370.宮殿でもまずはお約束
本日1話更新です。
はい、宮殿に到着してしまいました。
ええもう、公爵さまがご一緒だからか、ほぼ顔パス状態で宮殿奥のなんかすごくプライベートっぽいエリアに突入しております。
ここってたぶん、王家のみなさまが個人的に面会なんぞされる客間だよね?
一応壁際には、近衛騎士が何人も並んでらっしゃるけど、どう見ても謁見室じゃない。フツーにテーブルをはさんでソファーが置いてあるし。でも、かと言って公式にお客さまをお迎えするような雰囲気の部屋でもない。
そんなお部屋に、私は公爵さまと一緒に案内されたんだけど。
入室するなり、公爵さまがコホンと咳ばらいをして私に言ってきた。
「ゲルトルード嬢、手土産があるのならここで侍従に渡すとよい」
あー、はい、まあ、そういうこと、ですよねー?
緊急呼び出しであろうが、時を止める収納魔道具を手にした私が大量のおやつを持ち歩いていないワケがないと、公爵さまも当然のこととして思ってらっしゃるんですよね。
私はちょっと引きつった笑顔で公爵さまに訊いちゃった。
「陛下と王妃殿下に召し上がっていただくのでしたら、何をお渡しすればいいでしょうか?」
「うむ、本日は何を持参しているのだ?」
「いろいろとございます」
公爵さまは横目で私を見て、それからまた咳ばらいなんかしてくれちゃう。
「そうだな、先日私があの照り焼きのハンバーガーについて陛下にお話ししたところ、たいへん興味を持たれたごようすであった」
はい、照り焼きのハンバーガーですね? もちろん持ってますとも。
うなずいた私に、公爵さまはさらに言ってくる。
「王妃殿下はキャラメルにご興味をお持ちのごようすだった」
「かしこまりました」
てか公爵さまってば、陛下と王妃殿下におやつの話しかしてないんですかね?
私は顔に笑みを貼り付けたまま、スヴェイに指示した。
「それでは照り焼きのハンバーガーとキャラメル、それに林檎の薔薇パイも手土産としてお渡ししてちょうだい」
「承知いたしました、ゲルトルードお嬢さま」
スヴェイが我が家の時を止める収納魔道具を出してくる。
いやもう、スヴェイがいてくれて本当によかった。ナリッサなんかもう本気でガチガチになってるもん。冗談抜きで右手と右足が一緒に出てるよ。そりゃそうだよね、いきなり宮殿で国王陛下と王妃殿下に面会だもんね。
その点スヴェイは慣れてる。この部屋にいる王家の侍従さんも侍女さんも、当然顔見知りのようだし。
「ゲルトルード嬢、林檎の薔薇パイとは?」
公爵さまが目ざとく、いや耳ざとく訊いてきた。
「ふつうの林檎のパイなのですが、見た目を少しくふうしてあるのです」
なんて、私たちが小声で話している間に、スヴェイがさくさくと大量のおやつを収納魔道具から出している。
ええもう、在庫をぜんぶ出しちゃっていいよ、スヴェイ。
陛下と王妃殿下だけじゃなく、王太子殿下や王女殿下、王子殿下のぶんも必要だろうから。
特にキャラメルは、マルゴが大量に作ってくれてたことだし、このさいだから宮殿内で配りまくってもらっちゃいましょう。
「国王陛下、ならびに王妃殿下、ご入室されます」
その声に私は、正直にびくっと体を揺らしちゃった。
公爵さまがさっとその場に膝を突かれたので、私も慌てていちばん深いカーテシーをする。
「待たせたな」
うわ、わかっていたとはいえやっぱり、学院講堂に掲げてある肖像画とおんなじ顔のおかたが目の前に来られると、ビビらずにいられないわ。
「堅苦しいことは抜きだ、ヴォルフ」
続いて、すでに私も面会済みの王妃殿下がご入室。
「そうだな、本日は我らの弟とその被後見人を招いたのだから、身内の集まりだ」
なんて、国王陛下も鷹揚におっしゃってくださっているんですがね。
「ありがとうございます。では、楽にさせていただきます」
公爵さまがそう言って立ち上がる。
そして、さくっと私を紹介してくれちゃう。
「ギュスト義兄上、私が後見をしておりますゲルトルード嬢を紹介いたします」
私は公爵さまに促され、カーテシーをより深くしてご挨拶した。
「国王陛下におかれましてはご機嫌麗しく、本日こうしてお目にかかれましたこと、たいへん光栄に存じます。わたくしはクルゼライヒ伯爵家長女ゲルトルード・オルデベルグにございます。どうぞお見知りおきくださいませ」
「うむ、我が国王ヴェルギュスト・エシュテルヴァルドだ。ゲルトルードよ、其方の話はいろいろと耳にしている」
って陛下、いったいどんなお話を……私についてのお話を耳にしてくださってるんですかね?
