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悠遠の旅空に~半神のバックパッカー~  作者: ビール汁
フォルティス大陸東部――シュケル国
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67話 少女と猫と暫しの別れ

 シュケル最西端の山脈は、麗らかな陽気に包まれていた。

 日向(になた)に咲く高山植物が、密やかに季節の移ろいを知らせ、日陰では白銀の世界を名残惜しむように、ひっそりと雪が残っている。

 雪解け水は麓の青い宝石のような湖を目指して流れていた。湖畔には、家屋が寄り添うように並んでいる。赤茶色の屋根と、瑞々しい緑が調和して、風光明媚な景色を作り出していた。


 陸路でシュケルを出国をするつもりの穣司は、国境とされている山脈を登っていた。

 山脈を越えればシュケル国民とは暫しの別れになるだろう。旅を続ける限り、いつか訪れることだ。が、それでも寂寥感が胸の内に広がるのは、この国で良い出会いに恵まれていたからだろう。


「……いい眺めだな。イェル村があんなに小さく見える」


 尾根からシュケルの大地を見下ろすと、この国で最後に立ち寄ったイェル村が、米粒のように小さく見えた。

 村はハリルの故郷で、ウェンテにも所縁(ゆかり)があるらしく、待ちかねていたと言わんばかりに、二人が歓迎してくれたのだった。

 周辺の案内役(ガイド)を引き受けてもらい、穣司は観光がてら散策した。観光名所といえるようなものはなく、あるのはひっそりと佇む祠だけ。荘厳さを醸し出している内部には、大弓が祀られていた。華美な装飾が施されており、実用性はなさそうだった。


「しかし……結構長いこと滞在したもんだ。良い町が多かったし、人も優しかったから、居心地の良い国だったな」


 穏やかな風を浴びながら、穣司は腰を下ろし、思い出に浸るように独りごちる。

 シュケルに滞在したのは約250日。元の世界でも、これほど一つの国に長く滞在したことはなかった。

 この世界の一年の日数は、地球と然程変わらないことを旅の最中に知った。それを踏まえれば、異世界に訪れてから既に一年近く経過している。


 首都メルケズで例の容疑者を引き渡したのは、半年以上前のことになるが、穣司には遠い昔のことのように感じられた。記憶から薄れつつもあり、彼等の名前はうろ覚えになっている。いつものように嫌な人達のことは、忘れた方がいいと考えるだけで、興味はすっかり失せていた。


 穣司が近代化が進んでいるメルケズで覚えているのは、試作段階と思われる列車のような乗り物を、整備している獣人の作業員だ。より良い物を作ろうと、汗を流している姿が眩しかった。人里離れた森で嗜虐趣味に興じる者の記憶など、直ぐさま上書きされた。頭に残っているのは容疑者達の動機くらいである。


 ハリルの話によると、シュケル国はあの冒険者達を他国の工作員だと断定した。

 彼等は動機を偽ることなく白状したらしく、その証言通りに確固たる証拠も見つかった。ゴブリン達への行動はあくまで時間潰し。本来の目的はシュケル国の弱体化である。


 深夜のフェアティアを標的にして、新型船から砲撃が行われる予定だった。宵闇に包まれた街に確実に攻撃を与えるため、街灯が誘導灯になるように細工が施されていた。

 奇しくも穣司が光らせた街灯である。一際目映い光を放った街灯を不審に思った者が調べた結果、奇妙な魔道具が見つかったと報告されていたらしかった。


 不測の事態が発生して砲撃が失敗。万が一にも新型船が拿捕された時は、菌が付着した衣類と銃器が船には積まれていた。調査のために獣人種が乗り込み、最新の銃器を接収すれば、疫病が蔓延する算段だったのだろう。その後は予防接種を受けている容疑者達が、なに食わぬ顔で取り返すつもりだったのだ。

