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54.会話 焚き火の話

本日もこんばんは。

キャンプの定番、焚き火の話です。スモアを片手にお読みください。

「知っていますか、勇者さん。炎のゆらぎにはリラックス効果があるそうですよ」

「おかげでとても眠いです」

「夜ですからね。もうじき眠る時間です。勇者さんが夢の世界に行くまで、ちょっとお話しましょうか」

「私はすぐ寝ますよ」

「知っています。ゆらめく炎を見ながら眠ってください」

「炎を見ると思い出すものがあります」

「なんですか?」

「焼肉……お好み焼き……野菜炒め……焼きそば……海鮮も捨てがたい……」

「お腹すいたんですか」

「焼きマシュマロは人類の宝です」

「食べられる宝なんですね」

「死んだら宝は持っていけません。それなら一時のおいしさの方が有意義では?」

「勇者さんらしい考え方ですね。ですが、ぼくも同じです。遠い未来より、いまこの瞬間の方が大切です」

「意見の一致ですね。では」

「どこから取り出したんですか、それ……」

「深夜のおやつタイムといきましょう」

「夜遅くの甘いものは体に悪いですよ?」

「明日より今日です。今しがた、魔王さんも言ったことですよ」

「そ、そうですけど……。むう、わかりましたよ」

「マシュマロを受け取りましたね。これで共犯です」

「寝なくていいんですか?」

「焼きマシュマロを前にして眠るなど、私のすることではありません」

「睡眠欲より食欲が勝つんですね。あ、こんなものでしょうか?」

「完璧です。食べましょう」

「んま~~……。外はほどよくカリッと焦げ、中は熱々とろとろ……。焼くことでマシュマロの甘さが引き立つきがしますう……」

「魔王さん、これどうぞ」

「ビスケットですか。片面がチョコレートでコーティングされているものですね」

「チョコレートを内側にして、二枚のビスケットの間に焼いたマシュマロを挟むんですよ」

「それはあまりにも罪深い食べ物になるのでは⁉」

「一緒に罪を重ねましょう」

「悪役の囁きですよ、それ! うむむ……ぱく」

「どうです? 罪深い味でしょう」

「これは……これは……‼ 後戻りができないくらいの大罪の味‼ 焼きマシュマロの熱で溶けたチョコレートがとろとろのマシュマロと絡み合って奇跡のくちどけが実現しています! ビスケットのさくさくとマシュマロのとろとろが完璧なマリアージュ‼」

「魔王さんが全部言ってくれるので私はひたすら食べますね」

「ほわぁぁぁぁ……! 世界にはまだこんなにおいしいものがあったんですね……!」

「喜んでいただけたようで。まあ、一万年前にはビスケットもチョコレートもなかったでしょうからね」

「炎はありましたけどねぇ」

「その時から焚き火をしていたんですか」

「ぼーっと眺めることはありましたよ。ただ炎を眺めているだけの百年とか……、懐かしい話です」

「……あの、野暮なこと訊きますけど、薪の補充ってどうしていたんです」

「魔法でぽいっと。ぼーっとしていてもそれくらいはできますからね」

「……すごいですね」

「ああ~、あの時にこの素敵な食べ物を知っていたらなぁ……。三百年は楽しめたんですけどねぇ」

「それだけ楽しんでもらえたらマシュマロも本望でしょうね。ていうか、世界からマシュマロとビスケットの在庫がなくなりますよ」

「勇者さんじゃないんですから、そんなにたくさん食べませんよ~」

「では、この空っぽになった袋はなんと説明するのでしょうか」

「ぎくっ⁉ は、初めての出会いだったので大目に見てほしいな~なんて……」

「そんなにおいしかったんですか」

「最高でした」

「またやりましょう。さて、マシュマロもビスケットもなくなったので私は寝ます」

「飲み物を飲んでから寝てくださいね」

「わかっています。おやすみなさい、魔王さん」

「おやすみなさい、勇者さん。……あっ、待ってください、ひとつ訊きたいことが」

「なんですか?」

「勇者さんはどこであんなおいしいものを知ったんですか?」

「焚き火はよくしますからね」

「たしかによくしますけど、あの食べ物は今日が初めてですよ」

「…………」

「まさか、勇者さん……。いつもおひとりであれを……?」

「ああ~、焚き火は落ち着くなぁ。眠くなってきたなぁ」

「勇者さん、こっち見てください」

「すやあ……」

「寝るなーー‼」

お読みいただきありがとうございました。

焚き火大好きマン天目による布教活動でした。焚き火はいいぞ。


勇者「今にもとろけ落ちそうなマシュマロを魔王さんの顔の上に掲げようと思ったこともありました」

魔王「息をするように悲劇を生まないでください」

勇者「もったいないのでやめました。マシュマロがかわいそうですし」

魔王「ぼくのこともかわいそうだと思ってほしいです。心から」

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