やっぱりちょっと冷や汗をかいちゃってる私に、陛下はやっぱり鷹揚に声をかけてくださる。
「楽にするとよい」
「ありがとう存じます」
ということで、私は公爵さまと一緒にソファーに腰を下ろさせてもらった。
でもって、対面に陛下と王妃殿下が並んで腰を下ろしておられるんですよね。
そのお2人の後ろには、リケ先生のお姉さまのトルデリーゼさまと、それに男性がお1人控えておられる。
あ、トルデリーゼお姉さま、目が合ったらにっこりしてくださった。
それに男性のほうもにっこりと……このかたがおそらくファビー先生のお兄さまだよね。
「ゲルトルードよ、久しいな。息災であったか?」
「はい、ありがとうございます、王妃殿下」
なんか王妃殿下が私を見る目つきがこう、おもしろがっていらっしゃるような……それに陛下もやっぱりこう『おもしろいのが来たぞ』みたいな感じの目つきでいらっしゃるんですが。
「ギュスト義兄上、ベル姉上、ゲルトルード嬢が手土産を持ってきてくれています。まずそちらを召し上がっていただければと」
公爵さまの言葉に、陛下も王妃殿下も満足そうにうなずかれちゃう。
「うむ、それはぜひ味わわせてもらわねば」
「ゲルトルードよ、本日は何を手土産にしてくれたのだろうか?」
侍従さんが確認を済ませた鶏の照り焼きのハンバーガーが、速やかに配られていきます。
しかもお茶は、ちゃんとウーロン茶というかトゥーラン茶が提供されている。スヴェイが茶葉を出してくれたらしい。
続いて、林檎の薔薇パイと蜜蝋布に包まれたキャラメル3個が盛られたお皿も配られちゃう。
「これは……なるほど、確かに見た目をくふうしてあるな。なんとも華やかなパイだ」
公爵さまってば、林檎の薔薇パイのかわいらしさにオトメ心を刺激されちゃったのか、眉間のしわもちょっと開いちゃってますね?
