17. 水の精霊との対話
しばらく森を進むと、せせらぎが聞こえてきた。
音を頼りに歩いていくと、木々の間を緩やかな小川が流れていた。底まで見えるほど澄んだ、綺麗な水だ。
“川だ! 川だ!”
“遊ぼう!”
妖精たちは近くの大きな葉を千切ると、小川へ運んで水に浮かべた。葉を船代わりにして、そのまま流れていく。
ジャックは川に足を浸けて、ぱしゃぱしゃ音をさせながら水を飲んでいる。
「さて」
アルヴィンはそう言うと、川辺にしゃがみこんで私を手招きした。
近づくと彼は川の中に掌を浸している。
――次の瞬間、川の水が生き物のようにうねって上へ伸びた。
いくつも蛇のようにうねる水の塊が川から現れて、こちらへ向かってくる。
「きゃぁ」
私は思わず声を上げて後ずさった。そんな私の手をアルヴィンががしっと握って引き留める。
「――水の精霊だ。魔力を与えると実体化して近づいてくる。メリルも話してみなよ」
「話すって――精霊は喋らないってさっき言ってなかった?」
「話すというか――対話? 横に来てくれ」
言われるがままアルヴィンの横に行って、しゃがむ。アルヴィンは私の左手の上に右手を重ねて、指をからませると、そのままぐいっと手のひらを水に入れた。冷たい水の感触に思わず「わっ」と声を上げると、こちらに集まってきていた水の塊がちゃぷんっと跳ねて消えた。
……あれ? いなくなっちゃった?
アルヴィンの顔を見ると彼はゆっくり私に語り掛けた。
「静かに、目を閉じて、ゆっくり呼吸してみて」
――よくわからないけど、目を閉じればいいのね――
鼻から息を吸い、口からゆっくり吐くことを繰り返した。アルヴィンが握っている手の感覚だけが鮮明だった。
冷たい水の中で、重ねられたアルヴィンの大きな手だけが温かい。
いや――温かいというより、熱いような……?
その瞬間、閉じた瞼の裏側に青く渦巻くたくさんの『何か』が見えた。
何か言いたげにくるくる渦巻いているように見えるそれに、私は心の中で話しかけた。
“――こんにちは?”
返事をするようにそれはくるくる回る。言葉は聞こえてないけれど、何となく私に挨拶を返しているように思えた。
“あなたたちが水の精霊?”
話しかけると、それは返事をしたように思えた。
私は言葉を続ける。
“よろしく――ね?”
その時、私の手に重ねられていたアルヴィンの手が離れるのを感じた。
思わず目を開く。そして瞳を見開いた。
目の前には、大きな水の壁がそびえ立っていた。正確には、川の水が壁のように大きく立ち上がり、私の身体を飲み込むようにこちらに迫ってきていた。
「わぁ!」
思わず叫ぶと、その壁は四方に弾けた。どばどばどばっとバケツの水を被ったみたいに大量の水が全身に降りかかり、ずぶ濡れになった。
「うわっ」
横でアルヴィンも叫んだのが聞こえた。呆然と横を見ると、アルヴィンも慌ててローブのフードを被ったみたいだけれど、間に合わず、頭からずぶ濡れになっていた。
アルヴィンは黒い長めの前髪を顔に張り付かせて呆然としながら、私を見た。
「――びっくりした」
「ごめんなさい、あなたが急に手を離すから――」
私はわたわたと釈明した。
「……悪い。一人で精霊と対話できてるみたいだったからさ。はは、びしょ濡れだ」
アルヴィンは笑って、指をくるっと回した。
びしょびしょの服から水滴が浮かび上がって、川に戻って行った。
あっという間に服は乾いた状態に戻っていた。
……本当に便利。
「上出来だ。あとは、今の感覚を忘れないうちに繰り返してみよう」
アルヴィンは頷きながらそう言って、笑った。