 それだけでなく、貿易港でもあるフェアティアで疫病が発生すれば、それだけで大打撃を与えられる。取引をする国はなくなり、ある種の海上封鎖になるだろう。


 強靭な肉体を誇る獣人だが、病の類いに耐性はない。薬物などに対しても同様だ。とある小さな漁村では、過去に壊滅的な被害を受けたのが、それを証明している。フェアティアで疫病が蔓延すれば、被害は甚大なものになるだろう。

 拿捕した船を調査中に、体調を崩した獣人も少なからずいたのだ。しかしフェアティアに帰港した瞬間に、煌めく光粒の幻影に包まれた獣人は、何事もなかったように快復したのである。


 その話を聞かされた穣司は当惑した。思わず表情に出そうになったが、(すんで)のところで堪える。

 偶然にしてはあまりに出来すぎていた。意図してやったことではなく、ある意味では暴走とも言える結果だ。自分の意思以外の力が働いているとしか思えなかったが、それでもフェアティアの危機を未然に防いだのだ。


 その二つはウェンテと一緒にいた時の出来事だ。が、彼女が何かしたわけでもない。そして彼女は穣司が暴走させた光を、公表しているようでもなかった。

 ハリルは事実を淡々と語るだけだったのだ。たとえ偶然だとしても、フェアティアを救ったことが知られると、もろ手を上げて称賛された恐れもある。

 しかし平常運転ということは、ウェンテが口を噤んでいるのだろうと考えられる。もしくは因果関係が結び付かなかっただけか。あるいは新型の銃器と、大破した新型船を接収して、それどころではないのか。行方不明の乗組員は依然として消息が掴めていないらしかった。


 容疑者達はシュケルで最も重い罪に課せられた。死罪が制定されてないらしく、命以外で償うのだろうが、穣司には興味が湧かなかった。せめてリックスブリックス達に向けて、謝罪の言葉があれば、少しは違っただろうが、犯罪者達はそれを口にしていなかった。尚且つ戦争を仕掛けようとする工作員であるからこそ、記憶にも残したくなかった。

 なにより国が判断して、相応の罰を与えるのだから、それで十分である。元より冤罪でないのなら下された判決に、口を挟むつもりもない。


 シュケル国は今回の事件を、あえて国民に(おおやけ)にしないとのことだ。無駄に緊張を高める必要がないのだろう。そして犯罪者の属する国に抗議することもなく、内々に済ませることとするのだという。その方が不気味さを煽り、相手国は様子見に徹すると予測を立てている。

 その間にシュケル国は水面下で動き、争いを起こすのは割には合わないと、相手国に知らしめるのだとハリルは豪語していた。戦わずにして勝つ方法を、メデニシエズの森で学んだとも言ってたが、何のことか分からない穣司は聞き返すこともなく、事件の顛末を胸の内で締めくくった。


 戦争はして欲しくない。

 だが余所者が干渉するべきものでもない。得意気になって平和の有り難みを説かなくても、シュケルの人々は代わり映えしない日々の大切さを知っているだろう。リリアンヌやリックスブリックス達が、シュケル国民として受け入れられる姿を見れば一目瞭然だった。


 最初こそは珍しいものを見る目を向けられていたが、リックスブリックス達が善良な存在だと分かり、シュケル国民として生きることが知られると、すぐに同族のように扱われていた。

 ゆえに溶け込むのも早かった。しかし他国から多くの人が訪れるフェアティアに、ゴブリン族が暮らすのは不要な火種を抱えてしまうのではないか、とリックスブリックスは懸念した。恩のある国に迷惑をかけたくないと、自ら進んで街から離れた場所に住むことにしたが、その謙虚さに胸を打たれた獣人達は村の建設を手伝っていた。


 その場所は女神の泉がある地だった。

 穣司が創った建造物を中心として、村が作られることになったのは、気まずいとしかいえない事態だ。とはいえ今更撤去することもできず、背中に冷や汗が流れるのを感じながら、動向を見守った。

 リリアンヌ達の表情に迷いはなく、澄みわたる空のように、晴れやかだ。これなら平穏を享受できるだろうと、穣司は胸を撫で下ろし、拠点にしていた港町のフェアティアを後にした。


