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パタスモンキーを知ってるか?

 ――シャロちゃん、大丈夫かな。


 あれだけ大見えを切って置いてきたというのに、既に俺はシャロちゃんを心配してしまっていた。

 だって、未だに夜は一人で眠れない子だよ? こう、父性といいますか、兄魂といいますか、上司としての宿命ともいえますか……まぁ、言葉なんてなんでもいいけど、とにかく心配なのである。


 え、人見知り幼馴染は心配じゃないのかって?


 知らん。あいつはメンタルは最弱かもしれんが、他のスペックがこの世の人間とは思えないくらい最強なのだ。そう簡単には死なないだろうし、そもそもジャイアンがうまいことやってくれてるだろう。

 あんな奴を尊敬できるなんて、ジャイアンはなんて寛容でおおらかな人なのだろうかと、俺は最初疑ってしまったくらいだ。

 まぁ、その寛容でおおらか(笑)に俺は追い出されたわけだけど。

 しかも、身ぐるみ全部はがされた状態でな!


 と、冗談もとい一人漫才はここまでとしよう。

 目の前には重厚な扉が一枚。派手な装飾をされているところを見る限り、絶対この奥にパタスがいる。

 というよりも、ぶっちゃけ魔法で気配を探るなんてことくらいできるのだ。俺だってこう見えて、やらせなし、縁故なしという状態で、ゴールド冒険者時代の「白磁の巨腕」入党試験に受かった男。戦闘能力はイマイチでも、その分いろんなことができる自信はあったりする。

 まぁ、ハナを機能させてさえいれば、誰も出番なんてなかったんだけどな!


 はぁ……ヤダヤダ。

 こうやってダンジョンを1人で歩いてると、まだ未練がましい考えが脳裏に過ぎる。

 俺って思ったより白磁の巨腕が好きだったのかな。

 

「――……よし」


 女々しい考えを払拭するためにも、俺は扉の前に大きく息を吸い込んだ。

 

「パタス―さーん、いませんかー? おーい、賠償金払いに来ましたよー? 出てこないと爆破させますよー?」


 そして3秒待つ。

 3秒以内に扉が開かなければ、本気で爆破させようと木の棒すら構えた。


 けれど、残念なことに扉は素直に開け放たれる。中には、まぁ予想通り、パタスが不適な笑みを浮かべ地面に座っていた。

 

「ウキキ、賠償金払いに来た奴が、なんで俺様の居住区ぶっ壊してんだ?」

「罠があったから? ですかね。おかげで風通しよくなったでしょ?」


 爆破して回った理由なんて聞かれても、それ以外に答えは無い。

 俺がこれまで通ってきた道を振り返れば、大型の魔物でも暴れたかと言わんばかりの惨状が、そこには転がっていた。


「ウキキ。随分と喧嘩腰になってるじゃねぇか。タカマガハラでいたときは、あんなに従順だったくせによ」


 そりゃ、そうだろう。と返したくなったが、とりあえず喉に押し留めておく。

 娼婦が人質状態だったあの時と、今を比べられても困るんだよな。

 まぁ、殴り合いで勝てる未来はどちらにしよ見えないんだけど。 


「で、本当は何の用だ」

「セキュリティとして教育しに来ました。貴方を」

「俺様を? オメーが?」


 挑発するような笑みを浮かべたパタスは、立ち上がり腕を大きく広げた。


「馬鹿も休み休みにしろよ。力の差は分かってんのか? ウキキ」

「喧嘩なんて始めてみなきゃ、分かんないでしょ」

「喧嘩だと?」


 心底、不思議そうに首を傾げられるが、俺は変なことを言ったつもりは微塵もない。

 これは喧嘩だ。教育という名の喧嘩。

 女を泣かすクズどもを、俺はムカついたからぶん殴りに来ただけなのだ。


「言ったでしょ。教育しに来たって。で、あなたはそれを拒否した。つまり、教育されたくない側と教育したい側。男が意見を分かれた場合、やることはひとつ」

「……やっぱテメーは頭がおかしいぜ。スイレンが気に入るわけだ」

「? 普通だと思うが」


 あっけらかんとした口調でそう返したからなのか、パタスは嘲笑の笑みを消して、真顔になる。

 そして背中に掛けてあった白蝋棍を抜いた。

 完全なる戦闘態勢――息を呑むような殺気が俺にぶつけられる。


「言っておくが、俺様は手加減なんてできんし、やらん。やるのは殺しあいだ。オメーが死ぬ前に降伏するなら、まぁ考えてやる」

「っ」


 瞬きした一瞬。その間隙と呼ぶにはあまりに小さすぎる刹那で、俺は距離を詰められる。


 目で追える、わけ――……!


 まさに思考を断絶させるかのような一撃だった。

 白楼棍を横一閃で振り抜かれ、俺はドラゴンに轢かれたかのような弾道ではじけ飛ぶ。

 

 流石にパワータイプか……素手だと少しばかり厳しいし、下手な魔法では照準が定まらない。

 全域爆破なんてしようものなら、俺まで巻き込まれるだろうし、となれば、分が悪いとしても、近接戦である程度縋りついていく他ない。田舎にいたときくらいだぞ、誰かと殴り合うなんて。


「しゃおらっ!!」

「ウキキ!」

 

 俺は自分に喝をいれ、肉薄し、蹴りをいれる。

 が、パタスはそれ以上の俊敏さで、俺の蹴たぐりなど呆気なく回避した。


「ノロいな、オメー」

「………………はっや」


 一瞬、残像が見えたレベルの速さだ。

 あれを魔法なしでやってるの? まじかよ。あれは流石に、人間が素の身体能力でどうにかできる領域じゃねーぞ。


 俺が驚いていると、パタスはまたもや数メートルも空いた距離を一息で詰め、俺を棍で弾き飛ばす。打撃の重さも洒落になっていない。あと数発も食らえば、ガードしているとはいえ、腕があがらなくなるぞっ。


「素直に諦めるなら今の内だぞ。オメーに勝ち目はねぇ」

「いやいやっ、まだ始まったばっかじゃないか……つれないねぇ、パタスさん」

「はっ、威勢だけは一丁前だぜ、オメー。だが、勝ち目なんざねぇんだよ、最初から。この階層まで降りてきた段階でな」

「っ?」


 俺から離れる際、実に三回もの殴打を加えてパタスは距離をとる。

 強者がヒット・アンド・アウェイ戦法なんざ取るんじゃねぇよ、と声高らかに叫びたい。

 だが、そんな抗弁よりも先に、パタスが放った言葉の真意を、俺は汲み取りかねていた。

  

「オメー、魔法が主力だろ。近接もそこそこだが、俺様の城を吹っ飛ばしていた魔法見ればわかる。あれの精度次第では、ワンチャンあったかもしれねぇなー、ウキキ」


 ワンチャンもなにも、あれが通じなきゃ詰みだ。

 今俺は必死に頭をフル回転させながら、どうやって攻撃を当てるかしか考えていない。 


「だが、残念なことにここは俺様が作った制定結界の中だ」

「――制定、結界?」

「ああ? スイレンは何も教えてねーのか……簡単に言うとだな、俺様以外はこの結界内で魔法を使えねぇってわけさ。タカマガハラと同じでな」


 ………………………?


 

 いや、使えますけど。

パタスモンキー……ぜひとも調べてね♡


ここまでお読みいただき、ありがとうございまする。

少しでも「面白いなー」「続きが読みたい!」と思っていただけたら、ブックマークや評価していただけると、拙僧が馬鹿になります。

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