「“数学部で過ごした365+365+365日”──わたしを構成する証明」
プロローグ・入学式の朝、あの日のノート
高校に入学した日。
誰も話しかけてこない教室。
手帳の片隅に、凪はそっと書いた。
「証明できることは、たぶん少ない。
でも、“証明しようとした時間”は、残せるかもしれない」
月曜日・最終日、未来の自分に向けて
卒業から数日後。
凪はひとり、桜の咲き始めた校庭のベンチでノートを開いていた。
そこには、3年間の証明、記録、未解決問題たちが綴られている。
「わたしは、誰かの問いを“自分のもの”にして、
自分の問いを“誰かに伝えられる形”にしたかった」
ページの最後、凪は自分への問いを書いた。
「これから、あなたはどんな問いを考えていきたいですか?」
火曜日・「証明しきれなかったものたち」
高橋からLINEが届いた。
紅葉からも、写真が送られてきた。
それぞれの場所で、新しいノート、新しい数式、新しい問いと向き合っている。
そして、誰もがこう言った。
「まだ、証明しきれなかったことがある。
だから、前に進める」
凪はスマホを閉じて、自分のノートを見つめる。
水曜日・「わたしを構成する関数」
凪は書いた。
f(t) = わたしが“考え続けた時間”
その関数は、まだグラフも描けていない。
まだ具体的な式も定まっていない。
でも──
“定義域は、未来すべて”。
そして、始点は、あの春だった。
木曜日・ラストノート「私という証明」
最終ページに、凪は最後の数式を書く。
わたし = Σ(問い × 想い × 時間)
ノートを閉じて、春の風を感じた。
数学部ノート(凪)
■最終週/第124話
・「証明」は完了しない。“わたしという問い”が、続いていく
・数学部の3年間は、答えを出す時間ではなく、“問いと共にある時間”だった
・凪は、数学を「好き」で終えるのではなく、「生きていく視点」として受け取った
エピローグ・凪より
「私は、まだ途中。
答えもないし、完全な式にもなっていない。
でも、問い続けてきた時間だけは、確かに“私を構成している”。
そしてこれからも、私は“考えたい”と思う──
数学と、そして“わたし”と一緒に」
【終章:紅葉という観測者】
卒業の日、紅葉はひとり部室に残っていた。
机の上に開かれていたのは、凪が書き残したノート。
その文字列は、整然としていて、でもどこか揺れていた。
紅葉(心の声):
「数学って、不思議だよね。
凪はいつも、自分の中の問いに向き合ってた。
でも、あのノートを読んで、ようやくわかった気がする。
……彼女の“問い”は、わたしたちにも開かれてたんだ」
紅葉は、黒板の片隅にそっと書き加える。
「存在した、ただし唯一ではない証明」
扉を閉じる前、彼女はふと振り返って笑った。
「また、いつか“数学”で会おう」
その言葉が、教室に残った最後の式だった。