私はその公爵さまに促され、今日のおやつの説明をする。
そして私は、王家の侍女さんが私の前に並べてくれた照り焼きのハンバーガーをまず口にして、公爵さまも林檎の薔薇パイを一口。公爵さま、キャラメルも1個口に入れちゃったよ。
「ギュスト義兄上、ベル姉上、どうぞ召し上がってください」
いや、いいんだけどさ、後見人である公爵さまは私の家族同等だから。
もちろん陛下も王妃殿下も、澄ました顔ながらとっても美味しそうに召し上がってくださってますよ。
「なるほど、淡白な味わいの鶏肉もこのような味付けだとなかなかいけるな」
「それにこのトゥーラン茶が、またよく合うではないか」
「林檎のパイをこのような形に焼き上げるというのは、実におもしろいな」
「見た目も華やかで、特に女性の茶会では喜ばれるであろう」
そんでもって、キャラメルがまた大好評ですわ。
「これはなんとも……口の中で溶かして食べるのか。うむ、こってりとした甘みがよいな」
「陛下、この大きさであれば、執務の合間にさっと口にいれることも可能ではありませんか?」
「王妃よ、それは実にすばらしい考えだ」
国王陛下のお顔がゆるんでる。「なるほど、茶を淹れて休憩するほどでなくとも、この『きゃらめる』をさっと口に1個入れれば、よい気分転換になる」
「ゲルトルード嬢も、そのような食べ方を考慮してこのキャラメルを発案したと言っています」
公爵さまがどや顔で説明しちゃう。
私も促されて笑顔でお答えしますわ。
「はい、勉強や仕事の合間にちょっと甘いものが欲しくなったとき、すぐ口にできるようなおやつがほしいと思ったのです」
「このように布で1個ずつ包んで……この布は、状態保存の魔力付与がしてあるのだろうか?」
「いえ、この布は魔力付与はしておりません。もちろん、状態保存の魔力付与がしてある布に包んでおけば、長期間持ち歩くことも可能です」
「行軍中の兵に配っておき、行軍しながら口に入れることも可能です」
公爵さまがまたもやどや顔で説明してくれる。
「ふむ、この『きゃらめる』も、国軍でレシピの購入を検討せねばならぬな」
はー、おやつのおかげで、イイ感じのお茶会になっております。
なんて言うかもう、おやつは我が身を救ってくれちゃうわ。
でも、私の持ってきたおやつを食べるだけが目的じゃないよね? いや、それだけが目的でも私はもういいんだけど……たぶんこの後、なんか込み入った話があるんだろうな……。
笑顔で受け答えしながらも、私はやっぱり自分の顔がちょっと引きつってるのを感じてる。
その私に、公爵さまが小声で訊いてくる。
「ゲルトルード嬢、手土産は、その、多めに渡してもらえただろうか?」
私はちらっとスヴェイに視線を送った。
スヴェイは笑顔でうなずいてくれたので、私も笑顔でお答えしちゃう。
「はい、王家のみなさまにも召し上がっていただけるよう、多めにお渡ししてございます」
ええもう、私はあの栗拾いお茶会でたっぷり学びましたので。突発的にお土産が発生してもいいように、とにかく多めに! おやつはできる限り多めに持っておく!
ホンットにマルゴ、ありがとう!
「それは、デマールもレイアも、タリークも大喜びであるな」
「うむ、ゲルトルードよ、感謝する」
「とんでもないことでございます」
聞き耳を立てておられた陛下と王妃殿下が言ってこられ、私はやっぱり笑顔でお答えする。
うん、でもその、デマールこと王太子殿下がね?
王妃殿下……それに陛下は、テアちゃんのことをどうお考えなんだろう? 本当に冗談抜きで王太子妃候補だとお考えだったりする?
って、私のほうから問いかけるわけにもいかないし。
「いや、実に美味であった」
「まったくだ、ゲルトルードの料理は本当にどれもすばらしい」
陛下と王妃殿下がそうおっしゃられ、それを合図にカップやお皿がすすっと下げられていく。
「ありがとうございます。お口に合ったようで、ようございました」
答えた私の前からも食器が下げられていき、これは来るな、と。
いよいよ本題が来るなと、私は笑顔のまま身構えちゃった。
そんな私を、やっぱりどこかおもしろがっているような目でながめている国王陛下が、ついに言い出してこられた。
「それでゲルトルードよ、其方は自身で伯爵位を名乗ることを目指すと、ヴォルフから聞き及んでいるのだが」
うわー、いきなりソレですか!
いや、ソレに関してはもう必ず、陛下と直接お話しさせていただく必要があるだろうと、私も覚悟してましたよ。でも、もうちょっと先というか、もうちょっと私自身の味方を増やして、説得できる要素を増やしてから、プレゼンさせていただこうと……いきなりソレは、心の準備ってもんがですね!
と、笑顔で固まっちゃった私に、陛下は続けて意外なことを言ってこられた。
「では其方は、魔力というものをどのように考えているのだろうか?」
へっ?
えっと、あの、魔力……で、ございますか?
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