11話 終わりもたらす神獣
奈落の底からの帰還。
この地に伏した者が、再び目を開けると、誰もが茫然自失した。目に映る全てのものが、目覚ましい変貌を遂げていた。どこまでも広がる、遥かなる蒼穹。澄んだ魔素と静謐な空気。命が芽吹く森林に、心が洗われる清浄な小川。穏やかな大地の香りが、そよ風に乗って鼻腔をくすぐる。
そのあまりの美しさに、はじめは誰もが勘違いをした。ここが死後の世界。伝承で知られている天上の庭であると。
アンジェリカは、そんな仲間達と再会する度に、その勘違いを正した。
私達は生きていて、ここは天上ではない。この地こそがダークエルフの始まりの地。降臨した神によって、新生された祝福の揺り籠である。皆は神によって救われたのだ、と。
アンジェリカは木漏れ日に揺れる、道とも言えぬ道を、仲間と共に引き返す。
往路は一人から始まった。まずはチコとニーニャが加わり、それから一人、また一人と仲間達との再会を果たした。そして誰一人も欠ける事のなかった一団へと再び戻り、神の下へと帰路に就く。
皆が皆、身に纏っているものは、襤褸切れのようになっていた。もはや服と呼べるような代物ではない。それでも身体には傷一つ残っていない。誰しもが、生の喜びを分かち合あい、安堵の表情が浮かんでいた。衣類の変化など、あの恐怖に比べれば、訳はないと言わんばかりだった。
「もしかしてこれが?」
両手を胸に置きながら歩き、辺りを忙しなく眺めている女性が、アンジェリカに尋ねる。
「どうしたのティアおばさん」
「空気が喜んでいる気がするわ。それに前に進むにつれて、心が安らいでいくわね」
「ええ。これこそがジョージ様の御力よ」
「これが……そうなのね」
ティアは立ち止まり、目を瞑る。それから大きく息を吸い、ゆっくりと息を吐き出した。
「ねぇ、アンジェリカ、この格好だと失礼にならないしら? 私のようなおばさんの肌を見せては不快に思われるかも知れないわ。ええ、きっと不快に思われる。だって私はアンジェリカのように若くないもの。もう600歳を超えているのよ。こんな姿を見せる訳にはいかないわ。だから、そのね、ここで待っていてもいい……かしら?」
ティアは肩にかかる髪を触りながら、アンジェリカに目を背けて、捲し立てるように言った。
「大丈夫よ。ティアおばさんは綺麗だし、まだまだ若いわ。だから行きましょう? もう少し歩けば、少し開けた場所があるの。そこにジョージ様はいらっしゃるわ」
ダークエルフは寿命が長く、600年の月日が経とうとも、それほど外見に現れない。
したがってティアは見た目だけでいうなら、人間でいうところの20代後半程度の外見だ。同種族からはともかく、他種族では年齢を外見だけで判断するのが難しい。
「うう、分かったわ。綺麗じゃないし、おばさんだけど行くわ……ね。おばさんだけど」
ティアは項垂れながら、再び歩き始める。その姿にアンジェリカは、くすりと笑った。
「ティアおばさん、まるで告白するみたいだよね」
「そんな事を言っちゃ駄目だよニーニャ……」
後方でニーニャがぼそりと呟き、チコがそれを注意する。
その呟きが届いていたのか、ティアは黙り込み、耳の先を赤くしていた。
その様子を見ているアンジェリカは、自らの心境の変化を感じていた。
数刻前であれば、おそらく憤りを覚えていたはずだ。これから神とお会いするというのに、何たる態度だと。あまりにも不敬。決して許されるものではないと、激高していただろう。
それが今では澄みきった穏やかな気持ちで、仲間達を見守る事が出来ている。あの微笑みを思い出す度に、温かい気持ちになれる。そういった心境になっていた。
木々を縫うように、アンジェリカ達は森を進んだ。
