24. 私の帰る場所
『買い物に行く』と言い出したアルヴィンの後について、森を抜けていく。
アルヴィンは『迷いの森』を、ためらうことなくすたすたと進んでいく。
「前にも思ったけど――、どうして道がわかるの?」
「木の精霊と話してみるんだ」
そう言いながら彼は近くの古びた木に手をかざした。私も同じように手を置いて、瞳を閉じると、ぼんやりとした緑の影を感じる。
「人のいる方向はどっちか聞いてみろよ」
言われた通り、心の中で問いかけてみると、緑の影がたなびいたように見えた。
頬に風を感じて目を開けると、左手の木々だけがざわざわと葉を揺らしていた。
「……あっちだな」
アルヴィンは笑うと左方向へ足を向けた。
――そうやって歩いているうちに、気づけば周囲の木々の種類が変わり、深かった草藪も次第にまばらになっていった。そのまま進むと、丘に出た。
丘の先には民家が点在し、その向こうには高い建物が密集する街並みが広がっていた。
ここは街外れの雑木林といったところかしら。
「本当に、街に出たのね」
驚きながら、先で立ち止まったアルヴィンに追いつくと、彼は目を大きく見開き、眼下の街並みに見入っていた。
「――どうしたの?」
ただならない様子に思わず顔をのぞきこむと、アルヴィンは「いや」と首を振る。
「景色が全然違うな――って、驚いただけだ」
「ここはどこなの?」
「アジュール王国の王都だ」
私は改めて風景を見回した。ここが、王都。
屋敷から出たことがないので、初めて見る自分の国の都だった。
アルヴィンは呟いた。
「昔、ケイレブに請われて師匠とここに来たときは――、もっと、閑散としていたというか……、建物も少なくて……、人も多くはいなかった」
建物が密集する辺りには、多くの人々が行き交っていた。
その賑わいの向こうには、ひときわ大きく豪華な石造りの建物が見えた。
……あれは、宮殿かしら。――国王様がいらっしゃるところ。
アネッサ――不意に妹の名前が頭に浮かぶ。
あれから、妹はどうしているだろう。
お父様も、お母様もいなくなって――。
グリーデン家の家督は、叔父様が継ぐことになるでしょう。
アネッサは、今どうしているのだろう。まだ屋敷にいるのかしら。
――それとも、婚約が決まった王太子様のもとへ?
“人がいっぱい!”
“メリル、こんなに人がたくさんいるの初めて見るね”
“これが街?”
周囲を飛び回る妖精たちのはしゃぎ声が、私の脳裏に生温かい血の感触を呼び起こした。
“あの大きいのが宮殿?”
“王様とか王子様のいるところ?”
“アネッサはあそこにいるのかな!”
“アネッサはあんな大きな家に住んでるの?”
“メリルもああいうところに住みたい?”
無邪気な声は本当に、何の深い意図もなく、ただ私に聞いているだけなのだろうけれど。
――私が『住みたい』って言ったら、この子たちは何をするのかしら――
背筋をぞくりと冷たいものが走り、思わず自分の身体を抱いた。
「メリル」
アルヴィンの落ち着いた低い声が私の名前を呼ぶ。
大きく温かな手が、私の手を包むように握って引いた。
「行くぞ」
私は頷いて笑うと、妖精たちを見つめてはっきりと言った。
「ああいう大きな家には住みたくないわ。――私は、今の森の奥の家がいいの」
“ふーん”
“そっかぁ”
妖精たちは興味を失ったように、ふわふわと周囲に散った。




