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【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。  作者: 夏灯みかん
1.令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

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5. 境界の花畑

 “こっちだよ、メリル”

 “ついてきて”


 妖精たちは私を導くように飛んで行く。私はその後を追いかけた。


 部屋から飛び降りて着地した裏庭を抜けると――その先には原っぱの丘があって、その丘の下には領地の畑が広がっているはず……なのに、丘の上からはなぜか眼下に一面の花畑が見えた。


 私は立ち止まって目を凝らした。


 赤・黄色・紫・オレンジ・ピンク――色とりどりの花々の間を無数の光が楽し気に飛び回っている。


 直感的に私は悟った。


 ――あの花畑の向こうは、この世じゃない――妖精の世界だ。

 

 “さあ、行こうよ”

 “みんなメリルを歓迎してる”

 “楽しみだね!”

 “ボクらと向こうでずっと一緒に遊ぼう!”


 私の手の周りに妖精たちが集まってきて、花が咲き誇る方へと引っ張った。

 一瞬身体が強張った。


 ――向こうに足を踏み入れたら、もう戻れない――そんな気がする。


 ――でも、


 私はふっと力を抜いた。


 ――もう、いいか――


 だって、私に帰る家はないし、私の居場所はもうどこにもないんだもの。

 この子たちだけは、私を必要としてくれている――。


 妖精たちに手を引かれるまま、一歩二歩と歩みを進める。

 花畑へ向かって丘を下り始めた。


 ――その時、何かがスカートを引っ張った。


 ぐるるるると犬の唸る声がする。


「――何?」


 振り返ると白いふわふわした毛の大きな犬が私のスカートに噛みついていた。


「――その先に行くんじゃない!」


 鋭い男の人の声が響く。


 ――誰?


 顔を上げると、丘の上から黒いローブを着た男の人が、こちらに向かって走ってくるのが見えた。


 “だれ?”

 “なんで止めるの?”

 “なんで?”

 “せっかく、メリルが来てくれるのに”


 妖精たちは私の手から離れると、私のスカートに噛みつく白い犬に群がった。


「きゃん!」


 白い巻き毛を妖精に引っ張られて犬が悲鳴を上げた。

 さっと血の気が引き背筋が凍り付いた。

 赤く弾けたお父様とお母様の姿が頭に浮かんで――私は思わず妖精たちに向かって大声で怒鳴った。


「そんなことしないで!!!!!!!」


 妖精たちの光は一瞬にして周囲に飛び散った。

 彼らは私の頭の周りをくるくる飛び回りながら騒いだ。


 “メリル、怒ってる?”

 “ごめんね”

 “ごめんね”


 私はしゃがむと、「ハッハッ」と舌を出してお座りしている白い犬の背中を撫でた。


「ジャック!」


 さっきと同じ男の人の声がした。

 顔を上げると、さっきこちらへ走ってきた男の人が私たちの前で膝に手をつき、息を切らせていた。

 白い犬は立ち上がり、尻尾を振りながら男の人の周りをぐるぐる回った。

 この人はこの犬の飼い主みたいだ。


「あなたは――、誰?」


 私はその人を見つめた。少し年上だろうか――背の高いひょろりとした印象の男の人だった。少し長めの黒髪と着ている黒いローブが暗闇に溶け込んでいて、綺麗な青い瞳だけが月明りで輝いて見えた。


「アルヴィン――、君は? こんなに妖精がいるなんて――」


 彼は青い瞳を大きく見開いて、私の周りを飛び回る妖精たちを見回した。

 

「私は、メリル――」


 私は名乗ってから言葉を止めた。


 ――ちょっと待って。今、この人――『妖精がいるなんて』って言った――?


「あなたには、見えるの?」


 アルヴィンと名乗った彼は、大きく頷いた。


 “見えてる!”

 “私たちがわかるんだ!”

 “アルヴィン?”

 “はじめまして!”


 妖精たちは彼の周りをくるくると飛び回った。


「相変わらず騒がしいな」


 アルヴィンは苦笑すると、私の手を取った。


「メリル、何があったか知らないが、とにかく、あっちには行っちゃだめだ。二度と戻って来られなくなる」


 彼は花畑の方を指差して言った。



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