聞こえてくるのは葉ずれの音と、仲間のとりとめのない会話。
その会話も、神へ近付いていくにつれて、次第に減っていく。安堵の表情を浮かべていた者達も、表情が固くなっている気がした。あまりの荘厳さに圧倒されているのだろう。
歩けば歩く程、近付けば近付いていく程に、豊潤な魔素の流れを、肌で強く感じられる。流水に逆らって歩く時のような、力強いが圧力が、身体に押し寄せる。
しかし流水のように辛さも苦しみもない。押し流されるどころか、更に近付きたいという気持ちになり、誰もが歩を速めた。
そうして源流へと辿り着く。
あの獣は姿を消し、神の姿だけがあった。
開けた場所の中心で、陽光を一身に浴びながら、手を前に組み、祈りを捧げているかのような姿だ。
その身体からは、煌々とした光の粒が漏れ出している。辺りにはその光の粒が、踊るように浮かんでいた。
その姿はまさしく太陽の化身。光の神。どんな暗闇でさえも、払い除ける希望の光。その幻想的で美しい光景に、誰もが息を飲んだ。
(ああ、なんて神々しい)
アンジェリカは、あまりにも美しい光景に、呼吸すら忘れてしまいそうになっていた。
感極まり自然と涙がこぼれ落ちる。視界がぼやけてしまうのが勿体無い。そう思っても涙を拭えなかった。身体が勝手に動き、無意識に手を前で組んで、地に足をつけ跪く。
あまりの神々しさに、誰も言葉を発する事はなかった。
誰に言われる訳でもなく、他の者も跪き、祈りを捧げていた。その表情は歓喜に満ち溢れている。誰もが涙を拭う事はしなかった。
そして瞳を閉じ、今日という日に、そしてこの世界で産声をあげられた事に感謝した。
そのダークエルフ達の頬は、乾くことなく濡れ続けていた。
ふと、木の葉がさらさらと擦れる音が消え、不気味なまでの静寂が訪れる。
耳鳴りのような音が頭に響き、周囲の魔素から切り離されるような感覚に陥いる。アンジェリカは不安にかられて、目を開いた。
神の姿が目に映る。フードを深く被り、表情は窺えないが、立ち姿に変化はない。
ただ、いつの間にか、傍らに幼い少女がいた。褐色の肌に長く尖った耳。銀色の髪は、頭の高い位置で二つに結われている。水に濡れ後のような湿り気を感じさせる髪が、陽の光に照らされて輝いて見えた。
外見はダークエルフだが、アンジェリカはこの少女の顔を知らない。この地には船で着たが、その船は大型とは言えず、いつの間にか船に忍び込み、身を隠していたとも考えられない。
(いつの間にここへ? それにどこの子かしら)
足音もなく、気配すら感じ取ることが出来なかった。
その少女はアンジェリカを気に掛ける事もなく、手に持っている短剣を慈しむように撫でていた。
八つの宝石が埋め込まれている黒色の短剣。アンジェリカが携えていた神器だった。
「――、――!」
危ないから、その短剣を離しなさい。そう言おうとするが声が出なかった。
それだけじゃなく、体もうまく動かせない。まるで夢の中にいるような、ぎこちなさだ。
仲間達は異変に気付いていないのか、跪いて祈りを捧げている。微動だにしていない。
風は止み、大地の匂いも届いてこない。本当に自分だけが、この世界から切り離されてしまったかのようだ。
『別に、お前に何かするつもりは、ない。だだ、少し、お話しするだけ』
冷たげで眠たそうな少女の瞳がアンジェリカを見つめていた。
この少女の声なのだろうか。口からではなく、頭の中に直接響いてくる声に、アンジェリカは戸惑を隠せなかった。
なぜ?どうして?そう思っても声は出ない。
『想いを、伝えようとすれば、わたしと、同じように出来る』
再び少女の声が脳内に響く。どこか、たどたどしい喋り方だ。
アンジェリカは一度、深呼吸をする。そして言われた事を試す。頭に浮かぶ言葉を思念にして少女に送る。
