんだ。


 私は口から出かかった言葉を飲み込んだ。


 2つ年下のアネッサと私は、物心ついてからほとんど会話らしい会話をしたことがなかった。


 本当に小さなころ、4つか5つの時までは一緒におもちゃで遊んだり、追いかけっこのようなことをしたこともあったけれど。だんだんお父様とお母様は妖精と話す私を気味悪がって、アネッサに近づけさせなくなったから。


 私は視線を窓際の棚の上に置かれた、花瓶に生けられた白い百合の花に移した。


 これは、屋敷の中にずっといる私へとアネッサが使用人に持って来させてくれたものだ。

 

 それでもこの子は、季節ごとに色々な花を贈ってくれた。

 私が季節を感じらるようにって――。


 未来の王妃様になる、この綺麗な妹に、血だらけの私が何を言える?

 言って――何になるの?


「――私、がやった、わ」


 私は呟いた。

 そう、これは――妖精たちに私がやらせたことだ。

 彼らは、私を守るためにこうして――、私はそれを止めなかった。


「――そんな、お姉様が、そんな――」


 アネッサは蒼白の表情でカタカタと身体を震わせた。


「――だから、さようなら、アネッサ」


 お父様とお母様があなたの将来の邪魔になるからと私を殺そうとしたなんて、この子は知らなくてもいいことだ。この子がそれを知ったところで、どうにもならない。 


 もう私はここに――普通の場所にいることはできないのだから。


 私は窓目掛けて駆け出した。

 

 妖精たちは耳元できゃっきゃっと笑い声を立てた。


“行くの?”

“行こうよ”

“ボクたちのところは楽しいよ”

“嫌なことは何もない”

“メリルのことをいじめるやつは誰もいないよ”


 窓を開け、外に飛び出す。ここは2階だけど、大丈夫だという自信があった。

妖精たちが私の周りに集まってきて、私の身体は光に包まれた。

ふわりと身体が宙を浮き、不思議な浮遊感を感じながらふわりと地面に着地する。


「お姉様!」


 窓からアネッサが身を乗り出してこちらを見ていた。

 ――さようなら、幸せにね。


 私は妖精たちに話しかける。


「ねえ、ちゃんと逃がしてよね」


“もちろん!”

“任せて”

“行こうよ”

“行こうよ”


 嬉しそうに光はふわふわと私の周りを踊った。


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