52.会話 身長の話
本日もこんばんは。
身長は争いを生みます。
「ぐ……うぐぐぐぐ……。はあ……届かない」
「どうしました? おや、棚の扉が開きっぱなしですね」
「お皿を取ろうと思ったんですけど、絶妙に届きません。踏み台もなくて困りました」
「ぼくにお任せくださいませ。ふんぬっ! ぬぬぬぬぬ……、だあっ……はあ……、がくっ、無念です……」
「いやだって、魔王さんの身長、私と同じですよね?」
「違いますよう。ぼくの方がちょっと大きいです」
「その輪っかはカウント外ですよ」
「も、もちろんです。それでも、てんこちょを揃えてもぼくの方が上です」
「ええー……。誤差の範囲ですよ」
「よく見てください。わずかにぼくの方が大きいです。えへん」
「こういうのなんて言うか知ってますか」
「ヒラメの天日干しでしたっけ?」
「どんぐりの背比べです」
「ああ、それです。ですが、大きいものは大きいのです。勝ちは勝ちです」
「別に勝負をしているわけではありませんが」
「しかし困りましたねぇ。ぼくの身長をもってしてもお皿には届きません。こうなったら、アレを使うしかないようですね……!」
「アレとは。……って、冷蔵庫。まさか」
「そう、牛乳です! これを飲んで背を伸ばすのですよ」
「一朝一夕で伸びるものじゃないでしょうに」
「わかっていませんねぇ、勇者さん。ぼくは誰か、そう、魔王ですよ!」
「知ってますけど」
「魔王の力をもってして、牛乳の秘めたるぱぅわぁーで一瞬にして背を伸ばして御覧に入れましょう!」
「……。ああ、はい、ここで見ていますね。がんばってください」
「いきます、二リットル一気飲み! ごくごくごくごくごくごくごくごく‼」
「勢いがすごい。あ、すごい。ほんとに全部飲みましたね」
「うっ……」
「いま、『うっ』て言いました?」
「い、いえ。ど、どうですか、伸びましたか……?」
「うーん。いえ、変わっていませんね」
「二リットル飲んだのに?」
「まあ、当然といえば当然ですが」
「牛乳のぱぅわぁーでだめなら、もう打つ手がありません……」
「うなだれているところ申し訳ないのですが、今日は一段とおばかですね」
「純粋な暴言」
「ふざけているのかと思いましたよ」
「勇者さんに言われたらおしまいですね」
「魔王さんは魔王ですよね」
「純度百パーセントの魔王です」
「魔法、使えますよね」
「ハッ‼」
「おばかということでいいですね?」
「……認めましょう」
「もうひとつ。魔王さん、これは度々言っているような気がしますが」
「な、なんでしょう」
「お姿、自由に変えられるんですよね?」
「ハッ‼」
「おばかさん」
「で、ですがこれには理由があります」
「言い訳ですか。聞きましょう」
「……れちゃいまして」
「はい? すみません、よく聞こえませんでした」
「やり方、忘れちゃいまして。変化魔法の……。えへっ」
「…………」
「わあん! 勇者さんが氷点下も震える冷たい目をしていますう!」
「仮にも魔王なら、もうちょっと威厳をですね」
「だって、変える必要が見当たらなくて……」
「かなり便利な魔法でしょう。使い勝手は良さそうですが」
「勇者さんと同じ目線がいいんです」
「……やれやれ。お皿はもういいので、変化魔法のやり方を思い出しておいてください」
「ちなみに、お皿は何に使う予定だったんですか?」
「おやつの時間にしようかと思いまして。お暇なら魔王さんもご一緒にと思ったんですが……。お皿が取れないのならやめにするしかないですね」
「思い出しましたぁ、変化魔法! 思い出しましたよ勇者さん!」
「そうですか。では、お皿を取ったら私より身長を低く変化してくださいね」
「わかりま――、んん……? もしや、ぼくの方が身長高いの、気にしてました?」
「…………魔王さん、おやつ抜き」
「八つ当たりっ⁉」
お読みいただきありがとうございました。
魔王さんはアホ毛の長さだけ身長が高いです。
魔王「牛乳ぱぅわぁーってこんなに効かないんですか……」
勇者「ツッコミどころが多すぎる」
魔王「骨でもしゃぶってみましょうか」
勇者「あー、そうですね。気持ち悪いです」
魔王「や、やめます……」