『これはなんなの?あなたはどこの子なの?それにその短剣は私の大事な物なの、危ないから離しなさい』
『質問が、多い。あと、この短剣は私のもの。お前のものじゃないし、危なくも、ない』
『そんな事がある訳がないわ!これは代々受け継がれてきた物なの。あなたのような子供が生まれる前から私の一族に伝わってきた物なのよ!』
アンジェリカは捲し立てるように想いを伝える。
この神器はアンジェリカにとって、信仰が目覚める切っ掛けになり、この地に神を降臨させた大切なものだ。それがこの幼い少女の物である訳がない。つい熱が入り、語気が強くなる。
『お前の事なんか、知らない。昔、誰かに、貸した事はあっても、これはずっと私の物。それは、昔から、変わらない』
少女は首を横に振り、呆れるような仕草でアンジェリカに言う。
『何よそれ。……意味が分からないわ』
『別に、お前に、分からなくて、いい。……じゃあ次の、質問に答える。私は、生まれた時から、ずっとここにいる。他とは違って、私だけが、ずっと一人で、ここにいる』
『ここには恐ろしい獣がいるのよ。あなた一人でこの地にいられる訳ないじゃない。揶揄わないでちょうだい』
『……まだ、分からない?じゃあ、いい。次の質問に答える。言葉にして、話さないのは、お前に伝わらないから。お前たちが、言葉を、忘れてしまったから。それだけ』
少女は溜息を吐き、侮蔑するような目でアンジェリカを見やる。
『言葉を忘れた……? まさか、そんな。あ、あなたのような子供が、古の言語を知っているというの?』
アンジェリカは狼狽えながら言った。
自分でさえ、神々の言葉を知る為に、自らの半生以上の年月を積み重ねた。それでも全てを理解する事は出来ず、滑らかに喋る事は今も出来ない。それなのに、この幼い少女は、あの言葉を喋れると言う。ありえない。そう言いたくてもアンジェリカは、少女を否定する事は出来なかった。胸に動悸を感じ、背中に冷や汗が垂れる。
「本当にどこまでも愚か」
少女は神々の言葉を、ぼそりと口から呟く。
その直後、少女の背後から黒い炎が燃え上がる。黒炎は少女の頭上で、竜巻のように渦を撒き、激しく燃え盛る。やがて生物の顔を形どった炎に変異した。その姿はまるで、あの黒き獣だった。
『――っ!』
腹部を引き裂かれた時以上の衝撃に襲われ、アンジェリカは言葉を失う。
この少女こそがあの黒き獣の正体。そして少女は神々の言葉を滑らかに話した。
先程に少女が語っていた言葉の意味がようやく理解出来た。
『私は、八神獣の一人、闇のテネブラ。お前達に、忘れ去られた、ダークエルフの守護獣』
『まさか、そんな……』
神獣の事はあまり伝承に残っていなかった。そういった者が存在したという程度だ。それ故にどんな生物かも分からず、守護獣という言葉すら、聞き及んだ事はなかったのだ。
アンジェリカは口の中がカラカラに乾いていくのを感じていた。あの黒き獣こそが、神の僕。
ならば自分は、その神獣に刃を向け、攻撃を仕掛けた事になる。アンジェリカは何度目か分からない唾を飲み込もうとする。しかし口内は乾き、唾を飲むことすら、ままならなかった。
『私がテネブラ様に刃を向けた事は、決して許される事ではないかと思います。ですが、この地ではじめに顔を合わせた時に、なぜ牙を向け襲おうとしたのですか! それに、我らの守護獣であるのなら、窮地に追いやられた我らを、なぜ救って下さらなかったのですか!』
アンジェリカは自らの行った不敬行為に、悔恨で胸を締め付けられる。それでも哀訴するように叫んだ。
