369.事態急転?
本日1話更新です。
とっても楽しそうに練習問題を解いているオードウェル先生に、テアちゃんもまた楽しそうに応じている。
テアちゃんって、本当に人に教えることが上手だ。
私も授業でわからなかったところとか教えてもらってるんだけど、テアちゃんの説明は本当にわかりやすい。
人に何かを教えるって、実はものすごく高等な技術なんだよね。
まず自分がその内容を完全に理解してなきゃいけないし、自分が理解したことを言語化して、その上で相手が理解できる言葉を選んで説明しなきゃいけないんだから。
こんなこと、本当に賢くなければできないよ。テアちゃんは、本当に賢いんだ。
だから……ものすごく正直に言っちゃうと、私としてはテアちゃんが王太子妃に……ひいては王妃になってくれたら、めちゃくちゃ嬉しい。
だって、私はこれから我が国の在り方を変えていこうって考えてるんだよ。それで、国のトップにこの賢くて正直で誠実な勇者テアちゃんが立っていてくれたら、どれほど心強いことか。
でもねえ、ホンットにコレばっかりはねえ……テアちゃん本人の気持ち次第だから。
もしもテアちゃん本人がどうしてもイヤだっていうのに、王太子殿下が暴走して無理強いしてくるようなことがあれば、私は全力でテアちゃんを守る。
私はね、もう王家に脅しをかけるくらいのことはできるの。王家には私のレシピはいっさいお売りしません、王家直営の迎賓館でも私のお料理の提供はできなくなりますね、ってにっこり笑って言えばいいんだから。
王家との契約がご破算になれば商会的には痛手だけど、王家にしてみれば話題の料理を迎賓館で提供できないとなると痛手どころじゃないはず。十分な脅しになって、王太子殿下の暴走を王妃殿下が止めてくださる、はず。
それでもまあ……いまんとこ王太子殿下はその辺、学習したっぽいわ。
王太子殿下は、その気になればいくらでも『命令』できる。たとえ『お願い』の形をとっていたとしても、私たち下々の者には断ることなんてできない。
ええ、だから私はハンバーガーをお届けしたのよ。個数は、絞らせてもらったけどね。
ホンットにアレはひどかった。初対面の私にいきなりハンバーガーをおねだりしてきたんだよ、王太子殿下ってば。
でもそのときに、きっちり王妃殿下が王太子殿下に教育的指導をしてくださったんだと思う。公爵さまもそのように言われてたもんね。
おかげで今回は王太子殿下も、一方的にテアちゃんを呼びつけるような真似は、さすがにしてこなかったんだと思うのよ。
だいたい、そんな一方的で自分勝手な真似をしてくるような相手に、このテアちゃんがなびくわけがないじゃないの。それどころか、好感度は地の底まで大暴落して蛇蝎のごとく嫌われちゃうの確実だもん。もう間違いなく、テアちゃんは一生口をきいてくれなくなると思うわ。
王太子殿下も、それくらいはわかってるっぽいよね。
だからまあ、自分のほうからなんとか働きかけようとしてる王太子殿下の今回の態度は、私はそれなりに評価はしてるの。
ただ、巻き込まれた私たち算術選抜クラスのメンバーもファーレンドルフ先生も、ホンットにいい迷惑ではあるよねえ。王太子殿下がそこに居るってだけで、どうしても気を遣わないわけにはいかないじゃない。
とりあえず、あの無礼極まりない塩令息は王太子殿下の側近から外されちゃうようだし、もう1人の側近であるアロイジウスさまは悪い人じゃなさそうだっていうのは救いだけど。はあ……。
などなど、私が考えちゃってる間に、授業時間が終わってしまった。
うん、まあ、これからのことを思うとホンットに頭が痛いけど、それでもこの時間に関しては、オードウェル先生はとっても楽しそうだったし、テアちゃんも楽しそうだったからヨシとしよう。
「ゲルトルード嬢、貴女が考案したというこの計算の表もこの計算方法も、本当にすばらしいわ」
「ありがとうございます、オードウェル先生」
オードウェル先生が笑顔で言ってくださる。
「それにドロテア嬢も、すでに完璧にこの表を覚えて、この計算方法も理解できているのね。それもまた本当にすばらしいわ」
「ありがとうございます」
テアちゃんもにこにこだ。
そんでもって、オードウェル先生はちょっとだけ悪い顔で笑ってくれちゃうんだ。
「今日ここで、貴女たちに教えてもらえて本当によかったわ。ほかの先生がたに、たっぷり自慢させてもらうわね。ふふふふ、今夜の教職員談話室が楽しみよ」
なかなかお茶目でいらっしゃるようです、オードウェル先生。
私はテアちゃんと顔を見合わせて、ちょっと笑っちゃった。
それからオードウェル先生は、その表情を改めて言い出された。
「本当に、わたくしももうひと踏ん張りしなければいけないわね。貴女たちのようなすばらしい女子生徒の未来が、いまよりずっと明るいものになるように」
オードウェル先生は、私とテアちゃんの肩をぽんぽんとたたいてくださる。
「何か困ったことがあれば、何でもわたくしに相談してちょうだい。わたくしは全力で、貴女たちを支えますからね」
「ありがとうございます、オードウェル先生!」
私とテアちゃんの声がきれいにそろっちゃった。
