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トラウマ持ち事務員ですが、騎士団員たちの好意はきっと…勘違いです。  作者: 壬ひなた。


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51. 戻った日常と、待ち遠しい休日


 ウサギから人間に戻った翌朝、団長室へ入ると、アルベルト様とアインス様が顔を上げた。


「おはようございます。昨日は本当にありがとうございました」


「おはよう、リナ。体調はどうだ?」


「はい! すっかり元気です」


 そう答えると、アルベルト様の表情が和らいだ。


「そうか。よかった」


「昨夜から今朝にかけて、身体に変わったことはありませんでしたか?」


 アインス様にも聞かれ、私は頷いた。


「はい。よく眠れましたし、何ともありません」


「それなら安心しました。ですが、何かあればすぐに言ってくださいね」


「ありがとうございます。今日からまた頑張ります!」


 自分の席に着き、さっそく書類をめくる。昨日は魔法を使って動かしていた紙も、今日は指先でつまむだけでいい。


(……やっぱり、人間の手って便利)


 仕事ができることを、こんなに嬉しく思う日が来るとは思わなかった。少し張り切って次の書類へ手を伸ばしたけれど、机に積まれた量は、覚悟していたほどではない。


 アルベルト様が、ご自身の仕事の合間に私の担当分まで進めてくださっていたのだ。アインス様も、休みの日まで解呪のための術式計算に時間を割いてくださっていた。


 こうして自分の席で仕事ができるのも、お二人が支えてくださったおかげだ。助けてもらった分をすぐに返せるわけではないけれど、まずは目の前の仕事を一つずつ、きちんと進めていこうと思った。


 私の日常は戻ってきたけれど、黒いウサギたちの調査はまだ続いている。第四部隊は第一部隊にも協力を求めることになったらしい。


 そんな時。


 ドンドンというノックの音と同時に団長室の扉が開き、大きな声が響いた。


「リナちゃん、ウサギになったってホント?!」


「なんですか。オスカー、騒がしい。それにレオまで」


 アインス様が書類から顔を上げる。


 入ってきたのは、オスカーさんとレオくんだった。二人とも私を見つけると、まっすぐこちらへ向かってくる。


「だって! 今、第四の調査に第一から人員を出してほしいっていう書類を見て、いてもたってもいられなくて!」


 レオくんは慌てた様子で目の前まできた。


「リナさん! もう大丈夫なんですか?!」


「う、うん。昨日、人間に戻れたの」


「よかったぁ……!」


 レオくんが大きく息を吐いた。


「リナさんがウサギになってたって聞いて、すごく心配したんですよ! 戻れなかったらどうしようって!」


「……心配かけちゃったね」


 レオくんが本気で心配してくれている様子に、心配をかけて申し訳なくなる。


「はい! でも戻れたようでよかった!」


「うん。ありがとう。もう大丈夫だから」


 そう言って笑うと、レオくんもようやく笑顔になった。


「昨日、無事に解呪できた。身体にも問題はないと確認している」


 アルベルト様が説明してくれる。


「そうなんですね。安心しました!」


「ほんとよかったよ。心配した」


 オスカーさんも嬉しそうに笑った。


「それにさ、もうリナちゃんの水着姿が見られない!って思った」


「水着?」


 アインス様が書類から顔を上げた。アルベルト様も手を止め、こちらを見る。


「水着で出かける予定があるのか?」


「はい。レオくんとオスカーさんと、3人で泳げる場所へ遊びに行こうと話していたんです。まだ日にちは決めていませんけど」


「……そうだったのか」


 アルベルト様は私から二人へ視線を移した。


「はい。俺たちで案内しようと思って」


 オスカーさんが笑顔で答えると、アインス様は少し眉を寄せた。


「それで、水着姿を楽しみにしていたわけですか」


「オスカーさん!!」


 レオくんが怒って声を上げた。


「ひどくないですか!! そんなこと言って!」


「冗談だよ。元に戻れて安心したから言ってる」


「それでも俺は嫌です!」


 レオくんが困った顔で私を見る。


「リナさん、すみません……オスカーさんが変なこと言って」


「ううん。レオくんは気にしなくていいよ。どうせそんなことだろうと思ってたし。どんな女の子の水着も見たいんだよ。きっと」


「……リナちゃん、ひどくない?」


「違うんですか?」


「いや、見たいけど」


(やっぱり)


 思わず笑ってしまった。


「オスカー」


 アインス様が呆れたように口を開いた。


「あなたはもう少し発言を慎みなさい」


「え? 正直に言っただけですけど」


「それが問題なんです。リナ、無理に付き合う必要はありませんよ。オスカーは女性に対して軽率なところがありますから」


「アインス様がそういうなら……」


「ちょっと待ってくださいよ! 副団長!」


 オスカーさんが慌てて割り込んできた。


「リナちゃん、泳げる場所には行ってみたいんでしょ?」


「はい……そうですね。気になります」


「だったら行こうよ。別に泳がなくてもいいんだし」


「泳がなくても?」


「うん。服を着たまま見て回るだけでも楽しいよ。食べ物を売ってる店もあるし、休憩できる場所もある。水着を持って行って、泳ぎたくなったら着替えればいいじゃん」


「あ、そういう楽しみ方もできるんですね」


「そうそう! 行ってみてから決めればいいんだよ」


(たしかにそうだな)