『お前達は勝手に、この地を出て行った。なぜ、去った者を気に掛けないと、いけない。それに、お前は神器の使い方を、誤った。だから、私は私じゃなくなった。襲った事なんて、あまり覚えていない』
『それは一体……』
『お前が神器を、使えば使う程、私は私じゃ、なくなった。でも、気にしなくていい。もう、この世界は、壊れていた。私じゃなくなった私が、この世界を壊すか、緩やかに、全てが、滅んでいくかの、違いしかなかった』
テネブラは思い出に浸るかのように呟く。
悠遠の彼方を見るような遠い目をしていた。
『世界が……壊れていた?』
『そう。どうせみんな、いなくなる。私も、最期には、消える。でも――』
テネブラは目を瞑り、感情のない声で言う。
それから穣司に視線を向けて、目を細めて満面の笑みを浮かべた。その姿は、子が親に向けるような笑顔だった。子供特有の愛らしさがある。
『そうじゃ、なくなった』
アンジェリカは視線の先にある人物の名前を言う。
『ジョージ様……の事ですか?』
『そう。だから今度は、私から、お前に質問する。これから、どうするつもり? 神に何を願う?』
テネブラから笑みが消え、光も届かないような赤黒い瞳で、アンジェリカに尋ねる。
空気が張り詰め、周囲の温度も下がったかのように感じられる。その異様な雰囲気にアンジェリカは悪寒を感じた。
まるで鋭い刃を喉元に突き付けられているよう。答えを間違えれば、斬り落とされる。そんな気配すらあった。
『わ、私は……私達は人間達に奪われた故郷を取り戻したい! その為にジョージ様のお力を――』
その瞬間、張り詰めた空気が弾けた。
『お前は!神を!!兵器として!使うと言うのかっ!!神器を破壊の道具に!使ったようにっ!!』
テネブラの怒号が頭の中に突き刺さる。
少女は今にも食いかからんと、言わんばかりに歯を剥き出しにした。血走った眼がアンジェリカを突き刺す。黒炎は、更に激しく燃え上がり、憎悪を宿していた。
その憤怒の形相にアンジェリカは恐怖に凍りついた。身体が震え、呼吸が小刻みに荒くなる。
『そ、そんな、つもりは、あ、あ、ありません。確かに神器の使い方は誤りました。それでも神に殺戮など望んでいません。か、神をお傍に感じるだけでいいのです。神の名の下に我らが人間達を――』
『ふざけるなっ!! 神の名の下に、お前達が人間を殺す。それは、お前達の罪を、神になすりつける事。お前は何も分かっていない。だから神を忘れた。神の教えを忘れ、言葉すら忘れた。哀れな屑だ』
『――っ』
アンジェリカは言葉を詰まらせる。動悸が止まらない。
神に罪をなすりつけるつもりなんてなかった。それでも言い返せる言葉が見つからない。
あの御方が傍にいてくれるだけで希望が見えた。各地に逃げ散らばった同胞達も、神を傍で感じれば、信仰の火も灯るだろう。再び闘志が燃え上がり、たとえ戦いの果てに命を落としたとしても、神の下へ召されるのなら、死の恐怖すら乗り越えられる。神を信仰する我らに仇なす人間など、神の名の下に裁きを――
(殺しの理由を神のせいに……)
アンジェリカは表情を歪め、歯軋りする。
この少女の言った通りだった。自らを驕り、信仰を忘れ、困難に直面すれば神頼み。そして今さらになって信徒面をする。あまりにも滑稽で哀れ。
『私は、お前達がここを出ていった後、どうして人間と争いになったのか原因を知らない。でも、人間達に故郷を奪われたと、いうのなら、その前に、人間達は対話を求めてきたはず。きっと、お前達の先祖が、対話を求める人間達を、能力差で追い払った』
『……そう、なのかも知れません』
『曖昧な言葉、呆れる。人間より遥かに長い寿命を、持ちながら、昔の事を知らない。……もういい』
『それでは我らに救いの道はないというのですか!? このまま滅びを待てと?』
