“答えがない日々”──春と、再会と、あと少しの式
月曜日・“答えが出た日”と出なかった日
結果が出そろった三月。
合格発表の終わったあと──合格、不合格、補欠、進学先未定。
それぞれに違う春。
紅葉:「わたし、受かった。けど……それで全部じゃない感じ」
高橋:「俺は滑り止め。第一志望は、届かなかった。でも、もう、行く先は決めた」
凪:「……私は、まだ、どこにも決めてない」
春の空の下、結果の有無が“それぞれの式”になっていた。
それでも、みんな、「自分の問い」を手放していなかった。
火曜日・“再会”という式変形
数週間ぶりに集まった3人は、地元の河川敷で並んで座る。
桜はまだ咲かない。けれど風の匂いは、冬とは違った。
高橋:「こうして集まるのも、もうあと数回か」
紅葉:「数学の話がしたい。…でも、したくないかも。不思議」
凪:「うん。……私は、数学から“受験”が取れた今が、ちょっとこわい」
紅葉:「でも、受験がなくなった今、ほんとの意味で“数学と向き合える”んじゃない?」
木曜日・「これからのわたしの問い」
再会後、それぞれがノートをひらき、そっとペンを取る。
それは「課題」ではない。
「宿題」でも、「入試問題」でもない。
ただ、「今の自分が考えたいこと」。
紅葉:
「“集合の余白”について考えたくなった。
存在しないものが、集合を変えていくって、不思議」
高橋:
「“確率と偶然”を、もう一度やり直したい。
あの1点差を、別の視点から見直したいから」
凪:
「“証明する意味”そのものを問いたい。
数学が“言葉にならない感情”を助けてくれた理由が、まだ知りたい」
金曜日・数学から、まだ離れない
それぞれの問いに、“解答期限”はない。
だけど、確かに“解きたい”と願っている自分がいる。
凪は、ノートの最初のページにタイトルを書いた。
「Post-Math──証明のあとに残ったもの」
「私は、まだ数学と一緒にいたい。
試験のためじゃなく、
生きていく上で“見失いたくない視点”として──」
数学部ノート(凪)
■高校三年生・第28週
・合否後の再会。“進学先”よりも、“問いの継続”に目を向ける週
・凪:「答えが出ても、出なくても、“考えたい”という意思だけが残る」
→ 数学を“終わり”にしない生き方が、ここから始まっていく