 それからは特に理由もなく、風の吹くまま気の向くままに、シュケル各地を旅して回った。移動は公共交通手段である疾駆蜥蜴(ラプトル)だが、巨大な動物の背に乗ることもあった。極大の体躯を誇る赤龍の背に乗ることもあれば、青白い体毛の巨大なゴリラの肩に乗ることもある。アセナに乗る時は牙猫も一緒で、順番でもあるのか週替わりのようだった。その様子が可笑しくて、穣司は安穏とした気分で過ごしていた。


 どの世界でも楽しい時間が過ぎるのは早く感じるのだろう。愉快な旅の時間は飛ぶように過ぎ去り、毎日のように聞いていたコロの声も、これからは聞く機会が殆どない。

 小さな身体の少女は、自らの意思でシュケルに残った。ウェンテやリリアンヌ、そしてゴブリン達と共に暮らしたいと言われてしまえば、穣司は反論することはできない。この国の人達なら大丈夫だろうと信頼もしている。しかし仮初めの親子関係だったと考えても、早すぎる親離れに、僅かな寂寞も感じていた。


「コロちゃんはシュケルに住むし、これからは久々に一人旅だな。――あ、そうだ。ガルヴァガさんにも近況報告しておかなきゃ。ここなら人の目を気にしなくていいしさ」


 独り言の途中で、老人への報告を思い出す。

 世界と世界の狭間にある水晶回廊で過ごした数十分は、地上では数時間も経過しているのだ。

 その間は穣司は無防備になる。あらゆる攻撃を受け付けないため、怪我の心配はない。だが、身動きしない人間が、死んだように転がっているのは、薄気味悪いだろうし、騒ぎになる恐れもある。そう考えると一人きりの時にしか報告できなかった。


「さてと」


 穣司は起き上がり、背筋を伸ばす。

 祈りを捧げるように手を前に組み、目を瞑る。

 すると身体を置き去りにして、精神がふわりと浮き上がる感覚が訪れた。


 ◆


 報告を終え、精神が地上に戻ると、辺りは黄昏時になっていた。

 青い湖は茜色に染まり、イェル村には明かりが灯りはじめている。時間の経過は予想通りだ。


「そろそろ行くかな。……さようならシュケル」


 そう呟き、村に背を向ける。

 夜通しで散歩気分の山脈越えも悪くない。そう考えていた時だった。突然「ミャア」と鳴き声がして、再びシュケルの地を振り返る。


 馴染みの牙猫が、岩肌を駆けるように登っていた。背中にはコロが乗り、手を振っている。


「あら、牙猫と……コロちゃん?……サプライズでウェンテ達が村に連れてきていたのかな?」


 突然現れた牙猫とコロに、穣司は自然と頬が緩んだ。


「お父さんに、いってらしゃいを言いにきました!」


 弾ませた表情でコロが叫んでいた。牙猫も「ミャア」と鳴きながら駆けている。そして穣司に近付くと、胸元に飛び込んだ。


「牙猫もお別れを言いにきたのかな? お利口さんだね」


 ()(かか)えた穣司は、牙猫とコロを撫でた。


「お別れじゃないです、いってらしゃいです! ウェ……牙猫ちゃんも私と同じで、お父さんにいってらしゃいを言いにきたんです!」


 コロは言葉の途中で噛んでいた。「ウェ」とは吐き気でもあるようだが、突然撫でられたせいだろう。


「あはは、そうだね。お別れじゃなくて、いってきます……だね。でも、此所(ここ)にいるって、よく分かったね?」


「お父さんがどこにいるか、私には分かるんです。どこにだって会いにいけるんですよ! だから離れていても平気なんです!」


「へぇ、コロちゃんは凄いんだね」


 胸を張って主張するコロは愛らしかった。

 実際のところ、そのような能力がコロに備わっているのか穣司は知らない。が、聞き返すのは野暮というものだ。強がりかも知れないのだから、褒めてあげる方がいいだろうと判断したのは正解だったようだ。褒められて嬉しかったのか、コロはエヘヘと笑っている。