オードウェル先生が退出され、私とテアちゃんはガン君と合流した。
「放課後は図書館で一緒に勉強したいけど……当面は控えたほうがよさそうだよね」
ガン君がそう言ってきて、テアちゃんも顔をしかめながらもうなずいた。
「そうね……とっても残念だけど、しばらくようすを見たほうがよさそうよね」
「ただ、テアはこのまま女子寮へ戻るより、夕食までは俺と一緒に図書館の談話室にいたほうがいいと思うんだ」
ガン君もまた顔をしかめて言う。「とりあえずテアが1人きりになる時間は、できるだけ短くしたほうがいいと思う」
そうだよね……テアちゃんの身の安全を思うと、私もそのほうがいいと思う。
と、思いつつ、でも私は一緒にいられないのよね……私は家に帰ったほうが安全なんだもんね、とやっぱりしょんぼりしちゃう。
でもまあ、こんなに早く帰宅できるっていうのは貴重だよね。
この時間にお家に帰れば、リーナといっぱいお話しできる。久しぶりにお母さまとリーナと3人で晩ごはんを食べることができる。それはそれでとっても嬉しいことだもの。
いや、そもそも女子高生がこんなに毎日毎日、夜遅くに帰宅してるほうがおかしいんだってば。
私は気持ちを切り替えて、テアちゃんとガン君に言った。
「本当に残念だけど、わたくしは当面図書館勉強会には参加せず、帰宅したほうがいいわよね。テアも、それにガン君も十分に気をつけてね」
「ええ、ありがとう。本当に残念だけど仕方ないわよね」
「ルーディ嬢も気をつけて。登下校にはスヴェイさんが一緒だから、安心だと思うけど」
そう話しながら、私たちは教室を出た。
そして、講義棟の玄関を出たとたん、ナゼかそこにはスヴェイとナリッサがいた。
「ゲルトルードお嬢さま、エクシュタイン公爵さまからご連絡がありました。本日、公爵さまには急ぎのご用件がおありだとかで、すでに学院までお迎えに来られています」
はい?
私はスヴェイの言葉にきょとんとしちゃったんだけど、なんかホントに急ぎらしくてスヴェイに急かされちゃった。
「ドロテアさま、ドラガンさまには申し訳ございませんが、ゲルトルードお嬢さまはこのまま学院正面玄関へ向かわれます。本日もありがとうございました」
テアちゃんとガン君もきょとんとしてる。
「いえ、とんでもないことです。えっと、じゃあルーディ、また明日ね」
「あ、うん、また明日、ルーディ嬢」
私もワケがわかんないまま、それでも2人にまた明日ねって言うと、スヴェイとナリッサが私の前後にすちゃっと並んじゃう。
そして私はそのまんま、ホントに学院正面玄関までほぼ連行されちゃった状態だったんだけど、正面玄関にはホントにホントに公爵家の紋章入り馬車がすでに停まってた。
「急がせてすまない、ゲルトルード嬢」
ええっと、マジで公爵さまが馬車に乗ってらっしゃいます。
私はスヴェイに急かされてその公爵さまとアーティバルトさんが乗ってる馬車に乗り込み、続けてナリッサも乗り込んでくる。
スヴェイが馬車の扉を閉めたとたん、ゲオルグさんが馬車を出した。スヴェイは、走り始めた馬車の後ろの立ち台に素早く飛び乗った。
ええええっと、ホントになんなんだろう、この急ぎっぷりって?
うーん、昨日の乗馬の授業中の蜂事件はもう一応、片が付いてるんだよね?
あの3バカ3年生はそろって伯爵家なんだから、はるかに身分が高い公爵さまに何か言ってくるとか、そういうことはあり得ないと思うし……あっ、テアちゃんガン君の子爵家になんかいちゃもんつけてきたとか? それで公爵さまが動いてくださってるとか?
と、私が思っていると、公爵さまがとんでもないことを言ってきた。
「急なことで本当にすまない。だが、陛下のお時間をいただけるのが、今日しかなかったのでな」
は?
え、あ、あの……陛下?
いま、陛下のお時間って、公爵さま、言いました?
意味がわからなくてぽかーんとしちゃった私に、公爵さまはさらに淡々と言ってくる。
「以前から、陛下はできるだけ早くきみと面会したいと言われていたのだが……今回このように急なことではあるが、席を設けてくださった。王妃殿下もご同席くださるとのことだ」
いや、あの……ちょ、ちょま、ちょっと待って!
陛下が私と面会?
王妃殿下もご同席?
あの、本気で意味がわからないんですけど?
サーッと私の体から血の気が引いて、すぐにダーッと冷や汗が噴き出しちゃった。
だって、ご面会……あの、陛下にご面会させていただいて、いったいどんなお話を?
てか、陛下が私に何か用があって……言いたいことがお有りになって、だから私をこうして呼びつけられた……って、ことだよね?
ど、どうしよう、思い当たるフシが、ちょっとイロイロありすぎる。
いや、ついさっきまで、場合によっては王家だって脅しちゃうからねとか、私も思って……思っちゃってて……たいへん申し訳ございませんでした!
ダメだ、やっぱり私は中身が小市民だから!
えええええええ、ホントにどうすればいいの?
ダラダラと冷や汗を流す私を乗せた馬車は、本当にまっすぐ宮殿へと向かっていっちゃってるんですけどー!
短編集の発売日が5月1日に決定しました!ヽ( ´ ∇ ` )ノ
活動報告に詳しい情報をUPしてます!