 泳ぐことしか考えていなかったけれど、見学だけでも楽しめるなら気軽に行けそうだ。


「じゃあやっぱり、行きたいです」


「うん、じゃあ、予定通り行こう!」


 オスカーさんが嬉しそうに笑った。


「……あなたは本当に、口がうまいですね」


 アインス様がため息をつく。


「あはは! 褒め言葉として受け取っておきます!」


「じゃあ、リナさん。次のお休みはいつですか?」


「私は普段通り、週末の二日は空いてるよ」


「リナ」


「はい?」


 声をかけてきたのは、アルベルト様だった。


「次の公休は私も休みが重なる。今週末は私との約束を優先してもらいたいんだが、いいだろうか?」


「……え?」


 思わず、アルベルト様を見る。


「以前、王都を案内すると約束しただろう」


「あ! はい!」


 今度は自分が王都を案内しようと言ってくれた。


 それに、以前、魔法劇場へ行く時も、アルベルト様は会議があって一緒に行けなかった。


(……せっかく休みが重なるんだよね)


 アルベルト様はお忙しいし、こうして休みが合うこともあまりない。


 でも、レオくんたちとの約束もある。


 週末は二日とも空いているけれど、両方の日に出かけるのは少し慌ただしいかもしれない。


(どうしようかな……)


「あの、アルベルト様。では今週末はご一緒してもいいですか?」


「もちろんだ」


 アルベルト様が嬉しそうに笑った。


「……団長もお誘いしてたんですね」


 レオくんが少し驚いたように言った。


「ああ。以前から約束していた」


「そうなんですか……」


 レオくんの表情が少し曇る。


「レオくん、オスカーさん。来週はどうかな? 忙しい?」


「えっ!」


「せっかくなら、遊びに行きたいし」


「……いいんですか?!」


「うん!」


 レオくんがぱっと顔を明るくした。


「俺、大丈夫です! 来週末は休みです!」


「俺も問題ないよ」


 オスカーさんが答える。


「じゃあ決まりだね!」


「やった!」


 思わず笑うと、レオくんも嬉しそうに笑った。


「リナさん、楽しみにしてます!」


「私も!」


「ところでリナちゃん、水着は持ってる?」


 オスカーさんが聞いてきた。


「いえ。こっちでは買ってないです」


「そっか。じゃあ俺が用意してあげようか?」


「オスカー」


 アインス様が静かに名前を呼んだ。


「あなた、どうせろくでもないデザインを選ぶつもりでしょう」


「……そんなことありません」


「当日リナが困ることになるなら、私が許しませんよ」


「大丈夫ですよ! ひどいなあ!」


 オスカーさんが笑う。


(……まあ、確かに)


 オスカーさんが選ぶ水着は、なんとなく露出が多そうな気がする。


 でも、せっかくなら泳いでみたいな。


 それなら自分で買いに行かないと。


 この世界の水着がどんなものなのかも、ちょっと気になる。


「リナ」


「はい?」


 今度はアインス様が私へ向き直った。


「いつ言おうか考えていましたが、回復魔法の練習もそろそろ始めましょうか」


「あ! そうでした!」


 以前、教えていただく約束をしていたのだ。


 お願いしたのに色々あって忘れていた。


「もう身体の状態も落ち着いていますし、来週から少しずつ始めてみましょう」


「本当ですか?! ありがとうございます!」


「最初は基本的なところからになりますが、あなたなら十分習得できる可能性がありますよ」


「頑張ります!」


 前に相談した時は、知識も必要だから簡単ではないと教えていただいた。


 それでも、アインス様に基礎から教わることができるのは心強い。


 回復魔法が使えるようになれば、誰かが怪我をした時にも役に立てるかもしれない。


「楽しみです!」


「ふふ。そうですね」


 アインス様が微笑んだ。


 それにしても。


 次のお休みはアルベルト様と王都を見て回って、その翌週はレオくんとオスカーさんと水場へ遊びに行く。


 来週からは、アインス様との魔法の練習も始まる。


(……なんだか、急に予定がいっぱいになったな)


 でも、どれも楽しみだ。


 ウサギの姿で過ごしていた時は、人間に戻れるのかどうかも分からなかった。


 こうして次の予定を考えられることが、なんだか嬉しい。


 そんなことを考えていると、隣から小さな声が聞こえた。


「なんか……大変な感じになってきたかも」


 レオくんが呟いた。


「俺は面白くなってきたけど」


 オスカーさんは、楽しそうに笑っていた。


「……どうしたんですか?」


「いや、こっちの話!」


 今週末はアルベルト様と王都へ。その次は、レオくんたちとプールへ。


 出かける時は何を着ていこう。水着を買いに行く時間も作らなくちゃ。


 約束の日を指折り数えるなんて、久しぶりだ。


 戻ってきた日常には、待ち遠しい休日までついてきた。


アルベルト、アインス、ともに阻止失敗。笑


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