 牙猫も頭にこすりつけながら、穣司に甘えていた。一人と一匹が愛らしく、いつまでも撫でていたくなる。

 だが、そうしている間にも太陽は沈んでゆく。辺りは暗くなりつつあった。


「もう暗いからイェル村まで送ろうか?」


「大丈夫ですよ! 私達なら平気です!」


「そうなの? でも危なくないかな?」


「大丈夫です!」


「ミャア、ミャア!」


 譲歩するつもりがないコロと牙猫に、穣司は困り果てる。しかし問答している間に、夜の帳は落ちようとしている。

 夜道で少女を襲う暴漢は、此所(ここ)にはいない。猛獣の類いもおらず、空を飛べるコロは安全といえるだろう。とはいえ少女を一人で帰らせるのは、後ろ髪を引かれる思いがある。だが無理に村まで送るのは、親離れをしようとする子供の足を引っ張る行為だとも思えた。


「分かった。じゃあコロちゃんと牙猫を信じて、俺は行ってくるよ」


「はーい、いってらっしゃい!」


 コロに見送られながら、穣司は山脈を登る。そして――しばらくもしないうちに振り返った。

 もう村に戻っているのか、コロと牙猫の姿はない。

 今が絶好の機会だと、穣司は宙に浮く。

 高く、高く舞い上がり、シュケルの大地を俯瞰した。


「コロちゃんとシュケルの人々が悪意に晒されませんように」


 平穏無事を強く願う。

 身体の底から、膨れ上がる力が迸った。

 煌く光の粒が穣司から溢れ出し、弾けて大地に降り注ぐ。

 その光景は満天の星が降りてくるようであり、季節外れの雪のようでもあった。


「これならコロちゃんも無事に帰れるかな。……というか俺って子離れできない性格なのかも」


 穣司は苦笑いを浮かべて地上に戻る。

 行く先は山脈の向こう。どのような人たちが住んでいるのか、自らの目で確かめるために、あえて聞いていない。次に出会う人達を楽しみに考えながら、穣司は夜の山を進み、シュケルを後にした。