アンジェリカはテネブラに縋るように叫ぶ。
感情の波が溢れた。もはやアンジェリカ自身も、どうすればいいのか分からなかった。
神の降臨に、救いの道が見えた。故郷を取り戻し、虐げられる仲間を救えると思った。それでも、その道は閉ざされた。自らの浅はかな考えによって。
神を信仰する者が、殺しの理由を神のせいにする。その不合理な考えが自らを蝕む。
『お前のせいで、私は私じゃなくなった。それでも、神のおかげで、私は救われた。その結果、世界も救われ、お前達も救われた。これ以上に、何を求める。信仰を忘れ、私を忘れたお前達が、何を欲深く望む。人間達に、追いやられたのは、お前達の怠慢。拗れてしまった関係は、もう戻らない。お前達だけで、解決すればいい。神は親。親が自分の意志で、子を罰するのはいい。でも子が親に、子供殺しを仕向けるのは、私は許さない』
『ううっ』
アンジェリカは啜り泣く。
故郷を取り戻す事も出来ず、徒に仲間が失われていった。この地に辿り着く為に、どれだけの命が失われたのか。希望の光は陰りに落ちた。もう自分には何も残されていないと、無力感に打ちひしがれる。
『強く、言い過ぎた。謝る。お前が、おとーさんを、降臨させたのは、喜ばしい』
悲壮感漂うアンジェリカを見て、ばつが悪そうにテネブラは言った。
『ジョージ様が……お父様ですか?ではお母様は?』
『この世界を創った女神ニナ様。今は、どこにいるのか分からない。そしておとーさんがきっと男神様。私も、おとーさんには初めて会った。昔、おかーさんが言ってた。おとーさんは遠い所に行ってるって。でも、この人がおとーさんだって匂いで分かる。おかーさんと似ている、とても優しい匂い。それに壊れた私が、牙を向けても、怒るどころか、癒してくれた。私が失った力を分け与えてくれた。だから、やっぱりおとーさんは、優しい』
テネブラから怒気が消え、嬉しそうに穣司を見つめる。頭上に燃え盛る黒炎はすっかり消えていた。
『私はお前に怒った。でも、全部に怒ってる訳じゃない。おとーさんが、来てくれて凄く気分がいい。だから、守護獣として、再びお前達の傍にいる。お前達が望むなら、鍛えてあげる。私も、今の人間に思うところはある。少しばかり、痛い目に遭わせても、きっと平気。でも、おとーさんが、子供達の、喧嘩を知ったら、悲しむかも、知れない。だから、秘密にできる?』
『ひ、秘密に出来ます!』
アンジェリカは即答する。これしか道はない。希望の光が再び灯る。
『うん、なら大丈夫。もしかしたら、優しいおとーさんが、私達の知らない間に、どうにかしてしまうかも、知れないけど、無駄にはならないと、思う』
テネブラは優しい笑みを浮かべながら、アンジェリカに言った。
『それと、私の事は何も言わないで。獣の姿になれるのも、時が来たら、自分でおとーさんに、話すから』
『それは、その……なぜでしょう?』
『それも秘密。色々、あったから、恥ずかしい』
テネブラは顔を赤らめて、恥ずかしげに言った。
アンジェリカには、神と神獣との間に、何があったのか分からない。それでも、恐ろしさも少女らしさもある神獣が、赤面して恥じらっている姿は、不敬だとしても可愛らしさがあった。だから『秘密にします』と答える。
『じゃあ、今は、おとーさんと、一緒に祈ろう』
『はい!』
そうして時が止まってしまったような世界は再び動き始める。
神獣とダークエルフ達は、祈りを捧げた。神の瞳が開くまで、ひたむきに共に。
――イヌ科の生物は強い喜びを感じると、涙の他に濡らすものがあるという。それがこの世界の狼に似た生物にも、当て嵌めまるかは分からない。それを今、知っているのは、おそらくテネブラという神獣の少女だけだろう。




