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4ー2 茶番の後の真実

エピローグ。

 少し時は遡ってエレスたちが『君待つ旋風』と戦っている頃。

 ジーンとメイルはシルフィたちと最終確認をしていた。


「カナンに行くのは決定事項だ。その辺りはなんとか言い包めよう。プルートの言葉が残ってるとなれば俺も気になる」


「ええ、そうしていただきたい」


「それで、お前たちは俺から奪った薬を『パンドラ』に渡すんだろう?受け渡し場所はどこだ?もう渡した後か?」


「これからです。カナンの近くの村、セルゲーゼにて渡す予定です」


 シルフィに言われた言葉で即座に地図を思い浮かべるジーン。

 カナンからは目と鼻の先、ロウストン峠からはそこそこある小さな村だ。大陸東部にしては土壌が整っていて、回復薬などに使う薬草が群生している地域でもある。それが特産物で、首都にも送られるほど有名な薬草を村の至る所で栽培している村だ。


 神術士がいるので需要は少ないかと言われたら、そんなことはない。薬草や回復薬でしか回復ができない魔導士からすれば生死を左右する物で、騎士団もアスナーシャ教会と折が悪いので回復薬などに頼ることは多い。

 神術士が間に合わない場面もあるので、回復薬の需要はそこそこにある。神術だけで全ての傷の治療ができるわけでもないし、教会を嫌っている人間だっている。


 だから薬草を育てている街や村は意外と多い。セルゲーゼもそんな村の一つだ。

 かの村の薬草は特に効能が高かったので人気だ。


「随分と変な場所に『パンドラ』も拠点を作ったもんだ。見付かりにくい東部だとは予想できても、東の果てじゃねえか」


「ああ、いえ。そこに彼らの拠点があるわけではないようです。幹部の一人がそこに住んでいるようで」


「ん……?もしかして拠点は別?研究施設がそこにあるだけか?」


「警戒されているのか、我々も本拠地は知りません。『パンドラ』自身は小さな組織ですし、下部組織はいくらでも世界に点在しているでしょうから」


 『君待つ旋風』としても扱いは雇われ。情報提供などはされても、全てのことについて信頼されているわけではなかった。

 だから『パンドラ』のことについてはそこまで詳しくなかったりする。


「まあいい。それで誰が幹部なんだ?会えば俺やメイルも思い出すだろうが……」


「村唯一の医者と言いますか。神術士の女性です。教会には所属していませんね」


 シルフィの言葉で、ジーンとメイルには心当たりがあるのか二人とも口を抑えていた。二人とも情報共有をしていたので当時の神術士ならほとんどリストアップできていた。そして何気ない会話なども思い出してセルゲーゼ出身だったと語る女性の姿も思い出していた。

 メイルとエレスの母以外に、モードレアと仲の良くジーンたちもお世話になった女性だ。


「……彼女か」


「心当たりがあったのですか?」


「はい……。アース・ゼロに一縷の望みを賭けていた方でした。確か魔導士の恋人が、いたはずです」


「『パンドラ』として活動を続ける信念も、彼女ならあるだろう。それにしても、俺はどれだけ間抜けだ……。彼女に会っておいて、気付かなかったなんて」


 ジーンはそれこそ、世界を一周してメイルとエレスのような家族を探していた。セルゲーゼにももちろん立ち寄ったことはあるし、そこで彼女に会っている。

 普通に会話もしていた。なのに、モードレアに会った時のように彼女のことを思い出せなかった。

 その時はまだアース・ゼロから四年ほどしか経っていなかったというのに。


「え、でもそれっておかしくありませんか?兄さんを見たらあの人も気が付きそうですけど……」


「そうなんだよな。俺が思い出せなかったのは当時興味がなかったとして。彼女の方は気が付いていないとおかしい。……懸念事項が増えたぞ。クソ」


「……会ってみないとわかりませんね」


「だな。メイル、彼女に会う時は最大限の警戒を。エレスのこと、任せる」


「わかりました」


 考えても仕方がないので後回し。彼女が手を出さなかったのは『パンドラ』として本格的に表舞台に出る前の準備をしていたからだろうと考えることにした。

 それでもモードレアやタイガーマスクがジーンを確保しようとしたことにはやはり矛盾が発生するが。


「シルフィ。彼女には俺たちのことを伝えるな。この場所で、俺たちは対峙しなかった。そう報告しろ」


「仰せのままに」


「『君待つ旋風』側はそれでいいとして。俺たちはここでエレスティでも起こしてメイルを奪還してきたってことにすればいいか。プルートとアスナーシャを呼び出す儀式でもやってたってことにして」