ジョージの報告を作り笑顔で聞いていたガルヴァガは、然り気無くジョージに触れて、記憶を読み取った。そして自ら創りだした神域に戻り、一息つく。

 何もない世界で、空に浮かぶ小さな島と神殿があるだけの、隠れ家的な場所だ。空は不純物が混じることが、許されないと謂わんばかりに、澄みきっている。


 いくつも世界を持っているガルヴァガだが、この小さな世界に思い入れがある――というわけでもなく、いつだって作り替えられる程度にしか思っていない。


「お主はジョージをどう評価する」


 虚空に向かってガルヴァガは言った。


「随分と不敬な人の子だと思っております」


 姿を表したのはガルヴァガに仕える下位の神。線の細い中性的な男は、姿を隠したままジョージとの会話を聞いていた。正しくはガルヴァガが聞くように指示していた。


「ジョージは儂を顔馴染みの年寄り程度に思っておるのだろう。……いや、そのように儂が演じておるのだ。構わぬことよ」


「ですが、最高神であらせられるガルヴァガ様に、馴れ馴れしい態度など、許されるものではないと愚考します」


「……ほう、そうか。つまりお主は――」


 下位神の言葉を聞き、ガルヴァガの声から感情の色が失せた。漂わせる空気が張り詰める。筋肉が隆起する腕が下位神に伸び、細い首を鷲掴みにした。


「この儂に異を唱えるのだな? 構わぬといった言葉が聞こえなんだか?」


「し、しつれ……い……しまし……」


「どうした、何を言っておるのか分からんぞ」


 数少なくなった神の首をへし折ることすらガルヴァガは厭わない。そう思わせるように力を込める。


「ぐ……。不敬……なのは、私で……す。申し訳……ありま……せん」


「聞こえぬ。どうしても謝罪したいのなら、儂の手を払い除けなければ、その声は届かんのう」


 ガルヴァガは冷たく言い放ち、更に力を込める。が、最高神の手を振り払うのは不敬だと思っているのか、身体が透けるように消滅しようとしても、抗うことはしなかった。


「つまらぬ……のう。ジョージは儂の手を振り払った数少ない人の子でな。とはいえ、その時の記憶は儂が消したから、ジョージは覚えておらんだろうがの。……だが興味深い男よ。神という概念、そして宗教というものを腹の底では憎んでおるが、その一方で敬虔な神の(しもべ)を心の底から愛しておる」


 ガルヴァガは鼻を鳴らし、手を離した。


「お主はジョージの言葉に気付くことはなかったか?」


「……申し訳ありません」


 求めている解答ではなかった。ガルヴァガは溜め息を吐き出し、失望を露にしながら言葉を続ける。


「ジョージは自らのことを『神のような存在』だと表現している。それは半端な神になったという意味ではない。儂の力を授かって尚、自らが神になったと無自覚のまま認めておらんのだ。それがどういう意味か分かるか?」


 噎せる下位神に気遣うことなくガルヴァガは詰問する。


「……歪だと思っております。それに――」


「不敬だと思っておるのだろう。確かにその通りだ。だがのう、だからこそ半神のままでいられるのだ」


 半神とは神の力を与えただけの半端な存在ではない。ただの人間に力を与えれば、いずれ人間性が失われ、神の力に溺れる。だが相反する心を持っているジョージは、万能感が身体を貫こうと、神の力に呑まれることはない。神と崇められても、何らかの手違いだろうと、まず否定から入るのだ。それが半神でいられる証拠。人間性を保ったまま、神でいられる稀有な者だ。


「もしや、ニナ様はジョージを利用されているのですか?」


「ようやく察したか。だが、その表現は正しくないの。助けを求めたと言わねばならぬ。ジョージと接する機会があれば、落第点というものよ。……話を戻すが、儂らは人間性を持ち合わせておらぬ。創造物を慈しむことはなく、人の子を特別扱いもせぬ。せいぜい気紛れで手を差し伸べる程度だろうて」


「水溜まりで溺れる蟻を、掬い上げるようなものですね。人の子はその事柄を、神に選ばれたと妄信し、神託を得たと思い上がるものです」


「言い得て妙だの。儂には人の子も蟻の命も等価値よ。せいぜい儂らの保険のようなものだからの。いざとなれば命を還してもらうのだから、愛することなど有り得ぬ。だが、もしも神に人間性が芽生えたら? あるいはそういった類いの呪いを受ければ、どうなる?」


 下位神は長考する。人間性が芽生えるという意味が理解できないのだろう。


「おそらく今の儂やお主には理解できぬだろうな。それ故に神界崩壊の災厄で多くの神は消滅した。人の子に慈愛を向けるようになれば、いずれそうなるのだろう。だからこそニナはジョージに自らの核を渡して、深い眠りについたのだと予測しておる。どのような経緯でジョージを知ったのかまでは知らぬが、ジョージなら任せられると、託したのだろうて。奴の心象は愉快なものよ。その在り方は人の子が望む神の姿に近いのだからの」


 ジョージは人を慈しみ、世界を愛している。

 欲が薄く、人々が幸せそうに暮らしている姿が、何よりの幸福だとしている変わり者である。道に迷う者には手を差し伸べ、導こうとする姿は、人の子が想像する神そのものだろう。その心象に触れた者は、ジョージこそが神であると錯覚しても不思議ではない。しかしジョージは自ら神だと思わず、女神ニナを尊重する。

 他の者ではこうはいかないだろう。本来の神でも、そのようなことはせず、慈愛を向けることもない。人の子など、ただの創造物。気紛れで手を差し伸べる程度である。

 だからこそジョージが選ばれたのだ、とガルヴァガは確信していた。


 神を信じない者が、密やかに神と崇められているのは皮肉なものだった。

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