第20話:素顔の気持ち
「こっちの準備はできたよ」
『おっけー。そしたらー、教会の前で入らず待っててくれる?』
「わかった。そっちに向かうね」
僕は理容室を出ると、一人都市の西にあるらしい教会を探すことにした。
考えてみると、シャインズ・ゲートを始めてから、一人でゲーム内にいる時間って全然なくて、神聖都市ゼクセイドの中の観光もまだ。
そのせいで土地勘が全然身についてないんだよね。えっと、地図に載ってるかな……うーん。ゲームで利用できる施設じゃないのかな。マーカーでそれっぽいのはなさそう。
ま、いっか。折角だし、のんびり景色でも見ながら向かおう。
僕は辺りをきょろきょろしながら、夜道を一人歩き出した。
流石は最初に降り立つ都市のひとつだけあって、この時間でもプレイヤーキャラがかなりいる。特に商業街はお店や競売所だけじゃなく、一般職のスキル向けのギルドも多い。
だからこその賑やかさは、本当に別世界に来た気持ちにさせる。
明かり代わりの炎の淡い光で、ほのかに赤く色づく白い建物も、夜という時間の中で凄い神秘的な雰囲気を感じるよね。
早朝なんかはどんな雰囲気になるんだろう……。
そうだ。今日はそんなに時間もないし、みんなに話してゼクセイドの観光でもさせてもらおうかな。うん。そうしよう。
そんな事を思いながら西の方に向かっていくうちに、また人気が少なくなる。
賑やかさも絵になるけど、個人的にはこうやって落ち着いて歩けるほうが世界に浸れていいんだよね。
えっと、教会……教会……ん? あれかな?
幾つかの路地を曲がった後。道の途中にあったのは、周囲の住宅とは異なる荘厳さを感じさせる、様々な装飾の刻まれた一回り大きな白い建物。入口に立っている石像は、確かこの世界を見守る二大神だったはず。
周囲に人は全然いない。さっき地図で見た時、近くにマーカーが一切なかったから、
「えっと、それっぽい建物の前に来たけど、二大神の像がある場所で合ってる?」
『ああ。こっちの準備はできてるから、入口から入ってくれ』
「うん。わかった」
僕は二体の像の間を抜けると、木の扉にインタラクトした。
自然と開く扉。奥に見えたのは教会らしい長椅子が並んだ部屋。一番奥には祭壇がありさっきの二大神の彫刻が立っている。
間にあるステンドグラスの模様も綺麗だし、すごく雰囲気がいい教会だと思う。
長椅子には誰もいない
そして四人は──多分、あれかな?
僕は祭壇の方を向いている四人の姿を見つけた。
といっても、すぐに彼女達とわかったわけじゃない。だって、見える後ろ姿は完全に、現実のシスターっぽかったんだから。
みんな揃って黒と白の修道服。
こうやって並ぶと、やっぱりひとつ身長が抜きん出ている喜世さんは向かって右端だってすぐわかる。
でも、残りの三人はみんな身長が似たり寄ったりだし、髪の毛もウィンプルに隠れていて見えないから、誰が誰かはちょっとわからない。
僕がゆっくりみんなの側に歩き始めると、静かな教会内にコツコツという足音が響く。
普段とは違う空気に、僕は意味もなく緊張してしまう。
未だに振り返ろうともしない四人。実はTOP4じゃなかった、なんてことがあったらどうしよう……。
「えっと、みんなだよね?」
一番前の長椅子くらいまで歩いた所で足を止めた僕は、思わずそう尋ねてしまう。
『も、もち! あーし達だよ。えっとー、優くんはそこにいてくれる?』
「う、うん」
どこか緊張した声の沙和さん。
な、なんでこんな雰囲気なんだろう?
『みんな。心の準備はいーい?』
『は、はい。なんとか』
『え、ええ。どんとこいですわ!』
『ああ。いつでもかかってこいってんだ』
……どんとこいとか、かかってこいとか。
僕、この後みんなに襲われでもするの?
『じゃ、じゃー、あーしの合図に合わせて振り返るかんね』
妙な意気込みを聞きそんな不安を覚えていると、沙和さんが覚悟を決めたような声を出す。
『いくよ? せーのっ』
声に合わせて、目の前の四人がくるりと振り返った。
向かって右から、喜世さん、沙和さん、瑠音さん、千麻さんの順に並んでるけど、喜世さん以外はやっぱり顔を見ないと誰かわからなかった。
そんな彼女達は、僕と目が合うと、各々に違うリアクションを見せた。
『やっぱ、ヤッベえな……』
喜世さんは片手で口を覆い、真っ赤になった顔を逸らす。
『ほんと。ちょーヤバいけどー、ちょーイケてるよねー』
ニヤニヤが止まらない沙和さんは、顔を真っ赤にしてるけど僕から目を逸らさない。
『嗚呼。神よ。不埒な私をお許しください』
急に両手を組み、神に祈りだしたのは瑠音さん。
『……素敵すぎます……』
千麻さんは俯き両手で顔を隠すと、そんなことを囁く。
この間のキャラメイク画面じゃみんなの声しかわからなかったけど、こうやって恥ずかしがったりガン見されると、僕の方もちょっと恥ずかしくなってくる。
た、ただ、多分この反応はこないだ同様、悪い反応じゃないはず……だよね?
きっと、教会に合わせて修道服を選んだ彼女達。
その格好を褒めたりすべきなのかもしれないんだけど、未だこの状況に戸惑いすぎて何も言えずにいると。
『……ったく。優汰。お前、なんで顔を隠してたんだよ』
呆れたように喜世さんがそう口にした。
「え? あ、あの、特に出す必要もないと思ってたし……」
『えーっ。もったいなーい。優くんが顔出ししてたら、絶対みんなにモテたじゃーん』
『そうね。これだけの美男子、女子が放っておかなかったに違いないわ』
沙和さんや瑠音さんが僕の顔を褒めてくれる。
もし僕が昔から顔を見せていたら、何か変わったのかな。
昔から顔を隠さずに過ごしてたら、あの時もひとりにならずに済んだのかな……。
……ううん。きっと変わらなかったよね。
結局、僕は僕なんだし……。
『優汰君……』
千麻さんの声にはっとして前を見ると、みんなはさっきまでとは一変し、少し不安そうな表情を見せる。
『あの……もしや、何か気に触りましたか? 昨日のように……』
『昨日?』
喜世さんが思わずそう問い返すけど、千麻さんは眼鏡の下の瞳を逸らさず、こっちをじっと見つめてくる。
バスの中での僕の反応に気づいてたってことだよね。
隠すのすら下手なんて。やっぱり僕は駄目な友達だ。
『優くん。何か嫌なことでもあったの?』
『話して楽になるなら話しなさい。私達は友達なのだから』
『ま、話したくなくないってなら、無理はするなよ。俺達だって困らせてえわけじゃねえし』
沙和さん達の言葉は、どこか優しさを感じる。
それに甘えていいんだろうか。
僕なんかの過去を聞かせていいんだろうか。
ずっと不安で、隠していたかった記憶。
だけど、きっと今の僕は、過去を思い出し引きずってる。
……きっと、いつかばれるなら。
ここで隠すより、みんなに知ってもらったほうがいいのかもしれない。
そのせいで距離を置かれたりするなら、きっと早いほうがいいし、そのほうが迷惑にならないもんね。
「ごめん。ちょっと、つまらない話をするね」
僕はみんなに小さく微笑むと、近くの長椅子に腰を下ろすと、未だ不安そうに見守っているみんなにこう切り出したんだ。
「実は、僕には友達がいないんだ」




