↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亀の瀬異聞録  作者: こうた
第十二章 記録者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
122/228

第十話 本体層への扉

昭和十一年。



---


亀の瀬。



---


第三記録庫は静かだった。



---


だがそれは“終わりの静けさ”ではない。



---


“次の層が開く前の静けさ”。



---


朝倉誠司は立っていた。



---


足元の感覚はもう曖昧ではない。



---


むしろ、はっきりしている。



---


ここは現実ではない。



---


だが“現実より確か”だった。



---



---


少女が隣にいる。



---


白い着物。



---


だが以前よりも薄い。



---


存在が削られている。



---


「ここから先は……戻れない」



---


少女はそう言った。



---


朝倉は静かに答える。



---


「最初から戻るつもりはない」



---



---


その時だった。



---


空間の奥に“扉”が現れる。



---


扉というより。



---


境界。



---


紙が折れたような、空間の裂け目。



---


そこから音が漏れる。



---


カタ……



---


カタ……



---


タイプライターの音。



---


しかし誰も打っていない。



---



---


朝倉はその扉を見つめる。



---


「これが本体層か」



---


少女は首を振る。



---


「まだ違う」



---


「これは“前室”」



---



---


その瞬間。



---


扉の向こうから声。



---


複数。



---


重なり合う。



---


> 「記録者確認」





---


> 「侵入許可なし」





---


> 「再構築対象」





---



---


朝倉は眉をひそめる。



---


「また再構築か」



---


少女が叫ぶ。



---


「違う!」



---


「これはもっと深い!」



---



---


扉が少し開く。



---


中は見えない。



---


ただ“情報だけ”が流れてくる。



---


言葉になる前の圧力。



---


意味になる前の意志。



---



---


朝倉は一歩踏み出す。



---


その瞬間。



---


少女が掴む。



---


「行ったら“あなたが完成する”!」



---


朝倉は止まる。



---


「完成?」



---


少女は震えながら言う。



---


「記録は最後に“完成体”を作る」



---



---


扉の向こうから声。



---


静かに。



---


はっきりと。



---


> 「記録者は未完成」





---



---


朝倉は目を細める。



---


「やっぱりそうか」



---



---


少女が叫ぶ。



---


「まだ間に合う!」



---


「ここで戻れば……」



---



---


朝倉は首を振る。



---


「戻っても意味はない」



---


「俺はもう見た」



---



---


その瞬間。



---


扉が完全に開く。



---



---


中は空間ではなかった。



---


“構造”だった。



---


世界の設計図。



---


記録の骨格。



---


その中心に。



---


何かがある。



---



---


少女が震える。



---


「本体層……」



---


朝倉は息をのむ。



---


「これが……」



---



---


そこにあったのは。



---


巨大な“文字の塊”。



---


いや。



---


文字ではない。



---


“書く前の言語”。



---


“意味の根”。



---



---


その中心に。



---


“目”があった。



---


だが違う。



---


第九話の主とは違う。



---


もっと大きい。



---


もっと静か。



---



---


声が響く。



---


> 「構造確認」





---



---


朝倉は一歩踏み出す。



---


「お前が本体か」



---



---


返事はない。



---


代わりに空間が揺れる。



---


“世界そのものが応答している”。



---



---


少女が呟く。



---


「ここが……記録の起点」



---



---


朝倉は笑う。



---


「なら楽だ」



---


「ここを壊せば全部終わる」



---



---


その瞬間。



---


空間が反応する。



---


激しく。



---


一気に。



---



---


> 「破壊意図を検出」





---


> 「記録者の再分類開始」





---



---


朝倉の足元が消える。



---


存在が“解析”され始める。



---



---


少女が叫ぶ。



---


「やめて!」



---



---


しかし朝倉は動かない。



---


むしろ言う。



---


「解析されるなら」



---


「見せるだけだ」



---



---


そして。



---


一行を書いた。



---


空間そのものに。



---


「記録は破壊されても残る」



---



---


世界が止まる。



---


本体層が沈黙する。



---



---


そして。



---


初めて“揺れ”が起きる。



---


中心の存在が反応する。



---



---


> 「矛盾検出」





---



---


少女が息を呑む。



---


「効いた……?」



---



---


朝倉は静かに言う。



---


「効かせるしかないだろ」



---



---


その時だった。



---


本体層の奥から。



---


もう一つの構造が浮かび上がる。



---


より深い。



---


より古い。



---



---


少女の顔が青ざめる。



---


「まだ……あるの?」



---



---


声が落ちる。



---


静かに。



---


はっきりと。



---


> 「最深層へ移行」





---



---


朝倉は空を見る。



---


「まだ下があるのか」



---



---


少女は震えながら言う。



---


「そこは……」



---


「“書く前の世界”」



---



---


黒い雪が一粒。



---


今度は空間の中で生まれる。



---


そして。



---


消えない。



---



---


本体層が開く。



---


その奥。



---


最後の扉。



---



---


朝倉は言う。



---


「行くしかないな」



---



---


少女は小さく答える。



---


「うん……もう止められない」



---



---


扉が開く。



---


世界が“裏返る”。



---



---


そして。



---


朝倉誠司は最深層へ落ちる。



---



---


第十一話「書く前の世界」へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。