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第30話 静岡農協拡張職員④

 詰め所の東側にある八百屋の陰から出てきた田村の二脚付きのMG四軽機関銃と、北側のアパートの階段から撃ち降ろす長尾のアサルトライフルの十字砲火が始まった。


 ボックス型の弾倉に装填された七.六二ミリ弾が低いスタッカートを鳴らしながら発射され、合間に指切りして撃たれる五.五六ミリの銃声が重なる。


 三人、四人と盗賊が倒れていった。


 残りの盗賊たちは西側に三人、南側に二人逃げだした。


 農協のグループトークに長尾の声が入る。


「山城さん、そっちに二人です。シルバーのジャケットと茶色のパーカー」


 発砲音がして南側の一人が倒れた。


「了解。まず一人」


 民家の屋根の上に山城が片膝立ちで座り、構えたドラグノフの引き金を引いた。


 もう一人が倒れる。


「これで二人」


 襲撃地点の西側では、使われなくなった電信柱の上でムーが待ち構えていた。丸く膨らんだ変圧器に右足を載せ、左手で電線を掴んで身を傾けている。


 四十メートルほど先から走ってくる三人の盗賊のうち、手前を走っている者に狙いをつけてサブマシンガンのMP9を撃った。


 パララララ


 軽機関銃やアサルトライフルに比べると控えめな銃声が鳴り、先頭の盗賊が崩れた。


 二人の盗賊は足を止めた。異変を察知し、慌てて引き返そうと背を向けて走り出す。


 ムーは手を離して電柱からひらりと降りた。義足がショックを吸収すると、その勢いのまま二人に迫る。逃げる二人まで三十メートル、二十メートル、十メートル。自慢のククリナイフを構えた──。


『おい、何があった。敵は本当に死んだのか』


 三本腕・上条がスピーカーで呼びかける。


『報告しろ、誰か!』


「か、頭……」


 フードを被った男が片足を引きずりながら歩いてきた。かすれた声で状況を説明する。足だけでなく左手も負傷しているようだ。だらりと垂れている。


「や、やつら待ち伏せてやがった。ふ、二人、マシンガンで撃ってきて、みんなやられちまった」


「何、戦車もか」


「戦車、戦車は、ほら、あっちの方で」


 男が負傷した左手を無理やり動かし、上条の背後を指差す。


 上条はそちらを見ようと振り返った。


 瞬間、フードを被った男が肩から吊るしたアサルトライフル、SCARを構え、引き金を引いた。


 五.五六ミリ弾が上条の頭にいくつもの風穴を空ける、はずだった。


 上条が敵に扮した阿含の方を振り向くよりも早く、背中に接続された機械の腕が反応し、大きく開いた手を後頭部に当て、弾丸から上条を守った。


「嘘だろ」


 阿含はそう呟いたが、引き金を緩めず、連射したまま銃口を動かし、上条の胴を撃つ。三発の弾丸が発射された。


 そのうち一発は上条が腰に下げたマグナムに当たった。暴発こそ起こせなかったもののもう使い物にならないだろう。


 上条が肩越しに振り返る。鉄の腕が風を起こしながら阿含に迫り、アサルトライフルの銃身を掴んで、握りつぶした。


「貴様ァァあ!」


 上条は生身の右腕で、阿含の顔を殴りつけた。阿含はのけぞって後ろに倒れ、そのまま数メートル転がる。


「貴様が、敵かあ!」


 あの反射速度、あれが脳のクロックアップか。


「あんたのお仲間はみんな死んだよ。頭目としてすぐに後を追ってやんな」


 言いながら素早く立ち上がる。派手に吹き飛んだのは距離を取るため自ら跳んだからだ。ダメージはほとんどない。


 上条の太い右脚からは血が吹き出している。銃の連射を受けた背中の鉄腕は、見た限り動きが鈍っているが、油断はできない。


「これしきの傷では、我が大義はいささかの陰りも見せん。貴様を殺し、残りの農協共も皆殺しにしてやる」


 上条は腰に吊った日本刀を引き抜いた。両手でしっかりと握って正眼に構える。


「大義大義とつまんねえことを繰り返しやがって」


 阿含はマチェットを構えた。右足を後ろに引いて体を半身にし、傷ついた左手をぎこちなく曲げて、自分の首に回す。即死を避け、防御主体で戦うとの意思表示だ。


 一足一刀の間合いで二人は対峙した。


 阿含は小刻みに息を吐き、つま先でアスファルトの様子を探った。対峙する上条はどっしりと構え、意識的に呼吸を細く絞り阿含に息を読まれないようにする。


 銃ではなく刃物での切り合いという異常な状況が膠着を生んでいた。目線や重心の変更など細かなフェイントを入れるが、どちらも傷を追っている状況で、切りかかっていったほうが圧倒的に不利であり、両者は攻めあぐねる。


 上条が口を開く。


「貴様が俺の縄張りに入ってきたのだ……そちらから来るのが、道理ではないか」


 こんな状況だと言うのに阿含は口元がニヤけるのを感じる。まさか盗賊に道理を説かれるとはね。だが、まあ、確かに一理ある気がする……のか?


 不意に阿含が動いた。両足を広く開き、地面スレスレに身体を沈ませる。上条の怪我をした右足を狙う。だが二人の間には十分な距離がある。


「舐めるな」


 リーチに優れた上条の刀が素早く下段に振り下ろされ、阿含を唐竹割りにしようとした。


 しかし、刀は空を切った。


 瞬間、強い衝撃を受けて上条の視界が暗転する。


 なんだ、何が起こった。上条の脳内のクロックアップが発動する。目が見えなくなる直前、確かに見た。農協から来た殺し屋の下段払いは攻撃を誘うフェイント。上条の切りつけに合わせて怪我をしているはずの左手を伸ばすと地面に付き、左手一本で倒立したのだ。奴は奇想天外な動きで刀の攻撃を躱し、その態勢のままブーツを履いた右足のつま先で顔面を蹴りつけた。つまり──


 つまり敵はまだ、すぐ間近にいる。


「うおおおお!」


 叫び声を上げながら、刀を横一文字に振った。手応えがあった。

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