18. 水の精霊と仲良くなって.
私はちゃぽん、ちゃぽんと、小川に手を浸しては上げることを繰り返した。
しばらくそうしているうちに、『精霊と対話する』とアルヴィンが言っていたことが何となくわかるようになった。じっと水の冷たさに意識を集めていると、目を開けていても、閉じていたときに見えた渦巻きのようなものの存在や姿を感じることができた。
私が心の中で話しかけると、精霊たちは、水面をうねらせたり、むくりと盛り上がったりと、さまざまな反応を見せた。
アルヴィンはそんな私の様子を見ながら、葉の船に乗った妖精たちを、水の渦でぐるぐる回して遊ばせていた。
そうしているうちに疲れを感じ、私は河原に腰を下ろした。
アルヴィンは立ち上がると、私の傍に来て、手を伸ばした。
「いい感じだな。初めてでこれだけできれば、大したもんだ」
――すごいの?
自分なりに進歩は感じられたものの、魔術師のアルヴィンにそう言われると嬉しい。
私は笑って彼の手を借りて立ち上がると、また疲労感を感じてため息を吐いた。
「――でも、何だか疲れたわ」
「ふだん使わない力を使うから疲れるよ。今日はこのくらいで帰ろうか」
見上げるといつの間にか太陽は傾いてきている。
アルヴィンは持ってきた木桶に川の水を汲んだ。
――そういえば、どうして桶を持ってきたのかしらと思っていたの。
「それ――、水を持って帰るの?」
アルヴィンはどこからでも水を出せるのに、と思って首を傾げる。
「君の練習に。ここの水の精霊と親しくなっただろ。だから持って帰ってこの水で練習すると良いよ」
「『ここの水の精霊』……?」
「水の精霊は、場所ごとに少しずつ違う。今親しくなったこいつらを連れて帰った方が、練習しやすいだろ」
私が桶に近づくと、桶の中の水が『よろしく』とでもいうようにぐにゃりと持ち上がって、ぱしゃんとまた桶の中に落ちた。
「さて、戻ろうか。ジャック! 戻るぞ!」
白い犬の姿は周りになかった。アルヴィンは口に指を当ててピィーっと指笛を吹いた。
すると、川上から水をはね上げながら、元は白かった犬が泥だらけになって駆けてきた。
あの茶色い犬はジャック……?
目を凝らすと、さらにその犬は口に何かを咥えていた。
「……きゃあ!」
私は思わず悲鳴を上げる。ジャックが咥えていたのは、ぐったりした兎だった。
ジャックはアルヴィンの足元にそれを置いて座ると、ぱたぱたと尻尾を振った。
「また獲って来たのか……」
茶色い犬の頭を撫でながら、アルヴィンはため息をつくと、それをささっと袋に入れて担いだ。
「ジャックは元々森で迷ってた狩猟犬で、森に入るといろいろ獲ってくるんだ。ジャック、 泥を落として来い」
アルヴィンが川の方を指差して言うと、ジャックは川へ飛び込み、浅瀬で身体をぶるぶると振った。それに合わせてアルヴィンがくるっと手を回すと、川の水がジャックの身体を包むように回転し、毛についた泥を洗い落とした。
“もう帰るの?”
“まだ遊ぼうよ”
妖精たちが私の髪の毛やら服を引っ張るけれど、私は「今日は疲れたから、帰るわ」と言い聞かせながら、妖精たちの手をそっと外した。




