26. 変わっていた王都
屋台で買ったのは、格子模様に焼かれた大きなお菓子だった。
ふわふわしていて、クッキーとパンの中間のような食感だ。
表面に蜂蜜が塗ってあるのか、食べるとほのかな甘みがあった。
噴水のへりに腰掛けて、両手で持ったそれを食べながら、何気なく振り返ると、噴水の中心に立っている銅像が目に入った。馬にまたがり、王冠を被った先々代国王ケイレブ様の銅像だった。
私は、隣で屋台のお菓子をかじるアルヴィンを眺めた。
彼がこの銅像のケイレブ様と同じ時代を生きていたのだと思うと、何とも不思議な気持ちになる。
「どうかしたか?」
「いえ――、ケイレブ様は、この銅像のようなお方だった?」
アルヴィンは振り返り、銅像をじっと見つめた。
「――俺の知っているケイレブは――こんな髭面で、堂々とした姿じゃない。もっと若かったから――、似てないな」
銅像のケイレブ様は立派な髭を生やした壮年の姿だ。
「もっと線が細くて、頼りなげだった」
アルヴィンは遠い昔を思い出すような目をしながら呟いて、広場を見渡した。
「あの時は、魔物との争いでケイレブの父親が死んで――街でも村でも男たちは兵に駆り出されていた。街中もこんなに賑やかじゃなくて、みんな疲れたような顔をしてたな」
「あなたは、王宮にいて、どんな暮らしをしていたの?」
「師匠と二人で、魔法の壁を作るための魔法陣を研究していたよ。街へ出るといっても、さっきの紅茶店へたまに行くくらいで、あとはずっと王宮の部屋にこもっていた」
アルヴィンは広場を見回した。
「街全体が陰気だったし、こんなふうに広場へ座って、周りを眺めているだけで楽しいなんてことはなかったな」
アルヴィンはケイレブ様の銅像に話しかけるように呟いた。
「いつの間にか、外は、変わってたんだな……」
昔はそんなに大変だったのかしら。私も周囲を見回す。今ここの広場の風景は平和そのもので、アルヴィンが語ったような陰鬱な光景は、想像もできなかった。
その時、私は何となく周囲の人が私たちのことをちらちら見ているような気がした。
――噴水のへりに座って、お菓子を手で食べてるのがはしたないかしら?
いえ、でも他の人だってそうやってるし――。
それから自分の服を見る。――真っ黒なドレス。
――このせい?
そういえば、真っ黒な服を着るのはお葬式や、喪に服しているときくらいだ。
全身黒い服を着ている女の人は、広場には他にいない。
……このせいのような気がする。
私は改めて広場を見回した。広場に面した場所に、洋服屋があるのが見えた。
「アルヴィン……」
私は彼に問いかけた。
「――もしよかったら、洋服を買ってもいいかしら? この黒いドレス、目立っているみたいで」
アルヴィンはお菓子をかじる手を止め、少し考え込んでから頷いた。
「そうだな」
それから残っていたお菓子を一気に食べて、「買いに行くか」と立ち上がった。