「かしこまりました。そういった悪逆を為したと、徹底させましょう」


 それからもいくつか詰めていくジーンとシルフィ。連絡方法などを決め合って、有事の際にはどう動いていくかを話し合う。

 これ以上は時間の都合で無理だった。


「メイル。全員を騙すために怪我を負ってもらうが、いいか?」


「はい。わたしは兄さんの共犯者ですから。それにエレスを守るためならこれくらい平気ですよ。わたしにできることは彼女の身代わりになるくらいですから」


「それ以外にも、お前はいつだって俺の助けになってくれてるよ」


「良かった。兄さん、抱きしめながらエレスティを起こしてくれますか?」


 メイルのわがままを聞いて、まずは外法を用いて抱きしめる。それからあくまでも火傷ができる程度に魔導を起こしてメイルの両腕と身体の表面を焼いていく。


「あっ……ああっ!」


「ごめん、メイル」


「いいんです……。これが世界の常識なんですから……。兄さんの傷、わたしにも背負わせてください」


 二人で付けた傷。

 アスナーシャにも隠した、二人の秘密。

 悪い子供たちの、反抗の証として二人の両腕には痕になるような痛々しいもの。

 これはジーンとメイルの誓い。

 大切なひとを守るための、最低な嘘。



「グレンデル。体調はいかがですか?」


「ああ、大丈夫だ。もう動いていいだろう?」


「良いですよ?モードレアさんと他の場所でやるべきことをしてください。通信機を使えばやってもらいたいことが溜まっていると思うので。ああ、他の場所というよりも、近場の問題点を解決するのが優先でしょうか?」


「……例の工場か?とうとう潰すのか」


「『パンドラ』の名前を広めるにはちょうど良いですし。他にもある工場へ同時に襲撃すれば国の基盤も崩せそうです。ちょっと待ってください」


 セルゲーゼのとある家で。『パンドラ』の幹部たる二人は診察ついでに次の作戦について詰めていた。モードレアもこの村にいるのだが、他の場所に泊まっている。

 彼女は資料を探すついでに貰ったバームクーヘンを切り分けて、紅茶を淹れてグレンデルの前に置く。その後目的の資料を見付けて、うーんと頭を捻る。


「どうしましょうか?すぐそこの工場にはグレンデルに行ってもらうとして。もう一つ近い場所にはモードレアさんに行ってもらいましょうか。東部は危険も多いので協力者が少ないのが問題ですね」


「お前が潰せば良いじゃないか」


(わたくし)は後方支援ですから。前へ行って切った張ったなんてとてもとても」


「その価値観の相違はなんだ?俺たちの中で最強の女のくせに」


「最強は流石にリーダーだと思いますよ?」


「ああ、そうだったな。最悪の女だった」


「そうですね……。それは納得です」


 グレンデルの言葉の訂正に、頷いてしまう彼女。グレンデルとしてはリーダーは男だったので最強の女と言ったのだが、最強とは認められなかったらしいので能力をそのままに称した。


「まあ、モードレアさんに行ってもらうことに変更はありません。私はここで『君待つ旋風』の皆さんを待たなければなりませんから」


「ああ、奴らをここへ来させるのだったか。確かに受け取り人はいないとまずい。モードレアや俺は不適か」


「モードレアさんの顔の傷も、あなたの虎仮面も目立ちますから」


「この顔が嫌いなんだから仕方がないだろう。……もう寝る」


「ええ、おやすみなさい」


 彼女はグレンデルを家兼診療所に置いて外に出る。しっかりとバームクーヘンと紅茶をいただいた後に。

 月も出ている夜中に、彼女は慣れた村の中を歩く。

 大陸の最果て。そこは月も星空も綺麗に移した満天が透き通って見えていた。


「ふふ。二人のエレスティがやってくるのはもうすぐ。ジーン君の方はもう時間がない。彼はどんな選択をしてくれるかしら?……願わくは、この世界の理の破壊を」


 妖艶な顔を浮かべる彼女。とても美しい、聖女のような彼女が浮かべる表情は禍々しくも。

 どこかとても似合っていた。



この作品の更新を一旦停止して他の作品を更新する予定です。

そちらも日曜日に更新予定です。

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